長谷川 伸
原料炭 |
鉄鉱石 | |
ブラジル* | 96.0% |
- |
韓国 | 100.0% |
98.4% |
日本 | 100.0% |
100.0% |
|
この発展途上国鉄鋼業の両巨頭といえる韓国とブラジルは,興味深いことに,その原料供給条件において大きく異なっている。表1に見るように,韓国は基本的に鉄鉱石・製銑用石炭(原料炭)を有せず双方を輸入に依存し,日本と原料供給条件を同じくしている2)。これに対してブラジルは,石炭こそ輸入依存だが3),鉄鉱石については鉱山を有し自給している4)。
それに留まらずブラジルは,表2に見るように世界最大級の鉄鉱石輸出国であると同時に,その鉄鋼業は国内市場から生ずる鉄鋼需要を基本的に賄った上に,生産量の6割以上を輸出している。世界全体の鉄鉱石輸出の6割はブラジルとオーストラリアによって占められ5),両国はこの表を見る限り類似点が多いが,オーストラリアはブラジルの粗鋼生産量で3割,鉄鋼製品輸出量で2割に過ぎない。中国と旧ソ連はブラジルと同規模かそれ以上の鉄鉱石生産を行っているが,輸出量・率は低水準にある。鉄鋼製品については,旧ソ連は輸出率で4割を越え,輸出量ではブラジルの2 倍以上であるものの,輸入依存度も2割近くある。中国は輸出率はごくわずかであるのに対し,輸入依存度は3割近くになっている。
ブラジル |
中国 |
旧ソ連 |
オーストラリア | ||
鉄鉱石 |
Fe% (a) | 68 | 50 | 60 | 64 |
生産 (b) | 153,100 | 226,352 | 152,500 | 121,429 | |
(a) x (b) | 104,108 | 113,176 | 91,500 | 77,715 | |
輸出 | 111,861 | ... | 29,300 | 111,003 | |
輸入 | ... | 33,020 | ... | 721 | |
輸出率 | 73.1% | 0.0% | 19.2% | 91.4% | |
粗鋼生産 |
25,155 | 88,679 | 95,739 | 7,830 | |
|
輸出 | 12,237 | 1,257 | 28,515 | 2,689 |
輸入 | 194 | 36,640 | 15,525 | 801 | |
見掛消費* | 10,942 | 129,379 | 80,810 | 5,734 | |
輸入依存度** | 2.3% | 36.8% | 25.0% | 18.2% | |
輸出率*** | 63.2% | 1.8% | 38.7% | 44.6% | |
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これを歴史的に見てみると,30年程前すなわち63年時点では,鉄鉱石生産国の上位5ヶ国は,ソ連,アメリカ,フランス,カナダ,中国となっており,今日とは違って先進資本主義国が多く含まれているのが特徴的であった。インドは7位,ブラジルは10位に過ぎず,双方とも,鉄鉱石の輸出率は現在とほぼ近似し(ブラジル63年 73.1%―93年63.2%,インド63年47.9%―93年56.4%)また,鉄鋼製品の輸出率は1%以下,輸入依存度は10%以上(出超)であった6)。ブラジルは単なる鉄鉱石生産国から,鉄鋼生産・輸出国に成長を遂げた鉄鉱資源保有国と言えよう。
こうして見ると豊富な鉄鉱資源を有していても,鉄鋼製品需要を満たすだけの鉄鋼生産能力および技術水準の双方かいずれか一方を持ち合わせていない場合は多いが7),ブラジルのように大量に鉄鉱石を輸出しながら鉄鋼製品を自給するだけでなく大量に輸出する国は他にはない。ブラジルのこうした地位は,鉄鉱資源の優良豊富さと生産技術水準の一定の高さの結果と考えられる。本稿の課題はこれを立証することにあるが,このことは同時にブラジルとその鉄鋼業が,鉄源問題をめぐって全世界的に鉄鋼業の生産と競争の構造が再編成されつつある今日,鉄鉱石という鉄源を有する国としていかなる展開がありうるのかを解き明かす第一歩ともなるものである。
以下,まずブラジルにおける鉄鉱資源についてその特徴と鉄鋼生産への影響を明らかにする。次にそうした下でのブラジルの鉄鋼生産技術を日本鉄鋼業と比較しつつ検討して,もって<世界最大級の鉄鉱石輸出国かつ鉄鋼製品自給国かつ鉄鋼輸出国>という他に類例を見ない地位を支える鉄鉱石資源と鉄鋼生産技術の全体像を得たい。
第1節 鉄源問題と鉄鋼業の競争構造
ブラジルをはじめとする発展途上国の鉄鋼業の将来を展望する場合,世界的に台頭しつつある電炉メーカー,とりわけ先進資本主義国でのそれの動向に注意する必要がある。従来の電炉系列の技術では,その製品構成を事実上非鋼板に限定せざるを得なかったが,最近では薄スラブ連続鋳造機の開発・実用化に代表される技術進歩8)によって,アメリカにおけるニューコア9),日本における東京製鉄に示されるように,ホットコイル(熱延広幅帯鋼)10)の生産も電炉メーカー特有の低コスト生産が可能になっている。ホットコイルまで生産すると,電炉メーカーの製品構成は,発展途上国鉄鋼業が先進資本主義国に輸出しえているそれにより近くなる。したがって彼らは発展途上国鉄鋼業が供給可能な製品市場のより多くの部面で競争相手として現れてきているのである。
この発展途上国鉄鋼業と電炉メーカーとの競争を展望するためには電炉メーカーの鉄源問題,すなわちスクラップをめぐる問題をまず検討しなければならない。現在,スクラップの品質と要求される製品品質のギャップの拡大が問題となっている。つまり,一方で非鋼板よりも高い鋼板の要求品質を満たすためにはさらなる製鋼技術の向上とスクラップ原料選択が求められ,他方で先進資本主義国で発生するスクラップの主体である老廃屑の品質劣化が進行しているという問題である。前者の問題は,鋼板市場に参入する限り避けられないが,後者の解決手段として有望視されているのは,鉄としての純度の高い還元鉄や銑鉄による希釈法である11)。したがって今後還元鉄・銑鉄によるスクラップの電炉用鉄源の代替が進行すると考えられるが,いずれにしろ電炉メーカーの台頭=生産量増加にともない,高品位スクラップの逼迫が懸念されている12)。これは電炉メーカーにとっては原料条件の悪化・生産コストの上昇を意味しており,その競争相手である発展途上国鉄鋼業にとってはこの事態は有利に作用し,生産コスト如何で先進資本主義市場においても一定のシェアを維持しうると考えられる13)。
さらに,この鉄源問題の解決手段である還元鉄・銑鉄による電炉用鉄源の代替は,鉄鉱資源を有する国にとって有利に作用する。なぜなら鉄鉱石を鉄源とする高炉メーカーに挑んできた電炉メーカーも次第に鉄源を,鉄鉱石を原料とする還元鉄・銑鉄にシフトさせることになるからである。しかし,その鉄鉱石も,品質及び生産コストが問われなければならない。
第2節 鉄鉱資源の諸特徴
ブラジルは,世界における鉄鉱石埋蔵量1960億トンの19.9%を占め第2位14),鉄鉱石生産高8億5596万トンの18.0%を生産する世界第3位の鉄鉱石生産国である15)。表3 に見るように,ブラジルは優良な鉄鉱床を有しているが,なかでも注目されるのが,イタビラをはじめとする「鉄の四角地帯」(Ferrous Quadrilateral)16)と,86年から出荷を開始したカラジャス(Carajas)である。いずれの鉱山も被還元性の高さ,不純物含有率の低さなどにより,製鉄原料として最適とされる17)赤鉄鉱(Hematite,主成分Fe2O3)を産出する。しかも高品位であるため,選鉱(鉄分を60-65%に高める),及びペレタイジング(粉状の鉱石を小球状にする)の工程を省略できる点18)でも,コスト的に有利である。こうしたブラジル鉄鉱石の品位の高さは,国際比較することによりいっそう際だつものとなる(表4)。この表によれば,ブラジルは鉄分は概ね高く,低い程良い燐,硫黄,アルカリの含有量はブラジル3銘柄全て他国銘柄よりも低い。
以上のように,ブラジルの鉄鉱資源は,生産量・埋蔵量の双方とも豊富かつ品位も高く,したがってその鉄鉱石生産は国際的に見ても,コストと品質の双方で極めて有利であると言える。
第3節 製鉄所立地と鉄鉱石コスト
ここでは鉄鋼業にとって最も重要な立地条件である鉄鉱石供給条件に注目して,それとブラジル鉄鋼業との関係を明らかにしよう(図1)。
ブラジルの鉄鋼生産の94.6%は,ミナスジェライス州(37.8%),リオデジャネイロ州(23.7%),サンパウロ州(18.8%),エスピリトサント州(14.3%)の南東部 4州で占められている19)。例えばCSNは軍事的立地とも言いうる設立事情20)があり,木炭高炉メーカーについては木炭立地とも言いうるが,鉄鉱石供給条件と製品市場条件とに分けて主要高炉メーカーを類型化すると,鉄鉱石立地39.5%(Usiminas, Acominas, Acesita, Belgo Mineira, Mannesmann),国内消費地立地36.7%(CSN, Cosipa, Cosigua),臨海立地23.8%(CST, Cosipa)となる21)。鉄鉱石立地型と国内消費地立地型は各々4割を占め,臨海立地型はCosipa, CSTの2社で2割を占めている。こうした主要高炉メーカーは先述の「鉄の四角地帯」とリオデジャネイロやサンパウロ等の消費地の間に立地し,鉱山とは鉄鋼鉄道などで結ばれている。カラジャス鉄鉱山は製鉄所立地とは基本的に関係なく,その鉄鉱石はほぼ全量輸出されている22)。
一般に,原料の海外依存度もしくは製品市場の海外依存度(製品輸出率)の高い製鉄国ほど臨海立地率は高まる23)。表2に見たようにブラジル鉄鋼業はその生産量の6 割以上を輸出するに至っているが,臨海立地率は高くない。政策的には70年代から輸出が志向され,その一環として建設されたCSTは当然臨海立地となっているが,その後の政府による設備投資削減により,CST以降新設された大規模製鉄所は皆無という事情が,この臨海立地率の低さを説明している。このCSTは立地的にもブラジル鉄鋼業の輸出志向を象徴している点で注目に値し,鉄鋼製品輸出においては Cosipaと併せて重要な役割を今後も果たしていくものと思われる24)。
ブラジル鉄鋼業が鉄鉱石供給条件に恵まれていることは,コスト構成からも看取できる。一級冷延薄板の出荷トン当たりの鉄鉱石コストは,ブラジルは18ドルであり,西ドイツ・日本・アメリカ合衆国・カナダの4割から6割にすぎない25)。逆に言えば,鉄鉱石の群を抜くコストパフォーマンスはブラジル鉄鋼業の競争力の源泉の一つと見なすことができよう。
第1節 技術比較にあたっての若干の問題
一国の産業の生産設備・技術の技術水準と特徴は他国と比較することによって明らかにしうるが,そのためにはまず適当な比較対象が必要である。ブラジル鉄鋼業の場合,それは日本鉄鋼業に求めらる。なぜならば,日本鉄鋼業は世界最高の技術水準にあるからであり,またブラジル鉄鋼業は50年代のUsiminas以来今日まで,日本鉄鋼業から技術導入を行ってきた関係で,技術水準を比較しやすいからである26)。
日本鉄鋼業と比較する場合,注意しなければならないことは,木炭高炉メーカーが鉄鋼生産において無視できない地位を占めていることである。ブラジルの92年における粗鋼生産(2393万トン)の事業類型別内訳は,銑鋼一貫メーカー86.2%( 2064万トン),電炉メーカー11.8%(282万トン),直接還元炉メーカー2.0%(47万トン)となっているが,実はこの圧倒的な銑鋼一貫製鉄所のうち2割(全体の16.6 %)が熱源および還元剤として木炭を用いている27)。この木炭高炉メーカーの地位は世界的に希でブラジル鉄鋼業の特殊性なのであるが,それ故に他と単純に産業全体の技術水準を比較することはできない28)。また資料制約上から電炉メーカーについても除外せざるをえず,したがって本稿における比較検討はコークス高炉による銑鋼一貫メーカーに限定される。このコークス高炉による銑鋼一貫メーカーは,93年現在5社(CSN, Cosipa, Usiminas, CST, Acominas)であり,ブラジル全体の粗鋼生産高の7割,1737万トンを占め支配的な地位にある。
また,生産技術の全体像を他と比較して検討するという方法を採るために,各生産部門の主たる設備に検討対象を限定し,入手可能な各種生産指標を通じての分析が中心となり,したがってブラジルのコークス高炉メーカーが技術・設備面では,日本のそれの発展経路を後追いしていることを仮定している。
以上の諸点に留意しつつ,以下先述5社を中心に,製鉄所単位で見たパフォーマンスを明らかにし,章を変えて生産設備・技術について部門毎に規模と操業技術の2点から考察し(III〜V),生産設備の国産化・研究開発活動について検討する( VI)。
第2節 スケールメリットとエネルギー経済性
表5に見るブラジルにおける最大規模の製鉄所はCSNの460万トンであるが,この規模の製鉄所が日本において最大であったのは,60年代後半のことであった。最近では,製鉄所規模よりもどのような技術によって製鉄所が構成されるかの問題の方が重視されており29),ここでは最低必要規模を上回っているか否かの検証に留める。この表によれば,コークス高炉メーカー5社は,100-200万トン規模1社,300-400万トン規模2社,400-500万トン規模2社となっている。製品の種類を限った場合の製鉄所の最低必要生産規模とされている年間粗鋼生産能力300万トン30)を上回っているのは,したがって5社中4社である。
一般に生産におけるエネルギー節約,エネルギー経済性の追求はコスト削減のための当然の課題であり,粗鋼トン当たり熱消費量で評価しうる銑鋼一貫製鉄所のエネルギー経済性31)は,製銑・製鋼・圧延等部門毎のエネルギー経済性と,その各部門がエネルギー的にどの程度結合されているか32)によって決定される。
まずエネルギー経済性の基本指標であるエネルギー消費原単位を見てみよう。ただし,資料制約上,ブラジル鉄鋼業全体あるいはコークス高炉メーカー全体のデータではなく,Usiminasのそれに限られるが,Usiminasはブラジルで最も成功している製鉄所の一つであり,比較対象にしうる。
90年現在,粗鋼1トン当たりのエネルギー消費原単位は,Usiminas:6,144 Mcal/t,日本全体:4,402Mcal/tとなっている。これを見る限り,エネルギー消費原単位は,世界最高水準にある日本鉄鋼業の平均値と比べるとUsiminasは1.4倍も大であり33),ブラジル全体と比較すればおそらくもっと格差が生じるであろう。石炭を輸入に頼らなければならない事情は,日本もブラジル(コークス高炉メーカー)も同じである。したがってブラジルにとってもエネルギー経済性の追求は,石炭資源国よりもインセンティブが相当強いはずであり,CDQ(Coke Dry Quenching,コークス乾式消火設備)の設置をはじめとした副生ガス回収や工程の連続化等によるエネルギー節約は今日のブラジル鉄鋼業の課題であろう。
エネルギー経済性の改善は,工程省略等による直接的なエネルギー消費量の削減及び,排エネルギーの回収利用の両面で追求されている34)。ここでは排エネルギー回収利用技術で最も成果を上げているCDQについて検討しよう35)。コークス炉で石炭を乾留する際,装入炭トン当たり約60万kcalの熱量が消費されるが36),CDQは従来散水によって冷却していた赤熱コークスを不活性ガスで冷却し熱回収をすることにより,コークス乾留熱量の約4割に相当するエネルギー(20-30万kcal/t)を回収する省エネルギー効果の大きい設備である37)。日本鉄鋼業におけるCDQは,76年にソ連から技術導入を行って,1350トン/日の標準型が新日鉄八幡製鉄所とNKKに設置したものが最初である。79年の第2次石油危機以降,エネルギー価格がますます高騰したため,CDQの設置が進み,今日日本では4800トン/日の大型CDQも建設され,92年現在 34基のCDQが稼働し,全高炉用コークスの65%が処理されている38)。ブラジルにおいては現在CDQを採用しているのは,稼働当初(83年)から使っているCSTのみである。CDQの初導入された時期を見れば10年未満の格差であるが,その後普及しておらず,未だにCST1社1高炉に留まっている点では20年程度の開きがあると言える。
第1節 高炉の規模
高炉メーカーにとって,製銑部門における技術水準の第一の指標は高炉の容積である。表6によれば,ブラジルのコークス高炉の容積(Working Volume)は,885m3 から3707m3まで分布しており,54年から83年にかけて火入れしている。高炉容積は日本においては Total Volume ,ブラジルにおいては Working Volume で算出されているので注意が必要であるが,ブラジル最大の高炉であるCSTのそれは Working Volume 3,707m3 に対して Total Volume 4,415m3であり,この規模の高炉が日本で最大であったのは,70年代前半のことであるから,およそ20年の開きがあると言える39)。
第2節 作業効率と操業技術
高炉容積の次に問題となるのは作業効率であが,その指標のうち最も重視されるのはコークス比・燃料比(銑鉄1トンを生産するのに必要なコークス・燃料重量)である。ブラジルにおけるコークス高炉メーカーの92年時点での燃料比514kg/t(コークス比505kg,重油比9kg)となっている40)。93年現在,日本鉄鋼業の高炉メーカーの燃料比は514kg/t(コークス比427kg,微粉炭比85kg)であるから,ブラジルと日本の高炉の作業効率は,燃料比からみると同水準にあるように見える。しかし,コークス比における78kg/tの格差からわかるように,事態はそう簡単ではない。これを比較し技術水準を推し量るためには,この格差に関わり高炉操業技術の重要な位置を占める複合送風技術について触れておかなければならない。
高炉においては,銑鉄生産量の増加,コークス比(燃料比)の低下,操業の安定化を目的として,羽口から加熱送風するだけでなく,送風に酸素や水蒸気を添加したり,重油,天然ガスなどの補助材料を吹き込まれている41)。これらの送風の条件を調節して操業することを複合送風と言うが,この技術は,今世紀初めの乾燥送風に始まり,その後調湿送風,水蒸気添加,重油吹き込みを経て,PCI (Pulverrized Coal Injection,微粉炭吹き込み)に至っている。日本においては,PCIは81年新日鉄大分製鉄所第1高炉に設置されたのが最初で,92年5月現在,32基中26基の高炉でPCIが採用され,銑鉄トン当たり平均70kgの石炭が吹き込まれている42)。これに対しブラジルでは,コークス高炉メーカーでは10基中3基(Usiminas),木炭高炉メーカーでは Acesitaに導入されているに過ぎず,現在導入の動きが広がっている段階である43)。 UsiminasにおいてPCIは93年に開始され,94年10月時点での銑鉄トン当たり微粉炭比は第1高炉101.5kg,第2高炉122.1kg,第3高炉98.8kgとなっている44)。
こうして見ると,PCIの導入時期では日本との間にはおよそ10年のギャップがあることが推察される。先に見たブラジルのコークス高炉メーカーの重油比9kgは重油吹き込みが行われていることを示しているが,これは日本鉄鋼業にとっては,70年代末の第2次石油危機による石油価格上昇と供給の不安定化を契機に消滅したものであって,ブラジルのコークス高炉メーカーにおいては一世代前の複合送風技術が支配的であるということである。
第3節 自動化
高炉操業の自動化に関しては,CSTにおいては当初から川崎製鉄が開発したGo- Stopシステムが採用され,高炉操業の安定化が図られている。川崎製鉄では70年代半ばから稼働しているこのGo-Stopシステムは,幾つかの炉況判定用のデータを選び,それぞれ設定した境界値との大小から点数をつけ,さらに重み付けを加算して総合した点数をもとにオペレータに3段階のアクション指示を行うというもので,操業者の経験的知識もベースにしていることからエキスパートシステムのはしりといえるものである45)。
第1節 製鋼法
現在の製鋼法別内訳を見るとブラジルでは93年現在,転炉78.3%,電炉20.0%, EOF1.8%となっている一方,日本では転炉68.8%,電炉31.2%となっている46)。製鋼法の歴史的趨勢は,転炉鋼が平炉鋼を代替していき,その後に電炉鋼が台頭するという経過を辿るが,ブラジルで60年代に7割近くを占めた平炉鋼は,その後急激に減少し90年代初めに消滅している47)。日本では72年時点で転炉比率79.4%,平炉比率2.0 %であったが,ブラジルでこの水準に至ったのは,転炉では92年,平炉では87年である。また,日本で70年代後半から80年代前半にかけて生じた電炉鋼による転炉鋼の代替過程48)は,ブラジルではまだ現れていない。この2点から,製鋼法においては 15年から20年の格差があると推測される。
第2節 転炉の容積と形式
転炉部門の技術水準を推し量る指標としては,転炉の容積,形式及び制御技術が重要である。表7によれば,ブラジルは200トン/回以上の転炉は生産能力で5割を占めて主力となっているが,これを日本及び韓国と比べると,小規模転炉が目立つ。全体の生産能力は同一水準にある韓国と比較すると,200トン/回以上の転炉が韓国においては9割を占めているのに対して,ブラジルは5割に満たない。このことから,転炉の大型化が課題となっていることがわかる。またブラジルで最大容積の転炉は,CSTの転炉2基(280トン/回)であるが,このクラスの転炉が日本において最大であったのは,70年代末のことである49)。このCSTの転炉は83年に稼働しているから,その当時では5年程度のタイムラグであったのが,その後10年以上記録が更新されていないので,15年以上のタイムラグとなっている。
転炉の本来的機能である溶銑精錬技術は,鋼材の高級化(高純度化,高清浄度化)と高品質材の大量処理技術と大幅コスト削減の要求に応えるために,上底吹き転炉法と溶銑予備処理,二次精錬法による精錬機能の分割化を中心として発展し,今日の<溶銑予備処理(脱硫・脱珪・脱燐)―上底吹き転炉―二次精錬(脱ガス・脱硫)>の製造体系の確立にいたっている50)。したがって,製鋼部門の技術水準は,精錬機能分化の進捗度,溶銑予備処理率,二次精錬処理率,上底吹き転炉(複合吹錬転炉)の普及度等によって推し量ることができるが,ここでは製鋼部門の中心をなす転炉について,その複合吹錬の普及度について検討する。
この複合吹錬炉が日本で初めて工業化・導入されたのは77年,川崎製鉄のQ-BOP である。これが契機となり,各社が一斉に上吹き転炉から複合吹錬転炉への転換が進展し51),現在日本においてはその83%が複合吹錬転炉である52)。一方ブラジルでは,この複合吹錬転炉はまだ少数派であり,UsiminasとCSTにLD-KGC53)が,Belgo MineiraにLD-LBE54)が導入されているに過ぎない。複合吹錬転炉の合計年間生産能力は857万トンであり,転炉全体の生産能力の42.0%に留まっている。
第3節 操業技術―転炉吹錬制御
転炉吹錬制御方式として,UsiminasとCSTではサブランス・ダイナミックコントロール55)が用いられている。このうちUsiminasで82年12月に稼働56)をみた第2転炉について見てみると,導入前の82年11月には60%に満たなかった同時的中率57)が83年末には90%を越えるに至っている。この技術は,新日鉄が73年に世界で初めて開発し導入したもので,Usiminasのそれも新日鉄から導入されたものである58)。この導入時期からすると約10年の開きがあることになるが,同時的中率で90%を越えるのは同じ 80年代初頭である。このことは,「確立された技術」を導入し得たことを推測させる。
第4節 二次精錬
製鋼炉で精錬された溶鋼の成分を厳密に調整することを目的に,製鋼工程の後にさらに精錬することを二次精錬という。二次精錬法には,溶鋼中の介在物の浮上を助けることや添加剤を溶鋼中に均一に分散させることを目的としたガス撹拌法,脱ガスや脱炭を目的とした真空ガス法,脱燐,脱硫,高清浄度,温度制御を目的とする溶鋼加熱精錬法などがある59)。
5社に導入されているのは,真空ガス法の一種であるRH法である。RHはUsiminas (77年導入),Acominas(78年),Cosipa(80年)等と70年代後半から導入されている。RH法は西ドイツにおいて58年に開発され,日本では63年,富士製鉄広畑製鉄所に導入されたのが最初であるから60),ブラジルとは15年ほどの差があることになる。ただしUsiminasは88年に西ドイツのMAN-GHH社と提携して,米国のLTV Steel 社のIndiana Harbor製鉄所の真空ガス設備RH設置に際して技術援助を行うに至っていることからすると61),この技術の移転には成功したと思われる。
第5節 連続鋳造設備
連続鋳造法は,生産性・歩留まり・省エネルギー・省力化・建屋面積等,多くの面でこれまでの造塊―分塊圧延法より格段に優れている62)。これが第2次大戦後の鉄鋼生産における二大技術革新の一つといわれる所以だが,この連続鋳造法は現在ブラジルにおいて,主要な鉄鋼企業のほとんどで採用されており,木炭高炉によるものも含めた銑鋼一貫メーカーで採用されていないのは,CSTとAcominasだけである。にもかかわらずブラジル鉄鋼業全体の連続鋳造比率58.5%(90年)となっているのは,製鉄所単位で見た連続鋳造比率が低いからであるが,この製鉄所単位で見た連続鋳造比率は,CSN92%(92年),Usiminas88.8%(90年)63)と高い製鉄所がある一方で,同じコークス高炉メーカーCosipaが33%(87年)64)であるなど製鉄所によってかなりのばらつきが生じていると推測される。いずれにしてもこの数値は, 93年現在95.7%を記録している日本鉄鋼業で言えば,80年時点のもの(59.5%)であるから65),10年の差があると言える。
第1節 圧延設備の規模・形状制御技術
ここでは現在の鉄鋼業における圧延部門の基軸的設備であるホットストリップミル(HSM)66)について検討しよう。ブラジルにおけるコークス高炉メーカーのうち,HSMを所有しているのは,CSN(2基),Usiminas,Cosipaの3社4基であり,合計年間生産能力は884万トンである。このうちブラジル最大のものはCSNの1基(年間生産能力320万トン)である。この能力水準のHSMが日本において支配的であったのは,63-68年のことであり67),この点から言えば30年前後の格差が生じている。
鋼板の重要な寸法形状品質に平坦度と板クラウン,エッジドロップなどの断面板厚形状が長手方向の板厚品質とともにあげられる68)。平坦度・クラウン品質に対する要求は,需要家における加工素材の歩留向上や自動化・省工程のニーズにより年々厳しくなる傾向にある69)。これに対して現在ブラジルにおいてはUsininas(80年稼働70))及びCSNに冷延用にHC(High Crown)ミルが導入されている71)。このHCミルは,日立製作所が74年に鉄鋼用冷延圧延機として開発したもので,ロールベンディング(ロールを胴長方向にたわませる)機能の向上を図るロールシフト圧延機の一種であり,6段式圧延機の上下一対の中間ロールを軸方向に互いに逆方向にシフトし,ワークロールベンディングの効果を大幅に向上させたものである。平坦度・断面板厚形状制御技術は,HCミル開発後さらに,ロールクロス,クラウン可変ロール,ロール冷却と多様化・発展し実用化されている72)。したがってブラジルでは平坦度・断面板厚形状制御はまだ緒についたばかりで,日本とおよそ20年の開きがあると言える。
第2節 連続化・自動化
CSNには新日鉄からCAPL(連続焼鈍設備)の導入(78年4月契約73))されている。これは,(熱間圧延)→酸洗→冷間圧延→洗浄→焼鈍→調質圧延→精整からなる冷間圧延薄板の製造工程の洗浄以降を連続化したものである74)。新日鉄君津製鉄所で CAPLが稼働した72年から10年程度経過している。
第3節 表面処理部門
表面処理部門において注目されるのが,ブラジルでは初めての93年10月から稼働したUsiminasの電気亜鉛メッキライン(EGL,年間生産能力36万トン)である。この電気亜鉛メッキラインは現在20%の稼働率に留まっているが,95年中には30-40%になる予定であり,3年以内にフル操業にはいると見られる75)。この新設備は Usiminasが表面被覆鋼板の生産に参入することを意味すると同時に,これまで熱漬メッキ法のみで行われていた亜鉛メッキ鋼板生産への電気メッキ法の導入は,ブラジル鉄鋼業にとって一つの前進を意味する76)。
第1節 設備国産化と研究開発
表8に見るように,鉄鋼生産設備の自給率は上昇傾向にあり,ブラジルの資本財産業は85年時点で主要設備は90%以上は自給可能とされている。しかし表に見る高炉,連続鋳造機,板圧延機といった基幹設備については生産はできても,その設計は外国企業に依存している。今日進んでいる設備投資をみても,主として日本を始めとする先進国からの技術導入によって行われ,導入に際しては「確立された技術」を求める傾向にある77)。
こうした技術導入に対する姿勢は,後述の設備投資計画に見られるように当面続くものと見られるが,これに鉄鋼業における研究開発活動水準が照応している。すなわち,Usiminasのリサーチセンター長が言うように,研究開発活動の重点は生産性や歩留率の上昇とコスト削減に置かれている78)。つまりブラジル鉄鋼業の研究開発活動はこうした製造技術(マニュファクチャリング)水準79)に留まっているのである。だからこそ,主要設備の設計は外国企業に依存しなければならないのである。したがって,技術開発を製造技術水準から生産技術(エンジニアリング)水準に引き上げることが,今日のブラジル鉄鋼業の研究開発活動の課題と言えよう。
第2節 設備投資計画
90年代のブラジル鉄鋼業の設備投資の特徴は,目的別では環境保全+既存設備整備が大きくそれに加えて,生産能力拡張・高付加価値化がある。部門別投資内訳では圧延部門に重点が置かれ,例えばUsiminasの投資計画(95-97年)においてそれは 49.0%を占め,Cosipaの「技術近代化計画」(98年まで)の主要設備投資案件21件中 18件が圧延部門,投資額で見ても圧延部門が74.0%を占めている80)。部門毎と目的内訳は概ね,原料部門―環境保全,製銑部門―環境保全+コスト削減,製鋼部門―高付加価値化+環境保全,圧延部門―高付加価値化+生産能力拡張という対応関係にある。
以下,主要な計画を部門別に整理してみよう。まず製銑部門では,CSTと Usiminasにおいて高炉ないし製銑設備導入81),CosipaにおいてはPCI導入が計画されている。製鋼部門においては,Cosipa第2製鋼工場の自動化,取鍋精錬炉による鋼浴温度・成分の調整82),CSTの二次精錬設備IR-UT(住友金属工業製)導入83)等,品質向上のための投資が目立つ。
連続鋳造部門では,CSTにおいて連続鋳造機の導入が進行中であり84),これが稼働(95年中に稼働予定)すれば年産能力は200万トンだから,一気に10ポイント程度上昇して70%に接近するであろう。また現在,CSNにおいては第1連鋳機(年産能力 120万トン,75年稼働)を年産能力220万トンのスラブ連鋳機へのリプレースが進行中であり85),これが稼働した暁には100%連鋳がほぼ可能となるはずである。さらに Usiminasでは96年から97年にかけてスラブ連鋳機改造を行い,97年には連鋳能力480 万トン,100%連鋳となる予定である86)。これだけでブラジル鉄鋼業全体の連鋳率は 70%を越えるであろう。また,現在CSNがブラジルで初めての薄スラブ連鋳機(年産能力220万トン)の導入を計画していることが注目される87)。欧米の電炉メーカーで稼働したばかりの薄スラブ連鋳機は加熱炉・粗圧延を省略できるもので,この計画が実現すれば,ブラジル鉄鋼業の技術水準にとって画期的なことになる。
圧延及び表面処理部門において,Usiminasでは第2冷延ミル増設が検討されており,Cosipaでは加熱炉自動化,AGC(Automatic Gauge Control,自動板厚制御)の改善,酸洗ラインの新設等,自動化と品質向上のための投資が目立つ。CSNでは4年間で亜鉛メッキ生産能力を年間57万トンから64万トンへ拡張する88)。
こうした設備投資で粗鋼生産能力がどの程度拡張されるのかについて整理すれば,Usiminasが2002年を目途に100万トン増強89),CSNが現在の生産能力(460万トン)を98年までに510万トン,2000年には600万トンにする計画がある90)。この生産能力拡張もブラジル経済にとっては輸出する鉄鉱石を鋼材に代替していく広義の「高付加価値化」である。
こうした設備投資の特徴を,現在の生産設備と照らし合わせて見ると,CDQ・ TRT等による消費エネルギーの削減が依然課題となっていることがわかる。またエネルギー節約・コスト削減・リードタイム短縮につながる圧延部門の工程省略・連続化についても,これからの課題と思われる。
以上検討してきたブラジルにおける鉄鉱石供給条件と鉄鋼生産技術について総括し,ブラジルが<世界最大の鉄鉱石輸出国かつ鉄鋼製品自給国かつ鉄鋼輸出国>であり得た要因を考察して結びに代えたい。
ブラジルにおいて,その鉄鉱石の品質は世界最高水準にあり,またその生産量及び埋蔵量から言っても五指にはいる地位にあり,鉄鉱石供給条件としては最高の水準にあると言える。そして,ブラジルのコークス高炉メーカーの生産技術は主として,日本鉄鋼業が20-30年前に採用していたものである。このことは一見すると,鉄鋼製品輸出国としての国際競争力の水準と矛盾するように見える。確かに,ブラジルのコークス高炉メーカーの主要設備は80年代のドラスティックな投資削減91)の下で,概して老朽化が進んでいる。このこと自体は競争力にとってマイナスであるにもかかわらず,なおもブラジルが国際競争力を有しているのは,なぜか。それは第1 に鉄鉱石の供給条件が抜群に優れていること,第2に,日本に対してホットコイルを輸出することに象徴されるように,現在のブラジル鉄鋼業がコスト面で優位に立つ熱延製品を中心とした輸出構成であること,が指摘しうる。
ではなぜ熱延製品が等がコスト面での優位に立ちえたのか。それはVIで触れた「最新の技術ではなく確立された技術を求める」政策が功を奏して,少なくとも10 年前の時点では,採用された技術がブラジルの諸条件に適合的,すなわち「適正技術」92)であったことがあるのではないか。この仮説の検証は,今後の課題としなければならない。
1)『日本経済新聞』1994年5月11日付。だからといって日本鉄鋼業が全面的に国際競争力を失ってしまったわけではない。これは,三菱が採用に踏み切ったのは造船用厚板の一部であることからわかる。日本鉄鋼業の技術水準・製品品質は現在でも世界最高であり,他の追随を許していない。この点については,清 一郎「曖昧な発注,無限の要求による品質・技術水準の向上」中央大学経済研究所『自動車産業の国際化と生産システム』,中央大学出版部, 1990年を参照のこと。ただ,競争力のある高付加価値製品(冷延・表面処理鋼板)では利益を上げることができず,韓国やブラジルが低コスト生産で競争力を有している熱延鋼板で利益を上げるという収益構造のために,全体として利益を上げることができない,ということなのである。
2)崔正烈「韓国鉄鋼業の現状と展望」『鉄鋼界』第28巻第6号,1978年,17頁。この原料条件の類似性は日本を後追いする形での韓国鉄鋼業の発展を可能にした要因の一つである。
3)このことはブラジルの場合,高炉による製銑に必要な熱源・還元剤としての炭素成分を輸入にすべて依存していることとイコールではない。というのは,後述するようにブラジルは世界的に見ても希な,木炭製銑が無視できない地位を占めているからである。
4)この点でインドはブラジルと類似している。「鉄鉱石の場合,インドは良質なものを豊富に産出しており,その1単位当たり国内価格は国際的水準に比べて廉価である。これに対して石炭の場合,インド産のものは良質ではなく(灰分含有量25-30%),全利用量の約15%は輸入原料炭(灰分含有量約10%)に依存している状況にあるとともに,その国内価格は国際的水準に比べて割高である」(小島眞「インド鉄鋼業の発展過程」『三田学会雑誌』第83巻特別号2号,1991年,97頁)。にも関わらず,ブラジルとインドがその鉄鋼業の発展において明暗を分けたのはなぜかが問われなければらないが,この点にについては,小島眞氏が上記論文で指摘するように,産業政策上の相違にまずその原因を求めることができよう。
5)E. d. Santos-Duisenberg,"Iron Ore", Mining Annual Review, Jul. 1994, p.35.
6)鉄鋼統計委員会・海外統計委員会『海外統計四半期報』各号。
7)「1967/68-69-70年,1975/76-77/78年の一時期を除いて,インドの鉄鋼貿易は一貫して鋼材の輸入超過という事実に直面している…鋼材の輸入比率は11%に及んでいる」(小島眞,前掲,86頁)。
8)W. T. Hogan, Steel in the 21st century : competition forges a new world order, Maxwell Macmillan International, 1994, p.79.
9)ニューコアについては,リチャード・プレストン『鉄鋼サバイバル』(三谷一雄訳),昭和テクノシステム,1994年を参照されたい。
10)ホットストリップミルで熱間圧延された幅500mm以上のコイル上の鋼板で,厚みは問わない。広幅帯鋼を切板状に剪断した製品はそれぞれ厚みに応じて 6mm以上を厚板,6mm未満3mm以上を中板,3mm未満を薄板という(鋼材倶楽部『鉄鋼の実際知識』(第6版)東洋経済新報社,1991年,58 頁)。
11)松岡滋樹「鉄スクラップの発生と利用」『鉄鋼界』第45巻第2号,1995年。
12)金子伝太郎「還元鉄利用の拡大」『鉄鋼界』第45巻第2号,1995年,及び,『日本経済新聞』1995年5月24日付。
13)この鉄源問題,とくに直接還元炉―電炉の生産体系についての問題は,95年 6月に実施したインドネシア鉄鋼業の現地調査と合わせて,別稿で論じる予定である。
14)高橋啓悟「鉄鉱石?」『鉄鋼界』第41巻第8号,1991年,43頁。
15)鉄鋼統計委員会『鉄鋼統計要覧』(1993年版),148頁。
16)ミナスジェライス州の州都ベロオリゾンチの南にある,広さ5000m2に及ぶ鉄鉱山群。図1を参照のこと。
17)日本金属学会(編)『鉄鋼製錬』,1979年,98-99頁。
18)一般に,採掘された鉄鉱石(切込鉱)は,選鉱―整粒―ペレタイジングという工程を経て成品となり出荷されるが,高品位の場合には選鉱とペレタイジングが不要となる(高橋啓悟,前掲,45頁)。
19)IBS, Estatistico da Industria Siderurgica, Jan. 1995, p.10.
20)W. Baer, The Development of the Brazilian Steel Industry, Vanderbilt U.P., 1969, p.77.
21)生産能力ベース。拙稿「ブラジル鉄鋼業の生産構造」『ラテン・アメリカ論集』第24巻,1994年,表2より計算。Cosipaについては,サンパウロ州で国内販売量の69%が仕向けられている(Cosipa, Relatorio Anual 1994, 1995, p.11)ことからしても,国内消費地(サンパウロ都市圏)立地であり,なおかつ臨海立地のため,二分して各々に算入している。
22)カラジャス鉱山のあるパラ州における粗鋼生産は合計15200トン(全体の0.1 %)にすぎず,カラジャス鉱山とマデイラ港を結ぶカラジャス鉄道があるマラニョン州においては粗鋼生産は行われていない(IBS, Estatistico da Industria Siderurgica, Jan. 1995, p.10)。
23)戸田弘元『現代世界鉄鋼業論』文眞堂,1984年,29頁。
24)このブラジルの輸出志向とCSTについては,すでに検討済みである。拙稿「政府系鉄鋼企業の経営危機と輸出志向」(『研究年報経済学』第56巻第2 号,1994年)を参照されたい。
25)ウォルター・アダムス(編)『現代アメリカ産業論』(第8版,金田重喜監訳),創風社,1991年,63頁。
26)また比較対象となる日本にとっても重要である。なぜならば,Usiminasは日本鉄鋼業にとって戦後初の合弁企業であり,今日アメリカ等の海外鉄鋼業への資本参加の先鞭をなすものだからである。実は筆者は,この日本鉄鋼業による技術移転がブラジル鉄鋼業の国際競争力の技術的源泉であると考えているが,この問題それ自体興味深く重要なものなので,別稿に期したい。
27)IBS, Anuario Estatistico da Industria Siderurgica Brasileira, 1993, p.2.
「この木炭高炉はコークスの副原料としての活用以前に最盛期をむかえた技術体系である。森林資源の枯渇と環境破壊に直面し,1735年イギリスのDarbyがコークス利用の高炉技術を確立する事により衰退した製鉄技術である」(米山喜久治『適正技術の開発と移転』文眞堂,1990年,174頁)。ブラジルにおいても,近年木炭生産に対する法的規制が環境問題との絡みで強化されつつあるため,木炭高炉は減少傾向にある。(『鉄鋼新聞』1989年4月17日付)。
29)下村泰人「USS・ゲーリー製鉄所と巨大一貫製鉄所の時代」『鉄鋼界』第43 巻第3号,1993年,56頁。
31)下村泰人「コークス乾式消火設備(CDQ)と一貫製鉄所のエネルギー経済」『鉄鋼界』第43巻第6号,1993年,63-64頁。
32)この各部門の結合によるエネルギー経済性の発揮こそ銑鋼一貫製鉄所の成立要因に他ならない。
33)88年現在,日本のエネルギー消費原単位を100とすれば,西ドイツ111,フランス115,イギリス117,ブラジル117,イタリア126,アメリカ140と試算されており,ブラジルは先進資本主義国の中においても遜色ない水準にある(日本鉄鋼連盟・エネルギー対策委員会「鉄鋼業における省エネルギー対策」『鉄鋼界』第40巻第7号,1990年)。
34)中川侃「一貫製鉄所における最近の排熱回収」『鉄鋼界』第36巻第6号,1986 年,2頁。
35)88年現在,日本における銑鋼一貫製鉄所の排エネルギー回収量の内訳は, CDQによるもの43.3%,TRT(高炉炉頂圧発電設備)によるもの31.7%,その他25.0%となっている(日本鉄鋼連盟・エネルギー対策委員会,前掲,30 頁)。
36)日本鉄鋼協会鉄鋼科学・技術史委員会製銑ワーキンググループ『原燃料からみたわが国製銑技術の歴史』日本鉄鋼協会,1984年,337頁。
37)渋谷悌二「製銑技術の最近の動向」『製銑技術の最近の進歩と将来』日本鉄鋼協会,1993年,12頁。日本鉄鋼連盟・エネルギー対策委員会,前掲,23 頁。
38)日本鉄鋼協会鉄鋼科学・技術史委員会製銑ワーキンググループ,前掲,337 頁。西岡邦彦「コークス技術の現状と展望」『製銑技術の最近の進歩と将来』日本鉄鋼協会,1993年,67頁。
39)秋本栄治「製銑設備技術の今後の動向と課題」『製銑技術の最近の進歩と将来』日本鉄鋼協会,1993年,130頁。ちなみに現在,日本で最大の高炉(88年に火入れされた新日鉄大分製鉄所の第2高炉)のTotal Volumeは,5245m3である(鉄鋼統計委員会『鉄鋼統計要覧』(1994年版), 170 頁)。
40)IBS, Anuario Estatistico da Industria Siderurgica Brasileira, 1993, p.6/5.
42)下村泰人「高炉のエネルギー革命」『鉄鋼界』第43巻第7号,1993年,51頁。渋谷悌二,前掲,20頁。
43)CSNにおいては,クレックナー社と4000万ドルの契約が結ばれ,高炉2基に PCIを据え付けることになっている(『鉄鋼新聞』1994年 6月28日付)。
45)牧勇之輔(他)「川崎製鉄(株)千葉製鉄所高炉操業管理システム」『富士時報』第65巻第5号,1992年,337頁。通産省製鉄課(監修)『鉄鋼業AI時代』産業新聞社,1989年,64頁。
46)IBS, Estatistico da Industria Siderurgica, Jan 1995, p.9.鉄鋼統計委員会『鉄鋼統計要覧』(1994年版),40頁。EOF(Energy Optimizing Furnace)については,北川融「粗鋼生産プロセスと鉄源」『鉄鋼界』第45第2号,1995年,34頁を参照されたい。
47)Leal and Torres, op. cit., p.4 and IBS, Anuario Estatistico da Industria Siderurgica Brasileira, various issue.
50)島孝次「転炉技術の展開と今後の展望」『鉄と鋼』第76巻第11号,1990年,2頁。遠藤公一「精錬技術の進歩と今後の展望」『新日鉄技報』第351巻,1994 年,4-5頁。
52)下村泰人「酸素製鋼法の発明」『鉄鋼界』第43巻第11号,1993年,51頁。
53)LD-KGCは上底複合精錬法の一種であり,上から酸素を吹き込み,下から撹拌目的でアルゴン等の不活性ガスを吹き込む。撹拌による脱炭反応速度向上・鋼浴の均一化と,厳密な反応制御による鋼の成分の的中率・歩留まり向上は,酸素の上吹き,底吹き単独では合い矛盾する操業であるが,上,底吹きを併用することで両方が可能となる(岸本康夫(他)「上底吹き転炉製鋼法の最近の進歩」『川崎製鉄技報』第21巻第3号,1989年,22頁,及び下村泰人「酸素製鋼法の発明『鉄鋼界』第43巻第11号,1993年,51頁)。
54)弱撹拌複合転炉の一種(日本金属学会(編)『金属便覧』(改訂第5版)丸善,1990年,79頁)。
55)サブランス・ダイナミックコントロールは,転炉工場の計算機制御の中心となる終点における溶鋼の酸素濃度,温度制御の一種で,吹錬開始前の推定計算をスタティックモデルで行い,さらにサブランスから得られる吹錬中の計測制御情報に基づいて,吹錬修正を行うとともに吹止時点を予測する方法である(日本金属学会『鉄鋼精錬』,前掲,231-232頁)。
56)Usiminas, Usiminas conta sua historia, 1990, p.156.
58)遠藤公一,前掲,4頁。ウジミナス『1983ウジミナス営業報告書』,8頁。
60)B. Wilshire, D. Homer and N. L. Cooke, Technological and Economic Trends in the Steel Industries, Pineridge Press, 1982, p.273.
62)例えば,造塊―分塊圧延法で1-2日かかっていたものが連続鋳造法では30-60 分,歩留まり(溶鋼〜スラブ)も造塊〜分塊圧延法は80-90%に対して連続鋳造法は96-99%である(奥村裕彦「連続鋳造技術の動向と今後の展望」『新日鉄技報』第351巻,1994年,11頁)。
66)岡本博公『現代鉄鋼企業の類型分析』ミネルヴァ書房,1984年,56頁。
67)日本鉄鋼連盟『鉄鋼十年史―昭和43年〜52年―』,1981年,75頁。ちなみに現在の日本では,新日鉄君津製鉄所のHSM(年間生産能力600万トン)が最大である(R. Serjeantson and H. Cooke eds., Iron and Steel Works of the World, 11 ed., Matal Bulletin Books, 1994, p.279)。
68)板クラウンとは,板縁近傍以外の部分での板厚不均一を指し,主としてワークロール軸線が曲がっていることによって生じる。エッジドロップとは,板縁近くで板厚が急に薄くなることを指し,板との接触圧力によって生ずるワークロール表面の弾性変形の端末効果の現れである(日本塑性加工学会(編)『板圧延』コロナ社,1993年,17-18頁)。
71)F. L. Leal,"Technological Development of the Brazilian Steel Industry," Materials and Society, Vol.11, No.4 (1987), p.455.
72)日本塑性加工学会,前掲,174頁。梶原利幸(他)「日立新形圧延機(HC-MILL)の特性」『日立評論』第56巻第10号,1974年,3頁。
73)重化学工業社『プラント輸出年鑑』(1981年版),405頁。
75)D. Kinch,"Usiminas plans to add 1m tpy of new capacity," in Metal Bulletin, 17 Oct. 1995.
77)例えばCSTについて,梅垣邦一(他)「ツバロン製鉄所の建設」『川崎製鉄技報』第16巻第2号,1984年を参照されたい。
79)この製造技術,生産技術という区分については清 一郎氏によっている。すなわち,生産技術は,生産設備をどのように配置して生産ラインをつくるかに照応し,製造技術とは,これをいかに使うかに照応している。清 一郎「価格設定方式の日本的特質とサプライヤーの成長・発展」『関東学院大学経済研究所年報』第13巻,1991年を参照されたい。
80)Usimians社資料。Cosipa, op. cit.
81)"CST Invites Bids for Second Blast Furnace," in Metal Bulletin, 16 Mar. 1995.
82)Cosipa,"Relatorio Anual 1994," 1995.
84)"America Latina: satisfactorio desempeno y expectativas favorables para la siderurgia regional," Siderurgia Latinoamericana, No.408 (1994), p.18.
88)"Brazil:$1,500,000,000 Investment Plans Aimed at Boosting Flat-rolled Steel Production Capacity and Associated Works," ESP-Business Opportunities in Latin America & the Caribbean, May 1995.
91)拙稿「政府系鉄鋼企業の経営危機と輸出志向」,前掲,79頁。
92)ここで言う「適正技術」とは,現場の資源,土着技術,最先端の理論が有機的に統合された際に生み出されるとされるものである(米山喜久治,前掲, 191頁)。