関西大学 孝忠研究室

最近の論文より2 『アジア法研究の新たな地平』

Research Life of Professor Dr. N. Kochu

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最近の論文より2 『アジア法研究の新たな地平』(成文堂、2006年)

はしがき


今、「アジア」は、大きく変わりつつある。社会と文化の多様性と重層性をその特徴とするアジアは、グローバリゼーションの急速な進展の中で、「変わらないもの」をも示しつつその存在感を増しつつある。「21世紀はアジアの時代」だと単純に言うことはできないが、既存の価値観、伝統的な学問アプローチ、すなわち従来の視点から「アジア」を考えるのではなく、「アジア」の視点から世界の動向をみることの意義が自覚されはじめた。このことによって従来「闇」とされていたものが「光」だと再認識されることすらありうると思われる(もちろん、「光」だとされていたことの欺瞞性も浮き彫りにされるかもしれないが)。

 今、「アジア」への関心がかつてないほど高まりつつある。経済分野における相互不可分・不可欠の緊密な関係の進展とあたかも「合わせ鏡」とも思えるような政治的な緊張関係は、それらを総体として認識したうえで、日本が「アジア」の一国として21世紀に自らをいかに位置づけ、いかなる役割を果たすべきかの明確なヴィジョンと政策を求めている。

 今、あらゆる学問分野で、従来の枠組み・方法論の再検討・再構築が求められ、試みられている。法学の分野においても、北米・西欧の価値観と認識枠組みの紹介検討に積極的な意義と意味があったことを評価しつつも、その限界とあらたなアプローチを模索する営為が続けられている。

 そして、今、日本におけるアジア法研究の新たな開始宣言を集約した本書『アジア法研究の新たな地平』公刊のはこびとなった。

 本書は、日本におけるアジア法研究の伝統と成果をふまえ、その到達点と限界を明らかにしつつ、「日本発 アジア法研究」の課題と展望を示そうと、アジア法学会のメンバーが総力を挙げて企画し、準備を重ねてきた論考の集大成である。したがって、個々の研究者の問題関心、研究テーマにかかる論文を寄せ集めたものではなく、上記趣旨・目的を共有しつつ執筆したものである(それぞれの論考の概要は本書「序」を参照されたい)。

 ただ、今日と将来のアジア法研究に求められている「重くかつ大きな」課題からすれば、本書が提示しえたものは、きわめて不十分なものでしかないことは率直に認めざるを得ない。しかし、このことは、将来にひらかれた未開拓の学問領域が大きく広がっていることを示すものでもある。本書の「開始宣言」を受け継ぐアジア法研究が今後大きく開花することを期待したい。

 本書は、多くの人々の支えと励ましによって公刊にこぎつけることができた。この場をかりて深くお礼申し上げたい。また、困難な出版事情の中であえて出版を引き受けて下さった成文堂に感謝したい。最後になったが、出版担当者として適切な助言をしつつ編集のサポートをして下さった本郷三好氏にお礼申し上げたい。
2006年4月20日穀雨
編集代表  安田信之 
孝忠延夫


目 次
序                        孝忠延夫

第1部 アジア法研究の方法と歴史

第1章 アジア法の概念とその生成過程               安田信之
第2章 アジアの法文化へのアプローチ-開発法学と法哲学、法文化論との交錯を手がかりに 角田猛之
第3章 アジア法制研究史                     香川孝三
第4章 紛争解決を通しての法形成とその正当性-東アジア法形成論のための準備的考察今井弘道
第5章 近現代中国法研究方法論試論                高見澤磨

第2部 アジア法研究の課題と展望


第1章 「法の支配」概念の柔軟化とアジア法の分析視角―「法の支配」の重層性・段階性・動態性の観点から    松尾 弘
第2章 アジア統合構想における法形成の選択肢-正統性と正当性のマトリクス              金子由芳
第3章 司法積極主義の生成と展開―インドにおける社会活動訴訟の展開 孝忠延夫
第4章 ジェンダー法学とアジア  ――日本の場合    神尾真知子

第3部 アジア各国・各地域の法と文化


第1章 東アジアにおける死刑廃止論考               鈴木敬夫
第2章 インドにおける州パンチャーヤト法の展開          浅野宜之
第3章 中国法のパラダイムとグローバルな時代における文明間の対話 季 衛東
第4章 中国法の思考様式 ――グラデーション的法文化       鈴木 賢
第5章 「人権」条項新設をめぐる「同床異夢」―中国政府・共産党の政策意図、法学者の理論的試み   石塚 迅
第6章 韓国初期憲法思想における民主主義の理念          國分典子
第7章 大韓民国の建国過程における国民確定の問題―「元祖韓国人」の国籍基準をめぐって        岡 克彦


編者・執筆者紹介――


*孝忠延夫  こうちゅう のぶお     関西大学法学部教授
*安田信之  やすだ のぶゆき      名古屋大学国際開発研究科教授
角田猛之  つのだ たけし       大阪府立大学人間社会学部教授
香川孝三  かがわ こうぞう      神戸大学大学院国際協力研究科教授
今井弘道  いまい ひろみち      北海道大学大学院法学研究科教授
高見澤磨  たかみざわ おさむ     東京大学東洋文化研究所教授
松尾 弘  まつお ひろし       慶應義塾大学大学院法務研究科教授
金子由芳  かねこ ゆか        神戸大学大学院国際協力研究科教授
神尾真知子 かみお まちこ       日本大学法学部教授
鈴木敬夫  すずき けいふ       札幌学院大学法学部教授
浅野宜之  あさの のりゆき      聖母女学院短期大学助教授
季 衛東  き えいとう        神戸大学大学院法学研究科教授
鈴木 賢  すずき けん        北海道大学大学院法学研究科教授
石塚 迅  いしづか じん       早稲田大学比較法研究所助手
國分典子  こくぶん のりこ      筑波大学社会科学系教授
岡 克彦  おか かつひこ       長崎県立大学経済学部教授
――――(執筆順、*は編者)

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