エディンバラ再訪

 
2012年3月11日から16日まで、英国スコットランドのエディンバラを訪れました。エディンバラはかつて2002年4月から2003年3月まで在外研究を送った思い出深い街です。今回の訪問は7年ぶりですが、7年前はロンドンに在外研究中の同僚K先生と2日間ほど立ち寄っただけですので、実質的には在外研究以来9年ぶりの訪問ということになります。
正直に告白すれば、2003年3月、エディンバラを離れる時の僕の気持ちは、愛憎半ばする複雑なものでした。エディンバラの街並みは本当に美しく、見飽きることがありませんでした。ディキンスン先生という素晴らしい指導者に恵まれたものの、先生にご指導いただいて書いた初めての英語論文は国際レベルで勝負するにはほど遠いものに終わりました。国際ジャーナルに投稿したものの査読をパスできず(掲載不可)、大いなる挫折感を味わいました。なかなか上達しない英会話が挫折感に輪をかけました。初めて国際学会(Eighteenth-Century Scottish Studies Society, 3-7 July 2002, Edinburgh)に参加しましたが、手も足も出ませんでした。おまけに、ありえないような住居トラブルに巻き込まれて、途中でアパートの変更(引っ越し)を余儀なくされ、落ち着かない生活が続きました。そして、何より、在外研究途中で父の重病が判明しました(帰国後ほどなく永眠しました)。焦燥感と不安感に押しつぶされそうなエディンバラ生活でした。
それから9年の歳月が経過しました。その間に僕は、日々の仕事(教育・学内行政)をこなしつつ、(日本語ですが)単著を公刊し、博士の学位も取得できました。英語で口頭発表したり、英語で論文を書いたりする機会も少しずつ増えてきました。国際学会・シンポジウムに参加して英語で発表することはすでに4回経験しましたし、国際ジャーナル(Modern Age誌)に英語論文を投稿し、採用・掲載にいたりました。ようやく様々な重圧から解放されつつある今、エディンバラを訪れて、あの修業時代を回顧したくなりました。
9年ぶりの滞在はわずか6日間。しかも、初日と最終日は移動のために潰れ、実質4日間のごく短い滞在でした。しかし、結論から記しますと、この4日間の滞在で、僕は研究者としても人間としても「再生」することができた気がします。
さすがに初日はけっこう苦しかったのですが、2日目あたりからスコットランド訛りの英語に耳が慣れてきて、聞こえる言葉のすべてが懐かしさでいっぱいになりました。路線バスの系統番号が目に入ると、「このバスに乗ると・・・まで行けて・・・」という9年前の記憶がゆっくりと蘇ってきました。土地勘さえ戻れば、バスの一日フリー乗車券を利用して、どこへでも軽快に無駄なく移動できます。たった4日間とは思えないほど濃密な時間を過ごすことができました。9年ぶりのエディンバラは本当に美しく、やさしく、魅力的でした。「あの修業時代があったからこそ今の自分があるのだな。今の感動があるのだな」と、もがき苦しんでいたあの頃の自分を素直に肯定できるようになりました。報われました。
   
エディンバラ空港に到着  シャトルバスに乗って一路City Centreを目指す 
   
 素晴らしい夜景がお出迎え 宿泊ホテルのBarcelo Edinburgh Carlton 
   
 Scottish breakfast (buffet形式)
左に見えるのがスコットランドの伝統料理の一つである
porridge(麦を似たお粥)
スコットランドの伝統料理の一つhaggis(羊の臓物)
僕の大好物でもあります
   
Edinburgh Castle Edinburgh Castle
   
Edinburgh CastleとNational Gallery of Scotland The Scott Monument 
   
Royal Mile
メイン・ストリートの1つで、 Edinburgh CastleとHolyrood Palaceを結びます
 Holyrood Palace
エディンバラ滞在中のエリザベス女王の住居
   
Princes Street これもメインストリートの1つ
この写真ではわかりにくいですが、現在、路面電車の工事中です 
 路面電車の工事風景
   
2002年4〜9月の住処Lockrin Buildings (Gilmore Place)
かつて住んだアパートは健在でした
2002年9月〜2003年3月の住処Bruntsfield Place
こちらもかつて住んだアパートは健在でした 
   
 お世話になった不動産屋さんも健在でした スコットランドと言えば、「バグパイプ」
   
 偉人を数多く輩出したスコットランド
『シャーロック・ホームズ』 シリーズで知られるコナン・ドイルもその1人
その名前を冠したパブを発見
今回文献資料の調査を行った
National Library of Scotland 
 
   
古書店での資料収集も欠かせません
Peter Bell では大きな収穫がありました
植物園近くのこの古書店のご主人はたいそう博学で
たくさんの専門書を僕に紹介してくれました
   
 スコットランドで一番人気のビールTennent's Lagar
大好きなTennent's Aleは残念ながら発見できませんでした
スコットランドの国民的ジュースIrn-Bru 
「経済学」という学問の歴史(特にその生誕)について研究している僕が在外研究先にスコットランドを選んだのは、改めて説明するまでもありませんが、スコットランドが「経済学」の生誕の地だったからです。『国富論』(1776年)を著者で「経済学の父」と称されるアダム・スミスも、スミスの友人であり18世紀最大の哲学者・歴史家と評されるデイヴィッド・ヒュームも、スコットランド出身で、どちらのお墓もエディンバラにあります。また、エディンバラ旧市街の目抜き通りであるロイヤル・マイルには、スミスとヒュームの像が立っています。今回のエディンバラ訪問では、将来的に「経済学説史」講義の補助教材として利用することを考えて、スミスとヒュームに関係する建造物については、写真撮影だけでなくビデオ録画も試みました。そのうちに講義で披露したいと思います。
   
スミスの墓があるCanongate Kirk   スミスの墓
   
 スミスの墓(接近)  スミスの墓(もっと接近)
   
スミスの像  ヒュームのお墓があるOld Calton Cemetery 
   
 ヒュームの墓 ヒュームの墓(接近) 
   
 ヒュームの墓(もっと接近)  ヒュームの像
もちろん、エディンバラ大学にも足を運び、かつてご指導いただいたディキンスン先生と面会しました。9年前にご指導いただいた論文が悪戦苦闘(=改訂に次ぐ改訂作業)の末にようやく査読をパスして国際ジャーナルに掲載されることが決まったので、そのことを報告したのですが、たいそう喜んでいただけました。これでやっと学恩に少しは報いることができた気がします。また、今後の研究について貴重なアドバイスを頂戴しました。ここ数年のうちに二度目の在外研究のチャンスを関西大学から与えられることになっていますが、二度目の在外研究の地としてエディンバラを選ぶ場合の手続きなどについてもアドバイスを頂戴しました。(かつて足繁く通った歴史学部は、建物の老朽化のために別の場所に移転しており、それが少しさびしかったですが。)
   
 かつて歴史学部があった建物は立ち入り禁止に 大学附属図書館は変わらぬまま
   
 歴史学部は現在、この建物の左奥に移動しています 歴史学部の玄関
   
 スミスの弟子D・スチュアートの名前を冠した比較的新しいビル
9年前にはありませんでした
 ディキンスン先生と一緒に
エディンバラについて書くのは本当に久しぶりですから、僕の大好きなエディンバラについても、少しばかり駄文を連ねたいと思います。
僕の大好きなエディンバラ @The Meadows エディンバラ大学のすぐ南方に広がる巨大な芝生公園です。毎日ここを通り抜けて大学に行きました。20分くらい歩かないと通り抜けできません。それくらい巨大なのですが、その時間が楽しくてたまらないほど、素晴らしい緑です。大学から自宅アパートへの帰路、しばしば公営プールに立ち寄って一泳ぎしました。その公営プールはThe Meadowsのさらに少し南方にあるのですが、外観だけからはプールに見えないので、最初見つけるのに苦労しました。「いったいどこにプールがあるんだ?」と。
   
   
   
僕の大好きなエディンバラ ACalton Hill エディンバラ市街が一望に見渡せる小高い丘。ここからの景色は格別です。朝の散歩で訪れました。ちょうど良い運動になります。
   
   
岩山の麓に白い変わった屋根の建物が見えますが、
これが「スコットランド議会議事堂」です
たまたまそばを通りかかったポーランド出身の若い女性に
撮影をお願いしました
 
僕の大好きなエディンバラ BBraidburn Valley Park 自宅アパートのあったBrantsfieldからバスで15分ほど南下、Morningsideを少し過ぎたあたりで、目を疑うような美しい光景が飛び込んできます。公園内を流れる小川が良い味を出しています。けっこう郊外なので、観光ルートに含まれることはまずないと思いますが、超オススメ、穴場です。
   
   
僕の大好きなエディンバラ CCramond Village エディンバラ市北西郊外、(北海へと通じる)フォース湾を見渡せる、風光明媚な小さな港町です。エディンバラ空港が近いせいで、頭のすぐ上を飛行機が飛んでいるのですが、羊たちのおかげで、それがとてものどかに感じられます。やや殺風景に見えるかもしれませんが、訪れるには少し季節が早すぎたみたいです。
   
   
僕の好きなエディンバラ D劇場 イギリスが誇るものの一つに舞台芸術があります。ハイレベルな舞台が、驚くほど安価で楽しめます。さすがにロンドンには太刀打ちできませんが、エディンバラも頑張っています。わずか4日間の滞在でしたが、たまたま演っていたハード・ロック・オペラとバレエを見ました。ハード・ロック・オペラのほうは少しB級の香りがする舞台でしたが(何しろ「吸血鬼が・・・」という設定ですから)、そのB級テイストを楽しませてもらいました。バレエのほうは、日本人二人がかなり大きな役で出演していて、何とも頼もしく思えました。どちらの舞台の客席も老若男女が入り乱れており、そうした幅広い客層がハイレベルな舞台芸術を根底から支えているのだと実感しました。
   
 The Edinburgh Playhouse
9年前にもここで『ミス・サイゴン』などを観ました
演目はSteve Steinman's Vampires Rock  
   
The Festival Theatre Edinbugh 演目は『美女と野獣』(のバレエ版)
驚きの£12! 
僕の大好きなエディンバラ E行きつけのお店 かつて行きつけだったお店にも足を運んでみることにしました。「まだ残っているかな?」 期待半分、不安半分で探してみました。いちばん足繁く通ったケバブ・レストラン「ケバブ・マハール」(ランチの大半をここでとりました)が健在だったことが、とても嬉しかったです。パキスタン人(だったはず)のご主人もお元気で、思い出話が弾みました。お気に入りのお店の多くは今でも健在でしたが、自宅アパート近くの中国超級市場と南アフリカ料理店Ndebelleだけが確認できませんでした。インド料理店Kalpnaは健在でしたが、親しくしていた店員さん(Ericさん)の姿はすでになく、行方もわからないとのことでした。少しさびしいですが、9年という年月を考えれば、仕方のないことですね。
   
 9年前と変わらぬ店構え ご主人もお元気 
   
大好物のdonar kebab ヴォリューム満点!
これがわずか£3.35なのです! 
インド料理はKalpna 
   
 フィッシュ&チップスはConcorde  中国料理はLee On
   
 ほとんど毎日利用していたスーパー(生協)も健在でした  かつて中国超級市場があった場所には、
現在、Bruntsfield Grocersなるお店が
小ネタその他
   
ごく普通の郵便局  ごく普通の魚屋
   
 エディンバラの「忠犬ハチ公」にあたるBobby  
   
BobbyにあやかったBarもあります  どうやら料理教室のようですが、
イギリス人に料理を習いたくはありませんよね
 
   
一瞬、ドキッとさせられます
何とも人騒がせなロゴですね
 
FRENCH CONNECTION U. K. = fcuk 
   
イギリスではtribute bandの活躍が目立ちますが、
Marillionのtribute bandの活躍にはさすがにビックリ 
 夕暮れ
   
帰国する最終日の朝、「また来いよ!」とばかりに、
虹が僕を送り出してくれました
  
 帰路(空の上)

(13 April 2012)

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