(財)大学コンソーシアム京都
第5回FDフォーラム第5分科会

教員から見た学生参画授業
―関西大学商学部基礎演習における実践―

1999年12月11日
関西大学商学部
長谷川 伸


  1. はじめに―なぜ学生参画授業を試みたか―
    1. 大学教師4年目。一昨年まで,導入期科目である基礎演習では1年間で論文を作成する参与型の授業,専門科目である中南米経済論では講義形式の授業を行ってきた。
    2. その中で痛切に感じられたこと
      1. 教育効果の増大を期待して教員が資料を準備をすればするほど(中南米経済論),詳細に時々の課題を指示すればするほど(基礎演習),教員は自ら準備した資料とシステムに埋もれて学生を見失い,学生は「やらされ,受身」になっていくこと。
      2. 本来楽しいはずの学びという営為が,学生も教員もつらいばかりで楽しくない。
    3. 「『出席』への点検や激励,表面的な『参加』のため,準備と後始末に追われてはいまいか。発信と交流という参加の理想は求めながらも,それを実現するためのしかけの不備が,理想を実現することのネックとなってはいまいか。良心的な教師は,この準備と後始末を,自ら背負い込んでしまって,くたびれ果ててはいまいか」(林義樹『学生参画授業論』,学文社,1994年,136頁)。私はまさにそうした閉塞感漂う状況にあった。
    4. 経済学教育学会(97年11月)での林義樹先生・参画理論との出会い→学生参画型採用へ
  2. 基礎演習におけるとりくみ
    1. 基礎演習の沿革
      1. 「基礎演習」は,1回生必修の導入期教育科目(通年)であり,1クラス40人台(20クラス)。
      2. 今年度の長谷川担当基礎演習の目標
        1. 学生自ら授業を企画運営することを通じて,組織的問題発見・解決能力を向上させる。
        2. 「学び」が集団的営為であり,自分探しの旅であるとともに文化的実践への参加であることを体感すること。
        3. 自分たちが本当に「面白い」「わかりたい」と思い,自分たちに「つながる」研究テーマを見つけ,グループで一つの作品を作り上げる。
    2. 学生参画授業のコンセプト→「学生参画授業とは」
      1. 今年度の重点キーワード:「参加」「振り返り」「記録」
    3. 学生参画型基礎演習を支えるシステム
      1. 林義樹先生の『学生参画授業論』(学文社,1994年)のツールとシステムを全面的に利用。
      2. アドヴァイザー
        1. 昨年度からの伝承を担う長谷川担当の基礎演習のOB(2回生)。学生参画型の基礎演習を体験している。ボランティアベース。恒常的に参加しているのは,4名(前期)。
        2. 受講学生が離陸するまで授業運営の中心的役割を担った(3回まで)。
      3. 感想ラベル(先・後)とラベルチャート
        1. 毎回,授業開始直後(先ラベル)と授業終了直前(後ラベル)にラベルを書く。
        2. 授業毎の感想ラベルによる授業ラベルチャート(場作りラベルチャート)(毎回)。
        3. 個人毎の感想ラベルによる学びのプロセスチャート(年2回)。→学びのプロセスチャートサンプル
      4. 5つの係と8つの班
        1. 係:幹事・進行・庶務・教材・書記・設営→「授業参加のための係編成(案)」
        2. 班:男女別々にくじ引きで編成。班の研究テーマの発見から始まる研究活動の単位(研究班)であると同時に,毎回の授業を企画運営する単位(運営班)。
      5. 運営班の役割
        1. 担当授業以前に幹事を交えて企画会議を行い企画書を書く。
        2. 当日の授業運営の中心的役割を担う。
        3. 担当授業終了後,授業ラベルチャートを作成する。
    4. 経過 →「1999年度基礎演習の経緯」
      1. 授業の時間の大半は,班の研究活動やクラス運営のための打ち合わせに使用している。研究活動自体はそのほとんどが夏休みを含めた授業時間外に行われている。
      2. 夏季休業中に,研究班での打ち合わせや現場取材(例:ドラッグストア,商店街)を行なうようになった。→活動報告サンプル
      3. 学生に対するアンケート調査も提案→アンケートを作成し自分たちのクラスで実施する班も。
    5. 評価
      1. 現場取材と学生向けアンケートにとりくませたことは,学生のやる気と責任を呼び起こし,班のまとまりもクラスの雰囲気も良くしている(開放系としての授業,社会が透けて見える授業)。
      2. 振り返りの重要性を折に触れて強調し,振り返りのための材料として,授業記録(毎回),授業ラベルチャート(毎回),学びのプロセスチャート(年2回),研究活動記録(年1回)を作成してもらった。特に学びのプロセスチャートは,学生はその作成過程で自らの足取りを再確認し,自分を再発見する。結果,研究レポートには現れにくい一人ひとりの学びと成長の軌跡がみごとに表現されるものとなる。単純な仕組みでありながら振り返りのツールとして強力である。
      3. 学生参画型を採用することで,担当教員の側に残る学生不信が生み出す成果主義的傾向や請負主義的な傾向による足枷にもかかわらず,学生集団の巨大な学びのエネルギーを引きだすことができ,学生に学びの姿勢と方法を獲得させることとなった。
      4. 学生参画授業とは学びの営みをまるごと実現するものであり,実は学びを目的とする場たる授業の本来の姿ではないのか。
      5. 授業評価と成績評価との関係
    6. 課題
      1. 授業時間外の活動に対する理解と工夫への一層の努力が必要
        1. 面白いという動機と,授業準備のための時間を正々堂々と要求することが必要。
      2. 教員・アドヴァイザーによる関与の適切な深さの見計らいの難しさ
        1. 試行錯誤するほかない。教員・アドヴァイザーの教育ともなっている。


※学生参画授業を知るための文献


長谷川担当の基礎演習はいつでも見学歓迎です。見学される方は事前に連絡を下さい。

mailto:shin@ipcku.kansai-u.ac.jp
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~shin/


Author: Shin Hasegawa
E-mail: shin@ipcku.kansai-u.ac.jp
Last Updated:.