「親ばかフランス紀行'94」
(17) − TGVの中で考えたこと −


TGVの車内。 近くおばあさんに連れられた男の子がいた。
 息子と同じ4歳のレオポルド君。 息子は何となく気になるようだ。あばあさんは後ろの席にいてレオポルド君の隣の席が空いていたので、息子は、思い切って隣に腰掛けさせてもらった。

 見知らぬ子供が接近した場合、いろいろなパタ−ンがあるが、このときは、お互い気にしつつも、まったく口を交わさない状態。 レオポルド君はババ−ルの雑誌を読み、息子は、何やらわけのわからない象形文字を紙に書きはじめた。 黙々と二人並んで別のことをしているのを見ているとおかしい。

 「おやまあ、もう字が書けるのね。才能は伸ばしてあげなきゃ。」とおばあさん。
 「いえいえ、あれは、わけのわからない形を書いているだけなんですよ。」私。
 「じゃあ、字を教えてあげなきゃ。興味を持ってる証拠ですわよ。」おばあさん。
 「はあ。」

   途中、レオポルド君の持っていた"Monsieur ..."シリ−ズの絵本を貸してもらったので、私は読み役をさせられた。

 さて、今回の旅行中、何度かTGVに乗る機会があって、車中で、ほかにもいろいろな子連れ客を見かけたわけだが、あれっと思ったことがある。それは、子供を結構甘やかしているということだ。 甘やかしたおしているという感じさえある。 これは、意外であった。

 「自由の国といわれるが、18歳の成人年齢に達するまで、子供は 「半人間」としてきびしく躾けられる。 両親が夜間外出すれば子供は留守番。  ... 泣いたり駄々をこねたりするのはご法度。」 (「読んで旅する世界の歴史と文化 フランス」新潮社, 1993, P.26)
   

    と、このように思っていたし、そう感じてきた。 したがって、TGV内の光景は意外であった。

 しかし、帰国後、同じ本の、次の箇所(PP.40-41)を読んでなるほどと思った。
  

    「バカンスには「遊び」以外の効用もあるようだ。 子供連れでバカンスを 送る家族を見ていると、親子の関係が都会生活と違うことに気づく。 バカンス中は子供は少々ぐずっても怒られない。 ...  都会ではたえず大人に行動を監視され、叱責されがちな子供たちも、 バカンス期間中は「無礼講」を許されのびのびと暮す。 子供が天真爛漫に ふるまうバカンスは、フランスの子供たちを情緒不安定から救う役割を 果たしているようだ。」
  

    私たちが旅行したのは、バカンスの時期よりは少し早かった。 けれども、バカンス=非日常と考えれば、TGVの車内というのは、フランスの親子にとって、十分に非日常的空間と言えるのであろう。


一つ戻る ホームへ戻る お手紙を書く