「親ばかフランス紀行'94」
(3)  − シャト−ダン通り10番地 −

 1994年6月22日(水)
 朝食後、訪れたル−ブルにて、旅の疲れから、妻がダウン。妻が宿に帰った後、息子とSAMARITAINE へ水鉄砲を買いに行き、ピラミッド広場に戻ってその水鉄砲でピチュ−ッ、ピチュ−ッと遊んだところまでが前回。

 さて、水鉄砲で遊び疲れたので、「ごはんを食べに行こう」ということになった。宿に帰って、妻に昼食をどうするか聞いてやろうという気も起こったが、別の気持ちがむくむくと湧いてきた。「昼食の後、書籍や資料を日本からFAX で注文しておいたL'Argus に寄ってやろう。」翌日、この出版社に行くつもりだったが、妻と行けば退屈させてしまうに違いない。だから、今日、彼女がいない間に行って、用事を済ませておけば好都合だ。 ホテルの部屋には、昨夕、Buci通りで調達した食料が残っているから、妻を放っておいても大丈夫であろう。息子には、悪いがL'Argus につきあってもらおう。L'Argus のある Chateaudun通りは、オペラ座の北側。したがって、途中、オペラ座周辺にある日本料理店に連れていってやろう。

 ということで、ピラミッド広場を出発。息子を肩車して、てくてくてくてくオペラ座通りへ。オペラ座通りには、日本料理店が沢山あると聞いていたのだが、実際に行くのはこれが初めて。どこに日本料理店があるのだろうと思いつつ、キョロキョロ。息子に、「まだ−−」とせかされた末、初めて目についた日本料理店が、Rue Daunouの「やき」という店。
 20代のひとり旅のときには、なんとなくくぐる気のしなかった「パリの日本料理店」ののれん。「ごはんが食べたいよう」という子供を伴った今は、そののれんを喜々としてくぐって行く。
 「いらっしゃいませ。」 流暢な日本語で、細身の若者氏があいさつ。その店員氏は、息子の傍らの水鉄砲を見ると、早速バキュン、バキュンと遊んでくれた。料理がくるのを待っている間も、店員氏と「にんじゃ」ごっこ。
 「やき」から、L'Argus に「後でうかがいます」と電話を入れておく。
 注文したのは、エビとカニ入りサラダとヒガワリ・テイショク。息子は、何よりもごはんがうれしくてたまらない様子だ。おわん一杯分ぺろりとたいらげた。今回の旅で、ここまで、機内食や慣れない料理ばかり口にしてきた息子は、大満足の様子だ。
 しかしながら、途中から隣席に来られた金融関係パリ支店勤務らしき2紳士の煙草の煙には困った。「忙しい」が口癖の両氏は、煙草をぷかぷか。息子は、口をとがらせて、ふうふうと煙を吹き返そうとしている。そこで、私は、SAMARITAINE で買った例の水鉄砲の入っていた箱で、暑くてあおいでいるふりをしながら、加勢してやった。いずれにせよ、他人の吸う煙草の煙ほど不愉快なものはない。特に食事の場では。(フランスでは、嫌煙家のための法律ができたと聞いていたが、パリの「日本」料理店の中の、日本からの多忙諸氏には、馬の耳に念仏か。)
 煙草を除けば、若い店員氏とのやりとりに久しぶりの和食にと大満足の「やき」だった。ついでに、会計のあと、テ−ブルの上にクレディット・カ−ドを忘れ、店長が後を追いかけてきて届けてくれた...

 さて、オペラ座のところから、Chateaudun通りのL'Argus まで、タクシ−に乗ろうかと一瞬思った。しかし、地図を見れば、Rue de la Chausee d'Antin を北上すれば、突き当たりが Chateaudun通りのようだ。よし、そこまで、肩車歩行攻撃だ。てくてくて く。てくてくてく。
 ところが、基本的なミスを犯してしまった。
 Rue de la Chausee d'Antin の突き当たりのトリニテ教会のあたりは、Chateaudun通りは Chateaudun通りでも、50番地位なのだ。たまたま、地図では、Chateaudunという文字が、トリニテ教会の近くに書いてあったので、錯覚してしまったのだ。
 L'Argus のある10番地はまだ遠い。ノ−トルダム・ド・フロレット教会の前を通って、さらにChateaudun通りを肩車でてくてくてく。肩の上の息子が疲れてきているのが何となくわかる。
 そして、たどり着いたChateaudun通り10番地。
 金融、特に保険を専門とする出版社L'Argus のlibrairie 。この通りには、保険会社のオフィスがよく目についた。スペイン女性的な容貌の美形係員氏と、いかにもキャリアレディ的な眼鏡氏に本を探してもらったり、いろいろ相談す。親切だ。話し合った末、結局、次週再訪し、発送等の手続きをすることにする。

 すっかり、息子はくたびれてしまった。タクシ−を探す。
 なんとか1台つかまえた。そのタクシーの運転手曰く。
 「もう今日の仕事終わって、めし食いに行くとこやったんやけどな。でも、あんたの(子供をせたろうて、必 死にタクシ−探している)姿見たら、止まらなしゃあないわな。」
 息子は、タクシ−の中でバタンと寝てしまった。傍らに大事な水鉄砲。
 Jacob 通りのホテルの横で降ろしてもらう。ぐっすり眠っている息子を抱きかかえて、部屋へ。体調を回復し、待っていた妻に息子を託す。そして、そのまま、私は出かける。
 今回のパリ滞在中、息子の2時間の昼寝タイム・イコ−ル・私の本屋巡りタイムなのだ。休んではいられない。
 Allons−y!!

Katsuyuki Kamei


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