中南米経済論とは


 中南米経済論は、日本においては第二次大戦後、本格的に取り組まれ始めた新し い研究分野であり、移民や企業進出等で日本との関係が深いわりには重要視されてこなかった事情もあって、研究者の層も欧米と比べても、他の発展途上国経済論と比べても、まだまだ薄いと言わざるを得ません。そのために、中南米経済論とは何 か、それは経済学のなかでどのように位置づけられるのか、他の研究分野とはどの ような関係にあるのかについては、残念ながら定説があるわけではありません。ですから、以下では私なりの解釈に基づいて説明します。

 中南米経済論の位置づけの捉え方は大きく二つに分けられると思います。すなわ ち、発展途上国経済論の構成部分として捉える見方と、ラテンアメリカ研究の構成 部分として捉える見方です。後者は、アジア研究などと並んで地域研究―世界の諸地域の政治、経済、社会、文化等における諸事象の連関を総合的に把握し、その地 域の全体像を理解することを目的とする研究―を構成しています。

 この地域研究は近年ようやくその重要性が日本でも認められるようになってきま した。著名なラテンアメリカ政治の研究者である恒川恵市氏が言うように「地域研究とは、学問の名称というよりは、学問をする場の名称」であり、その出発点は既 存の専門・学問になります。ですから、仮にラテンアメリカ研究の構成部分という 位置づけをするとしても、専門・学問―商学部生にとってそれは経済学・経営学― を身につけなければならないことに変わりはありません。そして、商学部のカリ キュラムとしては、ラテンアメリカ研究のなかに位置づけるよりは、経済学のなか に中南米経済論を位置づけることが適切だと考えます。

 もちろんこのことは、中南米地域から経済や経営だけを取り出して研究すればよいというものではありません。もとより経済学とその応用科学である経営学は、杉本栄一氏がその名著『近代経済学の解明』で述べているように、経済学以外からも教えを受けなければ成り立ちえません。それに加えて中南米経済論は、地域研究という性格からより一層の社会や政治、文化等に対する理解・解釈が要求されます。

 では、中南米経済論は経済学のなかにどのように位置づけられるでしょうか。私は中南米経済論はアジア経済論などとともに発展途上国経済論(開発経済学)の一 分野であると考えます。アジア、アフリカ、ラテンアメリカの多くの地域は、植民 地として世界市場に登場してきたため、経済学では宗主国との関連で付随的に扱われてきたにすぎません。しかしその後、ラテンアメリカでは19世紀前半、アジア、 アフリカでは第二次大戦後に次々と植民地が国家として独立し、国際舞台に主体として参加するようになりました。このことを反映して、発展途上国の経済そのものを対象とする研究、すなわち発展途上国経済論が形成されたのです。この発展途上 国経済論は森野勝好氏によれば、発展途上国における社会的分業と商品生産、さらに資本主義の発展を具体的に分析し、発展途上国の人々がどのように年々の生産を行い、日々の生活を再生産しているかを明らかにすることを課題とするものです。


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