Think Like Walking

16期生(2015年入学生)による書評(2回生春休みの課題)をここに集めています。書評対象としては、単なる娯楽本ではなく、読み手に多少なりとも「考える」ことを要求するような人文社会系の書物をとりあげています。「読むこと」「考えること」が「歩くこと」と同じような日常的行為として関大経済学部生の間に根づいてくれることを、願ってやみません。

山崎元『偏差値「10」の差を逆転する 時間と努力の投資理論』 by 天野昴
D.カーネギー『人を動かす』 by 内田拓実
朝井リョウ『何者』 by 大西香奈
水島広子『「他人の目」が気になる人へ 自分らしくのびのび生きるヒント』 by 大原美穂
小笠原喜康『議論のウソ』 by 小田将弘
齋藤孝『人はチームで磨かれる』 by 里岡航
高橋弘樹『TVディレクターの演出術 物事の魅力を引き出す方法』 by 讃岐谷拓実
森川友義『一目惚れの科学 ヒトとしての恋愛学入門』 by 新開誠志
齋藤孝『人を10分ひきつける話す力』 by 辻中美波
榎本博明『記憶はウソをつく』 by 鄭季央
三宮貞雄『コンビニ店長の残酷日記』 by 中川雄太
根本橘夫『「自分には価値がない」の心理学』 by 中野萌夢
梅田悟司『「言葉にできる」は武器になる』 by 中村梨香子
安井元康『99・9%の人間関係はいらない 「孤独力」を磨けば、キャリアは拓ける』 by 長井美乃桜
山田昌弘『モテる構造 男と女の社会学』 by 星山雄希
西澤哲『子どものトラウマ』 by 桝田謙太
大内伸哉『勤勉は美徳か? 幸福に働き、生きるヒント』 by 水崎太貴

山崎元『偏差値「10」の差を逆転する 時間と努力の投資理論』
星海社新書
2016年12月
本書は、大学入学時点までにライバルたちとの間についてしまった、偏差値「10」の差。それは現時点での人材価値と捉え、本書での人材価値とは、「たとえば企業が人を雇う場合のように、他人が経済の文脈でこの人には人材としてこれくらいの価値があると思う人物評価を、価値として評価する概念」である。そこで、本書では、「社会に出るまでに残された時間」を資産と捉え、これをいかに投資・運用すれば人材価値を高め、偏差値「10」の差を逆転できるかを具体的に述べられている。
タイトルにもあるように、本当に偏差値「10」の差を逆転することは可能なのだろうか?その答えは、「可能」である。ただ本書で逆転を目指すものは偏差値そのものではなく、「人材価値」である。人にできることは時間の使い方を変えることだけだ。時間をうまく使うことによって、人生を変えることができる。
数多くの職を股に掛けてきた筆者が経験してきた体験談をもとに、第2章の大学生の「勉強」戦略では、普段の大学生活での授業選びのポイントや将来役に立つ経済学の授業、教授へのアプローチの仕方、第3章の大学生の「人間関係」戦略では、他人から好かれる要素や出世のコツや幅広い人脈を手に入れる方法、また、第4章の大学生の「職業人生」戦略では、大学生にとって最も重要である就活上でのアドバイスやどのような職場がいい職場かなども詳しく教えてくれる。それが筆者個人の意見であったとしても実際経験してきた人から意見を聞くことができるのはとても大事なことだと私は考える。
最後に、ライバルとの差を抱えたまま、社会に出てしまうのか?それとも本書を読むことによって人材価値を高め、人生の自由度を飛躍的に伸ばして逆転するのか?少なくとも私なら後者を選ぶ。皆さんも、時間を投資・運用し、大学入学時点までについてしまった「人材価値」の差を逆転してみませんか?
(天野昴)

D.カーネギー『人を動かす』
創元社
2016年1月刊
この世には2種類の人間が存在する。「慕われる」人間と、「そうでない」人間である。また、誰しもが前者になることを望む。
では、その二者には、どのような差があるのだろうか。本書には、「慕われる」人間が持っているもの、そうなるのに必要なもの、また、人間が備えるべき社会の切実な要請が記載されている。
私が本書を推すのにはその他にある。それは本書の成り立ちである。かー人を動かす原則を打ち立て、それを印刷したカードを作って講義の教材とした。ところが、講習会の回を重ねるごとにこのカードが増補されて、薄いパンフレットになり、そのパンフレットの貢数が次第に増えて、15年後には、ついに一冊の本になった。これが、『人を動かす』という書物である。
幾年もの歳月をかけてカーネギーの指導の現場から生まれてきたもので、決して一朝一夕に頭だけで書かれたものではない。
本書は大きく分けて4つの章に分けられる。「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得させる十二原則」「人を変える九原則」だ。
私が一番心に残ったのは本書記載の「誤りを指摘しない」だ。これまでの友好関係や身の回りの人たちとの関わりで一番痛感したことがある。互いが歩み寄るのに必要なのは「相手に敬意を払うこと」である。人間には必ず承認欲求というものがあり、自身の意見を頭ごなしに否定されては、相手の意見どころか、以後の口論ですら頭に入らなくなる。そうなってしまっては、こちらとしては最悪の状況を作ってしまう。だからまずは、人を納得させるためには「人の意見には敬意を払い、誤りを指摘せず常に外交的であるべき」である。
本書は決して自身が相手より優位な立ち位置に立つためのバイブルではなく、人間が社会で生きていくうえで必要な「社会的人間関係に必要な考え」が詰まった学生から社会人まで万人必読の書となっている。
(内田拓実)

朝井リョウ『何者』
新潮文庫
2015年6月刊
皆さんは「就活」と聞いて、何を思いますか?大変そう、しんどそうとは思うものの、今まで私たちには無縁だったため、あまり想像できないのではないでしょうか。しかし、私たちにとって未知なる世界であった「就活」が、本書を読めば決して他人事ではなく、自分も一人の登場人物として物語を行き来するでしょう。
物語は就職活動を目前に控えた5人がそれぞれの思いを胸に進展し、5人の友情や人間関係も思わぬ方向に流れていきます。バンド活動にかまけて留年する人、芸術で身を立てると大学を辞めてしまう人、就活を馬鹿にする人、履歴書を埋める肩書きだけがたくさんある人。この登場する大学生の実在感が、私たちを身近に感じさせます。
主人公である二宮拓人はいつも他人のことを分析し、必死に「何者」かになろうとする友人を見下していました。何故このようなことをするのか。それは自分に自信がないからです。「この人は現実が見えていない馬鹿だ」と自分に言い聞かせて自分を正当化するしかないからです。「どうせ成功しない」という、自分に自信が持てなくなっている時に出てしまう言葉。一度は誰しもありませんか? TwitterやFacebookなどのSNSによって自己表現し、他者と繋がり合おうとし、皆が「何者」になろうとする痛ましくも切実な姿がリアルに描かれています。最後には「私たちは何者かにはなれない。」「自分は自分にしかなれない。痛くてかっこ悪い今の自分を、理想の自分に近付けることしかできない。みんなそれを分かっているから、痛くてかっこ悪くたって頑張るんだよ。かっこ悪い姿のままあがくんだよ。」という友人の言葉で、拓人は一番愚かなのはダサくても努力する人々を嘲笑う自分自身だということに気づきます。
『何者』の大きなテーマは「就活」ですが、それ以上に就活を通して見え隠れする人間の闇が見所です。ラストは関係なかったはずの読者である自分が、突然名指しされたかのように言葉の一つ一つが深く胸に刺さります。本書はこれから就職活動を控えている私たちにとって、大きなダメージを与えるかも知れません。しかし、必ず大切なことに気付かされ後押ししてくれる作品です。皆さんも本書を読んで、自分自身を見つめ直し前に進みませんか?
(大西香奈)

水島広子『「他人の目」が気になる人へ 自分らしくのびのび生きるヒント』
光文社
2016年8月刊
「かわいい」「きれい」「ブス」「イケメン」「スタイルがいい」「デブ」「おしゃれ」「ださい」「キモイ」。みなさんは「他人の目なんて気にしていない!」と言い切ることが出来ますか? 程度は違うにしても、ほとんどの人が「他人からどう思われているか」を気にしていると思います。
「他人の目」が気になる原因を本書では「プチ・トラウマ」と呼んでいます。小さいころから「いい子」「悪い子」「勉強が出来る」「運動音痴」などの評価をみなさんも受けていませんでしたか? この評価を「プチ・トラウマ」と呼び、ネガティブな評価は人を傷付け、そして私たちは自分を守るために「他人の目」を気にするようになります。仮に良い評価を貰えたとしても、次も良い評価を受けなければとプレッシャーがかかり、そこから「他人の目」を気にしてしまう場合もあります。
1番身近なものは「自分の見た目」だと思います。「あそこで笑っているのは自分の体型を見て嘲笑しているんじゃないか?」「自分に変な所があるんじゃないか?」と心配になったり、自撮りやプリクラでうまくとれた自分以外を認められない状態になってしまい素顔が見られないようにマスクを付けることはありませんか? 見た目以外にも、1人で授業を受けていたり、お昼ご飯を食べていると周りの人から「あの人1人でさみしくないのかな?」とか「可哀想」と思われていないかと「他人の目」を気にしてしまうことはありませんか?
「いや、私は気にしない!」と思っている方も「他人の目を気にしないように見える」という「他人の目」にとらわれている場合もあれば、これから先何かの拍子に強烈に「他人の目」が気になるようになる場合もあります。この本を読んで自分に自信を持ち、他人がどう思おうと揺るがない自分になり、自分らしくのびのびと生きていきませんか?
(大原美穂)

小笠原喜康『議論のウソ』by
講談社現代新書
2005年9月刊
いつも言い負かされてしまう。いつも人の意見を鵜呑みにしてしまう。いつも反論できない。いつも情報に翻弄されてしまう。そんなあなたに『情報に騙されない』方法を論じた本書をお勧めします。
あなたはメディアリテラシーという言葉を聞いたことがありますか?聞いたことはあるが意味はわからないという方も多いと思います。リテラシーとは与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力のことです。テレビや新聞、ネット、書籍、雑誌など様々なメディアから日々出される膨大な量の情報をどう受け取り、どう解釈すべきか。その方法がわかりやすく説明されています。第一章では、少年非行の統計から「統計というものがもつ潜在的な危険性」を、第二章では、一昔まえに話題となった『ゲーム脳の恐怖』という本を例に「私たちが陥りやすい権威への妄信の問題」を、第三章では携帯電話の心臓ペースメーカーへの影響論を例に「変化する情勢によって、以前には妥当なことでも、時間とともに誤りになることがあるという問題」を、第四章では、ゆとり教育批判を例に「世の中の問題が、必ずしも白黒つけられないままに、根拠が不十分であるにもかかわらず、いわば一つのムードのなかである方向へと向けられていくこと」を論じています。
さらに本書ではメディアリテラシーを身につけることにとどまらず、「わかる」とはどういうことか、またその情報が「ホント」か「ウソ」か「正しい」のか「正しくない」のかを果たして即座にその場で判断すべきなのかということについても論じています。
現代そしてこれからの社会は、私たちひとりひとりが主役となる社会になるでしょう。誰かに支配してもらうのではなく、自分自身で自分を支配する社会。こうした社会は、誰かがつくった「正答」を学んで、それに忠実になる時代ではなく、自分で自分の考える「正答」を作り直して行かなくてはならない時代であると著者は論じています。こうした時代に、提示された情報を鵜呑みにするのではなくどう受け取るべきなのか?あなたは今学ぶ必要があるのです。
(小田将弘)

齋藤孝『人はチームで磨かれる』 by 里岡航
日経ビジネス人文庫
2016年3月刊
突然ですが、あなたがこの世で一人しか存在しない人間だとするとどうしますか? 話す相手もおらず、人を見ることもない世界に自分一人だけ存在したらあなたはどんな行動をとりますか? そんなこと想像したこともないですよね。ずっと何もせずに死ぬのを待つだけの人もいるでしょう。もし、何かをしようとして困ったときに、あなた一人の力で生き抜いていくのは容易ではありません。私たちは、無意識のうちに自分以外の人間から影響を受けて成長し生きていられるのです。
本書のタイトルは『人はチームで磨かれる』です。このタイトルだけをみて、人はチームにいれば成長できる、自分を磨くことができると想像する人もいるでしょう。しかし、本書ではまず人が集まっただけでは「チーム」ではないとはっきり言います。では、どのようなチームが人を磨くことができるのでしょうか。どのような人がチームによって磨かれるのでしょうか。筆者の斎藤孝さんが本書の中で話しています。
 「学ぶことは楽しい」これは筆者の斎藤孝さんの基本概念です。誰もがこの気持ちがないと成長することはできません。今、あなた自身に問い直してみてください。学ぶことを楽しいと思って生活していますか? あなたの身の回りには学ぶための宝がたくさん置いてあります。見過ごすだけでなく探して見つけていきましょう。そうすればきっと、あなたも磨かれていくに違いありません。
あなたも今何かのチームに属しています。同じ仕事のチーム、部活やサークルというチーム、あるいは家族というチーム。そうした中で今、様々な場面で伸び悩んでいる人、人間関係がうまくいっていない人は特に、本書を読んで当たり前の日常を少し変えて新しいあなたに出会ってみませんか?
(里岡航)

高橋弘樹『TVディレクターの演出術 物事の魅力を引き出す方法』
ちくま新書
2013年11月刊
私たちが普段何気なく見ているテレビ番組、それらは一体どのようにして日々生み出されているのか知っていますか?多くの人はタレントやお笑い芸人が出演した番組内容に沿って演出し、それが放送されていると考えるのではないかと思います。しかし実際は放送作家をはじめ、カメラマン、ディレクター、ADといったもっと多くの人たちが番組制作に携わっているのです。その中でもディレクターは特に重要な役割を果たしています。
本書では「世界ナゼそこに?日本人」「空から日本を見てみよう」「TVチャンピオン」などのタレントに頼らない『手作り番組』を、テレビ東京で作り続けたディレクターのアイデアと工夫で「形」にする技術が描かれています。
『手作り番組』を作る技術、すなわち物事の魅力を発見し最大限引き出す技術は、新しい面白さの発見の仕方や、見ている人を飽きさせないプレゼンの仕方、より商品に親近感を持ってもらう方法など、テレビ番組の制作だけではなくあらゆる仕事に通底する普遍的な技術であり、また面白さを探すにはネットではなく足を使うことも大切で、その取材の下準備にネットや古書を活用することが提案されている。これは私たちにもいえることで、ネットの情報に左右されて物事の本質を見失なってしまい、実際に行ってみないとわからないのに情報だけですべて決めつけてしまう私たちの習慣と同じではないでしょうか?
さらに、番組は意図を持って演出されており、どういう意図を持って演出されているのか、そのカメラポジションやアングルにはどんな意味が込められているか、また編集の構成などを考えながら見ると、テレビは一層面白くなると本書では述べられており、こうした映像の文脈を読み解く能力が現代ではかなり重要で、文章から得る情報と映像のようなイメージから得る情報と現代人はどちらが多いでしょうか。人それぞれだとは思いますが、メディアにも街中にもイメージが氾濫している現在、映像などの文脈を読み解く能力の必要性は高まってきていると思います。
あなたもこの本を読んで、「当たり前を問い直す」とともに、テレビ番組を別の視点から楽しんでみてはいかがでしょうか?
(讃岐谷拓実)

森川友義『一目惚れの科学 ヒトとしての恋愛学入門』
ディスカヴァー携書
2012年12月刊
あなたは現在の恋愛という行為が、遥か昔狩猟採集時代とほとんど変わらないと知っていますか?現在の人間は文明としては目覚ましい発展を遂げていますが、実際は遺伝子的には約15,000年前からあまり変わっていないのです。
つまり「恋愛」とは、人間の感情によってのみ起こるものではなく、遺伝子を次世代に繋いでいくための科学的なメカニズムのもとで行われているのです。人間は、実はメカニズムに基づいて五感を駆使して行っていると言えるのです。
中でも、取り立てて興味深いのは、白血球の血液型が好みの異性を表しているという事です。日本人は、赤血球によるABO型の血液型診断を好んでいるケースがよく見受けられますが、実際科学的な根拠はありません。しかし、人間には白血球にも血液型が存在し、こちらには相性の合う異性を科学的根拠に基づいて導き出せるという検証があります。一生支えあうパートナーを見つけるヒントは、私達が普段から五感を用いて知る、日常の些細な情報から見つけることができるのです。
現代社会において、狩猟採集時代のように生きることが難しく、遺伝子を残すという事がとても困難だった頃と異なり、人生はとても長い期間であるといえるでしょう。しかし、ヒトとして、一生を共に生きる相手を見つける事は今も昔も変わらず簡単な事ではないと言えます。そして、時代は移り変わるのに対し、変わらない「恋愛遺伝子」というものがどれだけ現代人の恋愛を困難なものにしてきたのでしょうか。
しかし、本書を通じてそもそも「恋愛」というもの、それ自体が何であるかをもう一度見直してみるのはどうでしょうか?自分の感情を一度客観視し、メカニズムを学ぶことで、自分の将来を豊かにする恋愛に出会うことができるのではないでしょうか。
(新開誠志)

齋藤孝『人を10分ひきつける話す力』
だいわ文庫
2014年10月刊
みなさんは人前で話すことは得意ですか?人前で話すとは特に大人数の前で話すことです。きっと苦手な方が多いでしょう。まず何から話せばいいかわからなくなったり、話したい事を上手くまとめられなくて、結局何が言いたかったのか相手だけでなく自分でさえわからなくなったり・・・みなさん一度はそんな経験あるのではないでしょうか。四回生になり、就職活動の面接でしっかり自己アピールできる自信はありますか。重要な会議で目上の人相手に上手にプレゼンテーションをできる自信はありますか。不安ですよね。そんなみなさんにおすすめしたい本が齋藤孝さんの『人を10分ひきつける話す力』です。この本ではどのように話したら相手に自分の話に興味を持ってもらえるか、惹きつけられるかについて説明してあります。
例えば、校長先生のお話。全校集会や運動会などでの校長先生のお話はすごく退屈な時間ですよね。なぜ退屈なのでしょうか。それには二つ理由があると考えられます。一つ目は話が一方的だと言う点です。そりゃ一対大人数なので一方的になりやすいでしょう。しかしその話に興味がなければただの地獄の時間となってしまいます。自分の話に興味を持ってもらうためにも相手の心に問いかけてみたり、質問をして考えてもらったりすることが大事になってきます。二つ目は原稿の棒読みやジェスチャーが少ない点です。話に抑揚がない人のスピーチを聞いても何も頭に入ってきませんよね。原稿を準備することはもちろん大事なことだと思いますが、そればかりにとらわれず、聞き手の反応を見て話す内容やテンポを変え、またジェスチャーを加え自分の話に惹きつける必要があります。そうすることにより、原稿をただ読んでいるスピーチではなく、ライブ感のある聞き手にとって有意義な時間を過ごせるスピーチになります。
話す力のある人には四つの力があると齋藤孝さんはおっしゃっています。みなさんもこの四つの力を知りたくないですか。身につけたくないですか。人前で話す力をつけることでこれからの人生に自信をつけることができるでしょう。
(辻中美波)

榎本博明『記憶はウソをつく』
祥伝社新書
2009年10月刊
人の記憶が完全に正しいとは言えない、という考えは不思議ではありません。なぜなら私達には生まれてから今まで経験した全ての事柄について正確に記憶する事が不可能だからです。人は誰しも記憶間違えする事があります。また人の脳は新しい記憶ほど鮮明に覚え、古い記憶を忘れていってしまいます。しかし実際は体験していない出来事を後から本当に体験したかと自分の脳に「ウソの記憶」を簡単に植えつけられるとしたら私達は自分の記憶をどこまで信じたらよいのでしょうか。
本書は近年心理学の研究で明らかにされつつある「ウソの記憶」について心理学者の検証や裁判における冤罪を例に述べています。具体的には「人の記憶は後で入ってきた情報や心理的変化により無意識に作り変えられてしまう」というものです。人が無意識に記憶を作り変えながら生きていることが事実だとしたら私たちの中に本当に信用できる記憶など存在しないのではないでしょうか。
本書ではまず「記憶の書き換え」の容易さを心理学実験を通して明らかにし、また人の記憶が如何に曖昧であるかとその恐ろしさについて冤罪を例に詳細に述べています。記憶の曖昧さの恐ろしさが最も顕著に表れるのは裁判における冤罪判定です。目撃証言は目撃者が自分の記憶を過信しすぎて犯人とは全く異なる人を犯人だと思い込んだまま、事件発生後に新たに得た中途半端な情報を元に想像力を働かせてしまい無意識に記憶を書き換えてしまうので最終的には真実とは全く異なる証言をしてしまう事が多々あります。それにもかかわらず裁判で最も信用されるのが目撃証言なのです。そして被疑者はストレスを感じる環境下で長時間拘束され尋問を受けることで精神的にも身体的にも苦痛を感じこの場から解放されたい気持ちから無意識のうちに自分の記憶を書き変え罪を認めてしまうのです。
私たちは日頃から自分の記憶に頼りがちです。場合によっては人の一生を左右してしまう記憶が「後から書き換え可能」という事実はあってはならないことです。現在、裁判員制度で国民全員が裁判官になり一人の人間の一生を決める立場に立つ可能性があります。本書を読み、人の記憶が曖昧なものであると全ての人が理解し知識として身につけておく必要があると思いませんか
(鄭季央)

三宮貞雄『コンビニ店長の残酷日記』
小学館新書
2016年4月
あなたはコンビニでトイレを借りることを当たり前だと思っていませんか?きれいに利用しようという心遣いはありますか?また、用を足すと、何も買わずにさっさと出ていく人が多いでしょう。
この本では某コンビニ店のオーナーである筆者が上記のようなコンビニの知られざる実情や苦悩、そこにかかわる人間関係が日記形式で綴られています。
コンビニという場所は人間の本性が現れる場所です。普段エリートのような装いをした紳士や、誰もがうらやむ美男、美女でも、店内に入ると常識では考えられないような行動を起こすことがあるそうです。私も読んでみて、驚きを隠せませんでした。そこのあなたも自覚なくやっているかもしれません・・・。
また、筆者は現在のコンビニチェーン店のシステムについて嘆いています。例えば、現場監督者、店舗指導員といった役回りであるスーパーバイザーがいます。彼らはコンビニ加盟店に対して強い立場にある本部をバックに契約解除権や契約更新拒絶権をちらつかせながら、本部の利益を優先させるような大量発注などを推奨してくる実態があります。また、私が一番驚いたのは商品を正規ルートで仕入れるよりも、ドン・キホーテの小売価格のほうが安かったということです。これには何か裏があるのでしょうか・・・。なぜこのようなことが起きているのかが気になる方はこの本に書かれているので是非読んでください。
以上のような例はこの本に書かれているほんの一部にすぎません。筆者はこのような、本部に対して非常に弱い立場にある加盟店の現状や、コンビニを利用するお客さんに対するマナーが向上することを切に願っています。ぜひこの本を読んでみてください。きっと普段何気なく使っているコンビニが違った景色に見えてくるはずです。
(中川雄太)

根本橘夫『「自分には価値がない」の心理学』
朝日新書
2016年11月刊
みなさんは他人と自分を比べたり、自分を押し殺して人の意見にのっかったりしたことがありませんか?私はその一人です。自分に自信がないためにこのようなことをしてしまう、つまり無価値感をもっているのです。無価値感が強いと物事を悪い方にばかり考えてしまい、たまに生きづらさをも感じてしまったりもします。誰もが自分に自信があるわけではありません。みなさんも心のどこかで「どうせ自分なんか」などという無価値感をもってしまっていることでしょう。本書ではこのような無価値感とは何なのか、なぜ無価値感というものが生じるのかを説明し、そこから抜け出す対処法というのが書かれています。
無価値感が生じる原因として生得的要因というのが挙げられています。生得的要因とは生まれつきもっている性質、つまり行動遺伝学や生理心理学のことであり、この中でも本書では最大のものは過敏性であるとしています。私たちにとっても身近で共感できるわかりやすい例を挙げることでこのことが証明されています。みなさんも「あの子にはかなわない」や「自分が他の人より劣っている」といった体験、また失敗や挫折を一度は経験しているのではないでしょうか。そのような体験から自信を喪失させ、無価値感をもたらしているのです。
無価値感とはこんなにも簡単に生まれてしまいます。しかし自分に価値がないと思いながら生きるというのは辛いものであり、誰もができることなら自分に価値があると思いたい、また自分に自信をもちたいと思っているのではないでしょうか。無価値感を乗り越えるには自分を自分として成長させることにより、自分の内にある力を実感すること。こうした体験を積み重ねていくことで、自分を信頼することができるようになります。つまり自分自身を生きるということが重要なのです。本書はあらゆる角度からこの自分の内にある力を引き出すヒントを与えてくれている一冊なのです。無価値感で悩んでいる方はぜひ、本書を手にとってみてください。少しは自分に対して自信がつき、ネガティブな考えをすることも減っているのではないでしょうか。
(中野萌夢)

梅田悟司『「言葉にできる」は武器になる』
日本経済新聞出版社
2016年8月刊
皆さんはこのような経験はありませんか? 「自分の言いたいことが言葉にならず相手に伝わらない」、「メールやLINEなど文章にすると文字だけでは気持ちまでは表現出来ない」、「想定していない質問をされると言葉に詰まってしまう」、最近では「SNSの投稿に人を惹きつける文章を書きたい」、など、おそらく多くの人がこのように様々な場面で言葉に関する課題を抱えているでしょう。話したり、文章を書いたりするのが下手だから、うまく伝えられないと感じているのです。しかしそれは言葉にするのが苦手なのではなくて、言葉にできるほどには、考えられていないというだけなのです。「言葉にする」ということは、簡単なように見えて実は難しいことです。ゆえにその言葉にできる力を身につけること、これが本書の「言葉にできるは武器になる」ということなのです。
ここで皆さんに質問します。言葉をコミュニケーションの道具としてしか、考えていないのではないですか? この問いに対して疑問を感じる人が多数を占めると思いますが、言葉にはもう1つ大切な役割があるのです。一般的に言葉は自分の意見を伝え、相手の意見を聞くための道具とされています。しかし、言葉が意見を伝える道具ならば、まず、意見を育てる必要があるのではないでしょうか。うわべだけの言葉のテクニックでは、人はなかなか自分のために動いてくれません。しかし、内なる言葉を深掘りし、それを言語化することで気持ちを表現できるようになり、相手にそれが伝わり始めます。自らの思考を磨くうちに言葉も磨かれ、あなたの言葉にパワーを与えます。相手はそれに共感を覚え、あなたを応援してくれるようになるのです。
それでは、「内なる言葉」と本気で向き合うということはどういうことでしょうか? 実際に何をすれば良いのでしょうか?
本書では、その「内なる言葉」を育て、最終的に「外へ向かう言葉」に変換させるまでのプロセスを教えてくれます。その上で、実際に行動をする時にこの本をガイドブックのように見返すことになるでしょう。本書をよむことで一生モノの「言葉にできる力」を手に入れてみませんか?
(中村梨香子)

安井元康『99・9%の人間関係はいらない 「孤独力」を磨けば、キャリアは拓ける』
中公新書ラクレ
2016年12月刊
皆さんは「上司や先輩や先生に評価されたい」「誰かに褒められたい」「周囲の人に嫌われたくない」「友達が少ないなんて思われたくない」など思っている人が大半ではないですか?自分に嘘をついて本当は自分とは合わない集団に加わり、惰性で人間関係や友人関係を続けてしまっていませんか?そのような誰とでもうまくいくような八方美人のような人間が素晴らしいと思う人が多い気がします。自分はAと思っていても、目の前の人や大勢の人がBといえば、Bと答えてしまうような価値観が当たり前になっているのではないでしょうか。
しかし、本書では「仮に人に嫌われても、むしろ嫌われよう」「友達100人なんていらない」と断言しています。前文に書いたことが当たり前の人にとっては衝撃的な文章ですが、これは皆さんにとってプラスな言葉なのです。自分の心に嘘をついて、遠慮をして、ストレスを抱え込んで幸せはつかめません。人生の決定権は皆さん個々人が持っているということです。自分の考えや経験、固有の価値観というものは価値あるものだからです。自分自身を貫くことが大人としての皆さんのあるべき姿といえます。
そういった価値観を取り入れれば、ただ嫌われて、悪口を言われるのではないかと心配する人がいるのではないでしょうか?そういったことを出来るだけ回避することが本には記されています。たとえば、仕事においての関係をあげてみます。参加したいと思わない、自分にとって価値がある場ではないと思う飲み会を断ったとしても、その飲み会に参加してない間にまだ終わってない仕事を引き受け、自分にとって必要なスキルを身につけるために資格の勉強をすれば然るべき関係は築かれるというのです。
今普通に生活している言動を見直してみませんか?そうすればもっと自分らしい、無理しないで、充実した生き方に変わるはずです。本書には、あなたらしさを見つける手助けがたくさん書かれています。
(長井美乃桜)

山田昌弘『モテる構造 男と女の社会学』
ちくま新書
2016年11月刊
皆さんは男性と女性の生き難さについて考えたことはありますか?あまり考えたことのない人が大半を占めるでしょう。本書では男性と女性の生き難さの構造的違いを明らかにすることが目的となっていて、生き難さについて考えたことのない人にもデータを用いたりして分かりやすい内容になっています。また本書のタイトルでもあるモテる構造についても著されています。
皆さんはどんな男性、どんな女性がモテると思いますか? 古来からモテる人、モテない人は存在していて、その基準は時代とともに変遷しているのは確かです。しかし整理すると「男らしい男性」「女らしい女性」がモテるといった傾向があります。ここでいう「男らしい男性」というのは収入を得ることが結びついていて、「女らしい女性」というのは家事をすることが結びついています。収入を得るには仕事が出来なければなりません。つまり「できる男」がモテるということです。逆に男性は女性に稼得能力を期待する必要はないので、女性の仕事能力は、モテる要素と無関係になりやすいのです。また家事をする女性がモテることは先ほど述べました。しかし、家事は無償労働で競争がないため、家事、育児がうまいということよりも、家事や育児などの家庭的役割を進んでやってくれるという性格的要素が、配偶者選択において魅力を感じる要素となるのです。つまり家事が好きな女性が「モテる」のです。
これを生き難さに関連付けると、男性は「できなければモテない」という世界に生きることでもたらされる常にできなければいけないというプレッシャーが生じてしまうという生き難さです。一方、女性は、「できる」ことと「モテる」ことが、分離した世界に生きることで仕事ができても性的魅力が増すわけではなく、逆に、時には、できる女性は、女性としてのアイデンティを否定されることもあるという生き難さです。
日本社会では、性別によって「生き難さ」に質的違いがあります。本書を読むことがその生き難さを軽減することの手助けになるでしょう。
(星山雄希)

西澤 哲『子どものトラウマ』
講談社現代新書
1997年10月刊
歴史は繰り返す。紀元前のローマ帝国の繁栄と滅亡、中世のモンゴルにおける支配と衰退、現代のソビエト連邦の誕生と分裂。このように歴史というものは長年に渡り繰り返していくことがあらゆる場面で見られます。「歴史」というと少し大げさな表現になりますが、親子の間でもそれは言えることだと思います。
子どもの頃に嫌な思い出があり、それが原因で何かに支障をきたすなんていうことを聞いたこと、あるいはその体験をしたことはありますか?その原因となっているもののことを精神医学、臨床心理学ではトラウマと呼んでいます。この「トラウマ」が本書で取り上げている大きなテーマ。そしてこのテーマを論じるための肝となるのが「虐待」です。
虐待といわれて多くの人が連想するのは殴る蹴るなどの身体的なものではないでしょうか。私自身も最初はそうでした。しかしそうではありません。本書では虐待というものをさらに詳しく4つの分野に分けて認識し、その原因と打開策を探っています。トラウマの原因となる事象を根本から摘み取るのが最善策。ではすでにトラウマをもっている心を癒すにはどうすればいいのか、そこにもスポットライトをあてています。
また、虐待のもっとも厄介な点は、それをトラウマとして育った子どもが大人になった時に自分の子どもにも虐待をしてしまい同じことの繰り返しが発生するということです。
人間が生きているうちに持ってしまったトラウマ、その原因の多くとなる虐待の性質と影響、最後に虐待の持つ再現性と繰り返されてしまう悲劇。この本ではその3つが軸となり論じられています。
繰り返すべき歴史と決して繰り返してはならない歴史。悪い歴史を作らない術、繰り返そうとしてしまっているそれをくい止める術がわかる本。この本を読んで将来トラウマを抱えて苦しむ人がいなくなるような世界を作るためのスタートをきってみてはいかがでしょうか。
(桝田謙太)

大内伸哉『勤勉は美徳か? 幸福に働き、生きるヒント』
光文社新書
2016年3月刊
仕事のための人生か、人生のための仕事かという問題を、誰しも一度は考え悩んだことがあると思います。人生で一番長く使う時間、つまり仕事をしている時間を幸せに過ごすことが、幸福な人生につながるのではないでしょうか。本書では様々な観点から考えられた幸福に近づくためのヒントをまとめています。
世界の幸福度ランキング(2015年版)で日本は46位と世界的にみれば豊かで平和な国にしてはとても低いものでした。私たちの多くは仕事が辛いのは当然で、そこから幸福を得ることは難しいと考えており、実際に厳しいノルマや納期、機械的な仕事や不当な評価、長時間の非効率な会議に出席させられるなど、労働者が主体的に仕事に参加できていない状況が原因と考えられます。残念ながらこの状況を改善することはかなり難しいといえます。というのも雇用というものは会社の指揮命令下で働くことであり、本質的に労働者の主体性とは相容れないものだからです。
早くも万策尽きたかのように思えますが、一つ幸福につながる可能性が残っているものがあります。それは自分自身の意識や働き方を変えることであり、抽象的にいうと主体性を回復すること、創造性を持つことです。
前者は仕事において自分の決定できる領域をできるだけ確保することが必要だということです。とくに「時間主権」を回復することがとても重要です。時間的な拘束は働く者にとって自分の人生における主体性を弱めてしまいます。
後者は仕事の中で自分の作品を創造しようとすることです。ここでの作品とは、工場で製造された製品だけではありません。自分なりの仕事の作法や技術というものがあり、そこから生まれた成果も立派な作品なのです。ここに自分の個性を注入できれば、そこには創造という大きな喜びがもたらされるでしょう。
以上のような働き方こそ幸福につながる可能性の一つである、ということが本書の内容でした。
ただ面倒と思いながら、アルバイトをしたり、大学生活を送ったりすることは結局自分自身の人生を無駄に消費し、幸福から遠ざかる行為であると考え直すことができました。本書のヒントを自分なりに解釈し、実行することで案外幸福感は近くにあるのかもしれないと思います。自分を見つめなおせる一冊でした。
(水崎太貴)

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