ゼミ運営法
(1998年5月18日版)

 この文書「ゼミ運営法」は,私の指導教官のゼミ(東北大学経済学部金田ゼミ)の運営法を元にして作成したものです。現在長谷川ゼミは学生参画型ですが,この文書はゼミを参与型で運営することを前提にして1998年に作成されたものです。

<目次>
 1. ゼミナールに関する私見
 2. テキストを読む=疑問点の抽出
 3. レジュメの作成
 4. ゼミでの議論
    4.1 司会
    4.2 レポーター
    4.3 コメンテーター

  1. ゼミナールに関する私見
    1. 一言でいえばゼミとは,あるテーマについて議論をたたかわせる場・練習場である。そこでは,議論の末得られた結論も大事だが,そのプロセスも重要である。このプロセスにはゼミでの議論はもちろんのこと,それまでの準備(レジュメ作成,文献調査)も含まれ,それぞれに違った意義をもつ。有意義な議論ができる学生は真の「学ぶ力」=問題解決能力を有する学生であり,大学を卒業できる学生であると私は確信する。
    2. ゼミが大学の授業の一環であることを考えると,学生はゼミにおいて,学費・税金の一部と引き替えにサービスを受け取っていると見なすことができる。もちろんそのサービスの内容がどうあるべきかは議論されなければならないが,「支払っている金額に見合っているかどうか」を見極め,「元を取ってやろう」との気概を持つべきだと思うし,支払っている金額に見合う水準のサービスを要求し,受け取る権利を有しているし,さらには,いかなるサービスを受けるべきか,つまり授業のあり方についても学生は,主体的に関わり改善する権利を有している。学生が授業に出席するのは,憲法に言う教育を受ける権利の行使である。ゼミも例外でないどころか,学生が主体的に授業に,そしてそのあり方に関わり,授業を創っていく格好の場である。学生は,ゼミの,そして大学の主人公たるべきである。
  2. テキストを読む=疑問点の抽出
    1. 疑問点を出そうとする努力がまず大切
      1. 「疑問点が出ない,出せない」という声を良く聞く。この疑問点の提出は最も大変な作業であり,これが立派にできれば大学の教育は半分終わったようなものである。したがって疑問点を出すことがまず大事なのであって,最初から「立派な」疑問点を出そうなどと考えてはいけない。「立派な」疑問点を出そうとすると,何も出てこなくなるか,味気ない疑問点になるのがオチだからである。
      2. 実を言うと,私も学生時代は「疑問点」が出せずに散々苦労した。疑問点を出そうとする努力がまず大切なのだ。
    2. 疑問点を出すための具体的方策
      1. 疑問点を出すには具体的にどうしたら良いか考えてみよう。まず,テキストの該当部分を2回以上読む。その際の留意点を以下に示す。
        1. ■主張点    …著者はここで何が言いたいのか
        2. ■論理構成   …文章の組み立てはどうなっているか
        3. ■論拠の正当性 …著者が示す事実は以上の2点の根拠になっているのか
      2. こうしたことに留意しながら読むと,この時点でも疑問点が出てくることが多い。たとえば,「この章の文脈からすると,こうした結論は出てこないのではないか」とか,「著者の主張は,挙げられている事実からは言えないのではないのか」等々である。それでも疑問点が出ない時は,以下のという視点で攻めると良い。
        1. ■著者が依拠する事実は裏付けられるか,あるいは事実の取り上げ方は適切か
      3. 疑問点が出たら,今度はそれを解決する努力が必要となる。その作業手順は以下のようになる。
      4. その疑問点を煮詰める。例えば「このパラグラフの意味が取れない」という場合,そのパラグラフを構成するセンテンス全部の主語・述語関係まで立ち入って検討し,どこのセンテンスが意味不明なのかをつきとめるのが,「煮詰める」作業となる。「焦点を絞る」作業とも言っても良い。
      5. 煮詰められた疑問点を解決してくれそうな文献(参考文献)の目星をつけて探し出す。
      6. そうした文献に得られた疑問点を念頭において目を通す。つまり,疑問点にかかわるテキストの著者の論点とその論拠と,参考文献のそれらとを比較ながら読むのである。そうすると,ほとんどの場合,相違点が発見できる(相違点が多そうな文献を最初から選ぶのも手だ)。そうした相違点を書き出し,どこがどのように異なるのか,自分はどちらが正しい(あるいはどちらもおかしい)と判断するのか考えてみること。ここまでできれば言うことなしであるが,最初のうちはできなくても無理はない。
  3. レジュメの作成
    1. レジュメは,<要約−疑問点とそれに対する調査・考察結果>で構成される。
      著者の論理展開や主張点に忠実に行なうこと。長すぎても短すぎてもいけないが,これは訓練を積まないとできないので,さしあたり長さは気にしないでよい。
    2. 「要約」は,著者の論理展開や主張点に忠実に行なうこと。長すぎても短すぎてもいけないが,これは訓練を積まないとできないので,さしあたり長さは気にしないでよい。
    3. 「疑問点とそれに対する調査・考察結果」は,疑問点を明瞭かつ簡潔に提示した上で,その疑問点解決のために,どう考え,何をしたのかのプロセスを記し,結論を示す。結論は出るとは限らないし,結論が唯一重要なのではない。問題はプロセスであり,解決に向けた努力である。そのプロセス・努力の中身を詳細に書くことが大切。したがって,引用した・参考にした文献を掲げることも必要となる(著者名,書名,出版社(雑誌)名,発行年(巻号)等も忘れずに記すこと)。
    4. レジュメの全体の印象としては,見やすく,メリハリがあるものが望ましい。尚,編集が自由にできること,再利用が極めて容易であることから,ワープロの使用が望ましい。
  4. ゼミでの議論
    1. 司会
      1. 司会は議論のいわば「交通整理係」。もつれからまりあう糸をときほぐすように,提出された疑問点と議論を整理する事が求められる。議論が停滞・膠着して,「お通夜」状態にゼミが陥らぬよう,細心の注意を司会は払う必要がある。
      2. ポイント(1)レポーターやコメンテーターが提出した疑問点を把握する(あるいは,把握できるまで聞き出す)。
      3. ポイント(2)提出された疑問点を整理する。
        1. 近似した疑問点,あるいは一緒に議論した方がよいと思われる疑問点は一つにまとめて議論に供すること。
        2. 議論すべき順序を考え,決めること。小から大へ。語句説明→内容に関わるもの(細かな点→全体に関わるもの)。
      4. ポイント(3)意見を求める場合,必ず「誰に」求めるのかはっきり言う。レポーターなのか,コメンテーターなのか,教員なのか,はっきりしないと議論の停滞を招く。
      5. ポイント(4)議論が脱線・交錯・混乱した場合,直ちに介入して論点の整理を行う。
        1. (脱線事故)当初の疑問点やその提出者が提起したい問題から脱線している場合には,軌道修正を行う。当初の疑問点やその提出者が提起したい問題が一応の解決を見ないまま,他の論点に移ることは許されない。
        2. (混線状態)脱線はしていないが,いろいろな論点が提出されて交錯し,混乱した場合には,論点に序列を付けて,主要と思われる論点から議論し解決していく。
      6. ポイント(5)議論が膠着した場合,司会が議論の到達点を確認して対応策を提案する。議論が膠着する場合の多くは,手持ちの資料の関係でこれ以上議論の展開が不能となる時である。この場合はいくら粘っても,議論を進めることができないので,打ち切りにしなければならない(後の関連する章で改めて議論するとか,あまりすすめられないが…「宿題」にする)。
      7. ポイント(6)時間配分に気を付ける。司会はタイムキーパーでもある。ただし議論の途中で,あるいはなんらの解決を見ないままに「鉈でブッた切る」ように一方的に打ち切るのは後味も悪く,それまでの議論の成果を水泡に帰すことにもなるのでやってはいけない。
      8. ポイント(7)「繰り返し」は極力避ける。司会がレポーターなどの発言内容をそのまま繰り返したり,「他に意見はありませんか」を繰り返すことは,時間の無駄である。
    2. レポーター
      1. レポーターはその名の通り,テキストの該当部分についての「報告者」である。ここで言う「報告者」は,「要約発表者」+「問題提起者」+「解説者」である。「要約発表者」,「問題提起者」は要するに,レジュメを作成し疑問点を提出する者であるから,これらについては前回の述べたとおりである。
      2. 「解説者」としてのレポーターの役割
        1. レポーターは,ゼミでの発表の前にあらかじめ,想定される質問を考え,それについて一定の回答(あるいは逃げ口上)を用意しておかなければならない。
        2. 質問の想定は,疑問点を考える作業と重複するので,さしあたり,「気になる」「引っかかる」箇所をピックアップし,整理しておくとよい。このリストの中から,レポーターが提出する疑問点が選ばれることになるし,コメンテーターの疑問点もこのリストに含まれている可能性が高い。
        3. このリストアップされた疑問点の全てに対して,一応の回答を与えられることが事前にできれば文句なしである。そうでなくとも,こうした疑問点に応えられそうな文献を見つけておいて欲しい。経済学辞典や統計書,概説書,著者の関連する論文がそれである。読んでいなくとも,その場の対応で必要な個所が見つけることができるはずだ。
    3. コメンテーター
      1. コメンテーターは,レポーターに疑問点をぶつけ,議論を巻き起こすのが役割だ。しかし,疑問点がはっきりしていないと逆にレポーターにツメられるので,疑問点は用意周到でなくてはならない。
      2. コメンテーターは,縦横無尽に,様々な疑問点をレポーターに投げかけることができるし,それが役割である。コメンテーターは自らの疑問点について,その解決のための事前の調査を免除されている。
      3. しかし,縦横無尽に,自由にできるといっても,テキストを読み込んでいなければそれが不可能であることも確か。テキストの該当部分についての調査(読み込み)をしなければならないのは,コメンテーターも同じである。


Author: Shin Hasegawa
E-mail: shin@ipcku.kansai-u.ac.jp

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