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「レティシア」(映画エッセー集)


逆V字形の快楽

〜人生は「ダイ・ハード」じゃない〜



2年前に「ターミネーター2」が大ヒットしました。当時の記録的ヒットだったそうです。しかし、この作品でどうしても好きになれない点がひとつあります。それは、主人公が銃でいくら撃たれても平気であるということです。「ダイ・ハード」の主人公の様に、いかなる困難に直面しても、最後にはチャンチャンとハッピーエンドを迎えるヒーローやヒロインたちを増産してきたアメリカ映画は、ついに銃撃されても死なないという究極のキャラクターを創り出してしまったようです。

 

しかし、「冒険者たち」('66)のラスト・シーンで、アラン・ドロン演ずるマニュが銃撃され、リノ・バンチュラ過ずる新友ロランの目の前で息を引きとるように、銃弾に那たればもろくも崩れ落ちてしまうのが人間です。そんな生身の人間の弱さを描き、いとも簡単にラスト・シーンで主人公を殺してしまったり、不幸のどん底に陥れてしまうことのあるフランス映画の魅力を前号で私は「逆V字形の快楽」と命名し、その一端を紹介させてもらいました。

 

さて、ロメール監督「友だちの恋人」('87)についての恩師大木充先生の解説を以下に引用します。

「この映画に描かれているのは実にたわいもないことです。でも、そのたわいもない出来事の当事者となって日々を生きているのは、スーパーマンでも完全無欠なヒーローでもなくほかならぬわれわれです。われわれは、第三者から見ればたわいもないこと、つまらないこと喜び、悲しみ、苦しみ、悩み、こうして人生をおくっているのです。そう思ってこの映画をみてみると、その面白さがわかってきます。と同時に、この映画は自分自身の人生の面白さを教えてくれるような気がします。ちなみに、「ダイ・ハード」が……あなた自身の人生の面白さを教えてくれたかどうかを考えてみてください。」

(「友だちの恋人」駿河台出版者,1989,P.54より)