中南米・ラテンアメリカとは


 「19世紀中葉をすぎ、ラテン=アメリカ諸国で西欧をモデルとした近代国家の建設が模索されはじめたとき、前近代的と考えられたイベリアとの関連を想起させるイスパノ=アメリカにかわる新しい呼称が求められた。しかも、このときにアメリカ合衆国の膨張がラテン=アメリカに向かってなされ、北方の巨人の力が南の諸国 の領土と自立を脅かしつつあることが、これら諸国の知識人に感じられていた。北 方の巨人に対抗できる力を内に潜めた名称、しかも抒情的で文明の香りを感じさせる呼称が求められていた。こうした状況を知らずに1861年、フランス人が自分たちの野心的な戦略にそって“ラテン=アメリカ”の名をつくりだしたとき、それは若 い独立諸国の知識人に好感を持って受け入れられた」(斎藤広志・中川文雄『ラテンアメリカ現代史I』)。

 中南米という呼称が地理的概念であるのに対して、ラテンアメリカという呼称は 文化的概念であるとされるのは、こうしたフランスの領土的拡大という帝国主義的野望とラテンアメリカ諸国の知識人たちの独立と近代化の思いがあったからであり、一方でラテンアメリカがアングロアメリカに対する概念であるとされるのは、アメリカ合衆国の拡張主義に対抗する意味が込められているからです。こうした経 緯を考えれば、中南米よりもラテンアメリカという呼称がより適当なのですが、科目の名称が「ラテンアメリカ」経済論ではなくて「中南米」経済論となっているのは、日本における古くからの用語法に従ったに過ぎません。

 ラテンアメリカは、カナダ、アメリカ合衆国を除く北アメリカと南アメリカの諸地域、すなわち、メキシコ以南の大陸部およびカリブ海地域の諸島の総称とされて います。ラテンアメリカは33の国と若干の植民地により構成され、1千万人以上の 国だけとってみても、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、コロンビア、ペルー、ベネズエラ、チリ、エクアドル、キューバがあります。こうした顔ぶれを見てもわ かるように、文化、言語、民族それぞれ例外があるので、ラテンアメリカは一枚岩 ではないけれどもラテン系文化圏として一応括ることができる、という程度の捉え 方が妥当だろうと思います。


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