経済学教育学会第18回全国大会特別部会「学生とともに創る学びの創造」
「学生参画授業(中南米経済論)における学び」

第2部 2001年度第13回(7月5日)の授業をめぐって(シナリオ)

2002年11月17日
関西大学商学部4回生
谷口陽一・谷澤絵美

1.(7月5日5限)自分たちの発見を仲間に伝えたい―第13回授業(表舞台)はどうであったか(A)

(3) 「授業企画書」2001年度第13回(7月5日)。
(4) 『中南米経済論新聞』2001年7月12日付(1-2頁のみ)。

 発表では自分たち(企画班)がまず「楽しもう」それが企画班全体の合言葉でした。つまり、自分たちが楽しむことで授業の雰囲気を創っていこうというものでした。「さとうきびから様々なものが作られ、最後には車の燃料にまでなっている」という自分たちの発見を仲間にわかってもらうチャンス、それが授業でした。

 授業が始まった時からの仲間達の「こいつらは何をしでかしてくれるのだろう」というテーマはもちろん、私たちの個性にも期待をもったあの真剣な目は、自分たちを緊張させ、その期待に応えてやろうと考えると胸が熱くなりました。

 自分たちが一番驚き、教室全体が驚いた「さとうきびから精製されたエタノールで動く車がブラジルには流通している。」というところに一緒に驚いてくれた時には、なんともいえない一体感がありました。

 グループでのディスカッションで、自分たちの予想していない質問が出てきたときには、実際あせりました。しかし、真剣に考えて意見を出してくれる仲間の反応に、一緒に授業を創っているという充実感を感じました。そして、こんな学生との熱いやりとりを求めて大学へ入ってきたんだということを思い出しました。

 授業が終わり、「今日の授業よかったわ」といってくれる仲間や感想ラベルを見て、いろいろ苦労したけど授業やってほんまよかったと心から思いました。

2.(6月24日-27日)自分たちの発見:さとうきび→エタノール!!

2-1 学びの旅路の出発点はさとうきび。

 まず、発表2週間前になっても発表のテーマが決まらずあせっていました。そこで、何かしらのヒントを求めて、神戸でブラジル人中心に行われているフェスタ・ジュニーナという祭りに企画班+先生で潜入しました。何もその祭りでは企画のヒントは得られなかったのですが、その帰り道に先生がポロっとこぼした「さとうきびなんかおもしろいんちゃうか」という言葉にすがる気持ちで飛びつきました。

 さとうきびについて3日間各自、文献、ネット、新聞などでしらみつぶしに探しました。その結果、さとうきびからは、さとうはもちろん、ピンガ(さとうきびから作られる蒸留酒)、エタノール、味の素などが作られていることを発見しました。

2-2 “エタノール車”なんてあったの!

 何よりも企画班が驚いた発見は、エタノールを燃料にして走っている車があるということでした。車とくればガソリンと思っていた私たちの常識に大打撃を与えました。また、なんとブラジルでは1985年、自動車販売台数の96%をエタノール車(ガソリンとエタノールの混合燃料で走る車)占めていたことです。

3.(6月30日-7月5日)仲間と駆け回りながら、どうすれば授業がヒートアップするか考えた

3-1 本物を見たいと、さとうきび、ピンガを求めてさまよう。

 エタノール車という「発見」は見つかったので、こんど授業にリアリティーを持たせるためさとうきびやピンガ実物を探しにいきました。季節がらさとうきびは入手できませんでしたが、大阪大正区の沖縄人街で糖蜜を固めたものを、心斎橋のブラジル料理店で頼み込んでピンガを譲ってもらいました。このときの活発な活動が、班の団結を強め、今でもそこまで行動力があるのかといういい語り草になっています。

3-2 いざ発見を中心に授業を組み立てようとするが…七転八倒(B)

 どうしても授業で単にレクチャーとディスカッションを組み合わせるだけでは自分たちの発見がうまく伝わりません。そこで4つのレクチャーを組み合わせ1つのストーリーに見立てました。ディスカッションのテーマは自分たちが一番驚いた発見を採用しました。なぜなら授業を受けるのは自分たちと同じ学生。なら自分たちが疑問に思い、答えを探した学びの旅を一緒にすることで授業にのめりこまそうと考えたからです。

 リハーサルでは、授業ではまず企画班が楽しむというスタンスを忘れず、発表者とフロア―側の学生という設定で二手に分かれてやりました。まず、レクチャーの順番は本当にこれでいいか。マイクの受け渡しはこれでいいか。イスの配置はどうすればいいか。黒板のレクチャーのメモをいつ学生に見せればいいか。本当に発表は時間内に収まるのかなどを、入念に半日かけてやりました。この積み重ねが、実際の授業であがらず、アクシデントにもめげないことに繋がりました。

4.ふりかえりを積み重ねることによって認識がどこまでも深まっていく

4-1 授業直後「授業をやりとげた達成感と満足感でいっぱいだった」(CDEFG)

 授業に出席した学生の感想ラベルには、「チームワークがよかった」(寺田)「答えを探していく授業でおもしろかった」(鶴谷)など満足のいくものばかりだった。そしてなによりも、企画班の感想は、「準備の段階でも今日の発表でもいっぱい学んだ」(林)「発表だけじゃなく、企画段階からハイテンションだった」(谷澤)「疑問、調査、発見。勉強の仕方を思い出した」など最高のラベルに酔いました。

4-2 授業から1年以上たった現在「授業をつくるってこんなに難しいのか」(H)

 今回の学会発表を期に、一年前の授業を振り返ってみた。すると授業当時気づかなかったことが見えてきました。

 我々の目にとまったのは「一人一人に語りかけるような姿勢がない限り、教室全体をまとめることはできない」(穐山)とのラベルであった。本当に企画班はフロア―の学生の声に耳を傾けられていたのだろうか。よく考えてみると、例えばグループからでたディスカッションの意見をそのまま「はいわかりました、次お願いします」と流していたことを思い出しました。ここで、その出た意見に噛み付き、そこから議論を展開していったほうがよかったのではないか。それがフロア―の学生の願いであり、企画班が当初予想していなかったその議論のやり取りから生まれたものが、フロア―の学生はもちろん、企画者の新しい学びへと繋がっていくのではなかったか。

 また、授業を創るという立場にたってみて、初めて学生が満足する授業を創るということがいかに難しいか、つまり先生の苦労が身にしみて分かりました。フロア―側の立場に立って授業を創る意識をもっと持たなければいけないと改めて感じた振り返りの作業でした。

5. 中南米経済論に参画することで、何を学び、どう変化したのか。

5-1 行動力のある自分に出会えた。

 授業を創る過程で、自分たちが何が疑問で、どうすればそれがわかるのかを必死になって頭と体を使って考えました。いつのまにか授業づくりに没頭していましたが、振り返ってみると初めてこんなに主体的に動いている自分に気づきました。「おれもやればできるんや」という自信がつきました。

5-2 本気でぶつかれる仲間がいたから、あきらめず授業づくりができた。 

 いい授業をつくりたいと思う強い気持ちが、どこかに取材に行ったり、お互いの本気の意見をぶつけ合うことに繋がりました。自分一人ではいくら考えてもいい案が浮かばない時に、仲間との対話からヒントをもらったこともたくさんありました。よりよい授業をつくるために、5人の企画班の仲間がどんどん考えをぶつけ合いそれを積み重ねていくことで、1つの授業をつくっていきました。そのがんばり合いがお互い認め合うきっかけになり、しんどい時でも授業づくりを続けていけたエネルギーになりました。

5-3 幸せって思える授業に出会えた!!

 授業が思い出になりました。皆さんは学校の思い出といったら運動会などのイベントだけではありませんか。今回の学会発表のために1年前の授業を振り返りました。しかし、学生同士の本気のやり取りがあったからこそ、1年前の授業も鮮明に思い出すことができました。

 また、去年の授業を体験した学生が、今年の授業の学生に、授業の企画・運営のやり方を伝えるなど、自分の中で一年経った今でも授業が生きているなと実感することができる。つまり学びはずっと続いているということです。そんな経験を授業でできて本当に幸せです。これも学生参画型授業だからこそできたと確信しています。