図書館に学生の学習のための統合環境を

 キャンパス改造のキーワードはオープンネス,バリアフリー,シームレスであると私は考えているが,今回は大学の主人公である学生が能率的・持続的に学習してもらうための提案をしたい。それは「学びの場としての図書館機能の拡張」であり,「学生の学習のための統合環境」の提供である。

 学生の学習能力・問題解決能力は論文(レポート)の作成を通じて総合的に養われる。文献探索から始まるその作成過程において,作成者は文章化の段階に至って初めて文献の読み込みが足りないことや,新たな資料が必要なことに気づく。この際,一つ前の過程に立ち戻って文献を読み直したり,新たな資料を探して,それをもとにまた文章化を進めるというサイクルを根気強く繰り返すことが論文の水準を高めるポイントである。

 したがって文章化の作業を含め,論文作成の全過程を図書館内で行いうることが望ましい。しかし現状は,文献を収集し,それに基づいて考察することまでは図書館内で可能だが,それを文章化する作業は多くの学生がワープロを使用している今日では,学部等のパソコンルームか自宅で進めなければならない。こうした論文作成環境の分散は上記のサイクルを困難にするため,論文水準を低下させていると思われる。そこで,論文作成環境の全てを図書館へ統合―図書館機能を拡張すること―が必要である。

 なぜ「図書館へ」なのか。それは図書館の蔵書を自由に利用できること,図書館という空間が醸し出す知的で落ち着いた雰囲気が重要だからである。学生の活動拠点が知的刺激に満ちた図書館であれば,学生の学習習慣も身につきやすいはずである。

 具体的には,従来の静粛性が要求されるスペースとは別に,個人やグループでオープン利用できるスペースを設け,図書館の蔵書の閲覧,蔵書検索,オンラインデータベースやCD-ROMによる情報検索,収集文献のリストや論文の編集や印刷,電子メールを使ったコミュニケーション等が可能で,なおかつ議論や打ち合わせが許される場である。要するに論文作成に必要なツールがすべて揃い,そこを拠点にすれば論文やレポートの作成に集中してとりくめる空間である。図書館とパソコンルームとを往復する必要もなく効率的に,自宅で一人で論文を書くよりもずっと楽しく粘り強くできるはずである。

(『関西大学通信』250号(1997年1月8日)「関大フォーラム」)