コーディネータとして対談を終えた感想

カルロス・ゴーン氏の印象結局ゴーン氏とは




 コーディネーターとして,今回の対談企画を終えて,まず何よりも,ゴーンさんの圧倒的な存在感とコミュニケーション能力の高さを体感することができた。実際に会ってみると,テレビで見る険しい表情は影を潜め,とても温和で表情豊かな人だった。

 ゴーンさんと学生との対話形式という関西で初めての試みをコーディネイトするにあたって,対話が最大限弾むように,アウトラインを練った。テーマ「働くこと」に沿って,ゴーン流企業危機管理の研究をしてきた経験から,「問題解決」をキーワードに設定した。

 本番30分前に,ゴーンさんに慣れて緊張をほぐす目的で,学生代表3人といっしょに,経済部記者によるインタビューに同席した。真剣なまなざしで記者の質問に答える姿に,かえって緊張感は増してしまった。経済部記者インタビュー終了後,顔合わせがあり,私が企画の進行について説明した。この後だった。とても優しい表情に戻ったゴーンさんの方から,学生一人一人に「どこの大学に通っているの?」「何を勉強しているの?」と質問して下さった。短いやりとりだったが,これで学生はすっかりリラックスできた。本番直前の舞台裏,ゴーンさんと私は,家族のことなど,世間話をフランス語で交わしながら出番を待った。

 本番では,多くの希望者から選抜されただけあって,学生代表3人がゴーンさんに問いかけるときの堂々とした態度。あふれんばかりに会場を埋め尽くした人たちがゴーンさんに寄せる熱い視線,メモをとりながら熱心に耳を傾ける姿。質疑応答では,会場から数多くの人々が挙げた手,手,手。


 ここまで人々を魅了するカルロス・ゴーンとは?間近で接して実感したのは,世界で最も注目される経営者は,語りはもちろん,その印象的な顔の表情だけでも,人々に目標を与え,自信を取り戻させ,動機づけすることのできる希代のコミュニケーターだった。

 後日,今回の企画をサポートして下さった日産自動車広報部から連絡をいただいた。「ゴーン社長は,学生との対話の機会をとても大事にしており、有意義なディスカッションだったと申しておりました」と。

(2006年6月17日 『読売新聞』 大阪本社版 朝刊 に一部掲載)