黄天化(炳霊公)は人妻キラー?


・黄天化と炳霊公

『封神演義』の最後で、黄飛虎が東岳大帝に、黄天化が炳霊公(へいれいこう)に封神されることは、すでによく知られていると思います。

この炳霊公という神は、東岳大帝の子として非常に有名な存在です。または泰山三郎とも呼ばれ、東岳大帝を祭った東岳廟には、たいてい炳霊公殿もあります。有名な北京の東岳廟にもちゃんと「炳霊公殿」があります。


東岳大帝には五人の子がおり、長男の宣霊侯、次男恵霊侯、三男がこの炳霊公、四男が静鑑大師、五男が佑霊侯と言われます。また、一女がおり、それが有名な碧霞元君(泰山娘娘)です。

ただ、このうちよく知られているのは、炳霊公と碧霞元君だけです。四男は、仏道に帰依しているのか、大師という号です。

炳霊公自体は、火神として有名な存在で、霊験もあらたかですし、信仰も盛んで、立派な神です。


ところが、この炳霊公、ちと困ったところがある神なのです。

それは、すぐに人妻に手を出すということです(涙)。

炳霊公という神は、多くの場合、美貌の貴公子に描かれるのですが、どうもそれからの連想なのでしょうか。人間界の美人妻を強奪する、という逸話がたくさんあるのです。

そして、神ですから、その人妻をあの世へ連れ去ってしまうことが多いのです。つまり、文字通り本当に「キラー」であるわけです(涙)。


ではまず、そういった逸話の幾つかを紹介しましょう。まず『集異記』に見える話です。

>趙州の盧参軍の妻はすこぶる美女であった。

>数年して官を辞して都へ戻ったが、その妻はにわかに没した。

>明崇儼という人物が、「これは泰山三郎のせいであろう」と断じ、符を焼く。

>第一、第二の符では蘇らず。第三の符を焼いてやっとその妻は生き返った。

>その妻によれば、亡くなったところ、泰山の山頂にある泰山三郎の宮殿に連れて行かれたとのこと。

>妻が悲嘆にくれて泣いていると、天からの使者が来て、三郎にその妻を返せという。

>使者を泰山三郎は怒って追い返すが、太乙直符を持った使者が来るのを見て、三郎は恐れをなす。

>強風が吹いて、泰山三郎の館を吹き飛ばす。盧参軍の妻は、使者に伴われて現世に戻る。


泰山三郎神が他人の妻を強奪して、天からお叱りを受けたという話です。

太乙神を『封神』の太乙真人と近い関係とみなすと、この話はまた面白いかもしれません。


さらに、『玉堂間話』に見える話です。

>兗州の泗水のほとりに亭があり、そこに天斉王(東岳)を祭った祠があった。

>そこに泰山三郎も祭られていたが、その祭りは天斉王より盛んであった。

>葛周という人物がここの官として赴任し、この亭に遊んだ。

>その息子(十二郎)には、非常に美しい妻がいた。

>この夫人が三郎神の前を通ると、突然に倒れ伏す。

>その後もしばらく夢に恍惚として、まるで神と会っているかのようだった。

>家族は難を恐れて、東京に逃れる。しかしその後も、三郎神はたびたびその妻のもとを訪れる。

>十二郎は恐れて、その妻と同衾するのを控える。しばらくして、その妻は亡くなった。


まさに本当に「人妻キラー」の所業で、これは非難されてもしょうがないかもしれません。

どうも、こういった神懸かりの症状を示す若い女性が多かったのでしょうか。それが青年神である泰山三郎の信仰と交わり、このような説話を生んでしまった可能性も高いです。もっとも、これは憶測ですが(笑)。


黄天化が炳霊公である、との説はもう広まってしまっています。気の毒ですが、天化も炳霊公の号を継いだ以上、この泰山三郎の評判もそのまま受け継いでもらうしかなさそうです。


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