第8章   ブランド経営:

ルイ ヴィトン・ジャパンのケース

 

 本章は,1978年の日本進出以来,成長を続け,日本におけるブランド・ビジネスとして,最大の成功を収めているルイ・ヴィトン ジャパンのケーススタディである。ルイ・ヴィトンの日本における成功の原動力となったのは,ルイ・ヴィトンの日本進出に際して,当時,経営コンサルタントとして,斬新なマーケティング戦略の提案を行ない,その後はルイ・ヴィトン ジャパンの社長として同社を導いてきた秦郷次郎氏の経営手腕である。

 第1節では,秦郷次郎社長の著作『私的ブランド論』およびルイ・ヴィトン ジャパンに関する文献に基づいて,ルイ・ヴィトン ジャパンが展開してきたマーケティング戦略とブランド経営についてまとめる。

 第2節は,筆者が2003 1月にルイ・ヴィトン ジャパン株式会社において行った講演と同社ディレクターの方々とのディスカッション,さらに秦郷次郎社長へのインタビューに基づいて構成している。主なテーマは,@危機管理とコミュニケーション,Aリスクマネジメントをどのように組織するか,Bブランド・ビジネスにおけるリスクとチャンスである。

 

キーワード:ヒストリー クレディビリティ 一貫性 リスクマネジメントの組織 コミュニケーション コーディネーション(調整) タイレノール事件 マーケティング・リサーチ 独創的な仮説

 

秦 郷次郎(はた きょうじろう) 略歴

 高知県出身。慶應義塾大学経済学部卒業後,米国ダートマス大学エイモス・タック・ビジネススクールにて経済学修士号(MBA)取得。1964年ピート・マーウィック・ミッチェル会計士事務所のニューヨーク事務所に入所。1967年東京事務所の経営コンサルティング部門開設に伴い帰国。日本に進出する外国企業のコンサルティングに従事。

1976年よりルイ・ヴィトン社の日本市場開拓に向けたコンサルティングを開始。ルイ・ヴィトン社に斬新なマーケティング戦略のコンセプトを提案。1978年ルイ・ヴィトン社の日本進出に際して,ルイ・ヴィトン日本支店長に就任。1981年ルイ・ヴィトン・ジャパン株式会社設立に際して,代表取締役社長に就任。ルイ・ヴィトンの日本における躍進の立役者。現在,LVJグループ株式会社代表取締役社長。LVJグループ内の数多くのブランドのプレジデント,代表取締役を兼務。著書『私的ブランド論 ルイ・ヴィトンと出会って』(日本経済新聞社,2003年)

 

 

 

第1節   ルイ・ヴィトン ジャパンによるブランド・ビジネスの展開

−秦郷次郎著『私的ブランド論』より−

 

1.ルイ・ヴィトン ジャパンのビジネス・モデルと成功要因

 

 1976年,パリのルイ・ヴィトン本店前に連日できる日本人の長い行列の光景に驚いたルイ・ヴィトン経営陣は,米国の会計事務所ピート・マーウィックを通じて,日本市場に関する調査を依頼した。これをピート・マーウィックの東京事務所の秦郷次郎氏が担当した。秦氏は,「日本市場では,ルイ・ヴィトンの製品に対する支持が高まっている。しかし,販売代理店が,販売量を絞るなど,高価格政策をとっているため,並行輸入業者が乱立して利ざやを稼いでいる。それゆえ,ルイ・ヴィトンは,日本市場進出にあたっては,製品の販売を自らのコントロール下に置いて独自のビジネスを展開すべきである」旨の報告を行った。

 やがて,本格的なコンサルティングを依頼されると,秦氏は,独自のビジネスモデルを提案していった。ルイ・ヴィトンが日本に進出すると秦氏は,同社日本支店の代表に転進し,株式会社化後には社長に就任した。斬新なビジネスモデルと卓越したブランド経営で事業を展開し,現在のブランド・ビジネスの成功へと導いていった。

 そのビジネス・モデルの内容とブランド経営における戦略は次のようなものであった。

 

@合弁会社方式はうまくいかない。合弁事業ではなく,しかも人的資源,資金の投資を必要としない新しいビジネスモデルを構築する。それは,ルイ・ヴィトン社からほとんど資金を出してもらわずに国内で調達する一方,商品はしっかりした管理のもとに販売するという方法である。そのため,当初,二つの契約を成立させる。

1.   ディストリビューション契約:日本での販売先となる百貨店(小売店)と,パリのルイ・ヴィトン社が直接,商品を取引する。百貨店のパリ支店から,ルイ・ヴィトンの倉庫まで,直接,商品を受け取りに行ってもらう。

2.   マネジメント・サービス契約:ルイ・ヴィトンの日本支店と,百貨店をはじめとする取引先が結ぶ契約。ブランド・イメージ,商標の保護,品質の問題の処理,広告・宣伝などすべての業務をルイ・ヴィトンの日本支店が行う。その対価として百貨店から,フランチャイズ保証金とマネジメント・サービス・フィーとして売り上げの一部,若干の広告協賛金を受け取る。

Aこのようにして,もの作りから販売までをコントロールする。

Bライセンス供与によるビジネスは行わない。製造から販売まで100%,自分の手でコントロールすることができないライセンス・ビジネスでは,品質の管理が不十分となりブランド・イメージを落とすリスクがあるなど,将来性がない。

C1981年,日本支店を株式会社化してルイ・ヴィトン ジャパン株式会社設立,直営店である銀座店オープン。これを契機に,ルイ・ヴィトン ジャパンが直接,フランスのルイ・ヴィトン社から商品を輸入し,国内店舗に供給する形式に変更。@で示した2つの契約も一本化し,ルイ・ヴィトン ジャパンが在庫を持つ直営店方式へ移行。これは,「実質的に国内の取引先と,売り場のリース契約を結んでいることになる」という仕組みで,卸売りとは異なる。すなわち,ルイ・ヴィトンが場所と人を借り,自らの基本方針にのっとってビジネスを展開するというもの。」

Dブランドの真の価値を理解してもらうためには,その歴史や伝統,固有の技術,美意識,製品背後になる伝統やストーリーを消費者に正しく伝えることが大切で,店舗はそれを表現する最適な場になると位置づける。顧客との接点である店舗でブランドを表現することを目標にして直営店である銀座店をオープン。

Eルイ・ヴィトン商品の価格決定方式は,原価に一定率(粗利益率)を掛けて価格を決めるという古典的な方法。ルイ・ヴィトン ジャパンによる日本での商品の価格は,1978年日本進出当初,パリでの価格の2.5倍。それを2倍,1.8倍,順次下げていき,現在は,パリでの価格の1.4倍を維持。年に1回,為替相場の変動に従って,価格を見直す。したがって,場合によっては値下げもありえる。ブランド=高いという,ブランド・ビジネスにおける価格の常識を打ち崩した。「すべてのお客様に,同じ価格で販売する」をポリシーにして,値引きを絶対に行わない。

Fブランド・イメージにマイナスを与える何らかの問題が生じたときにはすぐに対策を講じる。問題の目はなるべく早くなくす。1978年に発生した偽ブランド品に対する注意喚起の広告。1985年非正規の通信販売に対する注意喚起の広告。

G当初10年間に展開した日本独自の広告戦略=クレディビリティーの構築=PR・広告の一貫性。「自らを語らず」というポリシーを守ってきたルイ・ヴィトンであるが,日本進出を足がかりに国際的なブランドとなるために,ルイ・ヴィトンがどんなブランドなのかを理解してもらうことが課題となる。最初の実験場である日本において,商品よりも,クラフツマンシップに基づくメゾンブランドとしてのルイ・ヴィトンを紹介することに力点。

欧州・米国における旅行鞄の老舗ブランドとしての認知と異なり,ハンドバックとボストンバックの爆発的人気で知名度を向上させた日本においては,本来のブランドの価値を理解してもらうために,ブランドの背後にある「ストーリーとしての一貫性」を重視。ブランドにまつわりストーリーを物語風の読み物として面白い記事広告に。日本進出の1978年「ルイ・ヴィトン展」開催。女性に偏った日本におけるルイ・ヴィトンのイメージを本来のユニセックスに近づけるために,男性向けライフスタイル誌にインタビュー形式の「セレブリティー・シリーズ」(各分野で活躍中の男性がルイ・ヴィトンのトランクの魅力について語る)広告を掲載。信頼性構築広告として,修理サービスなどのサービスも製品の一部であることを伝える。

H品質にこだわる日本人に対して修理サービスの充実。修理専門のリペアサービスセンターを店舗とは別に設立。

Iカスタマーサービスの充実。サービスの神話化の努力。各セクションから1名ずつメンバーを派遣してサービス・コミッティー設置。サービスの改善を話し合う組織。顧客とルイ・ヴィトン ジャパンを結ぶコミュニケーションラインとして,あらゆるお問い合わせの窓口としてカスタマーインフォメーションサービス(CIS)設置。問い合わせ窓口の一元化。電話応対専門のコールセンター設置。

 

 以上のような独自の新しいコンセプトで,ルイ・ヴィトンの日本における躍進を導いてきた秦社長は,新しいことに挑戦することの意義を次のように述べている。

 

 革新へのチャレンジ(1998年)

 この年の初めに全社員に向かって,「新しいことにチャレンジするときには,必ずリスクが伴います。けれども,リスクを恐れて消極的な態度をとることはせず,本業が好調ないまだからこそ,あえてリスクのある新しいことにチャレンジしよう」と呼びかけたのでした。(『私的ブランド論』177頁)


ブランドの価値 −ストーリーの一貫性−

(ルイ・ヴィトン 表参道店)


第2節 ルイ・ヴィトン ジャパンから見たリスクマネジメント

 

2003131日 ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社 本社に於いて

−ディレクター向け講演「リスクマネジメントの考え方と動向」

−「リスクマネジメントの組織化」「危機管理コミュニケーション」についてのディレクターとのディスカッション

−秦郷次郎社長インタビュー

 

1.講演とディスカッション:「リスクマネジメントの組織化」・「危機管理コミュニケーション」・「ブランドとリスクマネジメント」

 

1.1.リスクマネジメントの組織におけるコミュニケーションとコーディネーション

(亀井克之)リスクマネジメントの組織がどのように考えられるかということで、組織の例を挙げておきましょう。

 まず1つ目が、財務部や法務部、人事部の下にリスクマネジメントを位置づけるということです。財務部の下に位置づけるということは、保険分野がリスクマネジメントをやっているという発想です。それから法務部や人事部、特に法務部にリスクマネジメントを位置づける会社は結構あるのですが、これはコンプライアンスをしっかりやろうという発想でやっているところです。

 2つ目が、アメリカやヨーロッパの企業の中にあるのですが、リスクマネジメント部というところを一部門独立させて、その長をリスクマネジャーとするということです。リスクマネジャーをトップにして、リスクマネジメント部門をつくっている企業があります。一般にアメリカやヨーロッパで、リスクマネジャーという肩書を持って人がやっていることは保険を中心としたリスクコントロールや、保険ブローカーとのやり取り、あるいは保険でカバーされない分をどうするかについての対策などといった、保険を中心としたことが多いです。

 3つ目の考え方は、リスクマネジメントをトップマネジメントのスタッフとして位置づけ、最近出てきた言葉ですが、Chief Risk Officerとするという発想です。ここまで至っている企業はそれほど多くないと思います。

いずれにしても、リスクマネジメントを組織上どのように位置づけようと、重要なのは組織内でリスクに関する共通認識を持つ、あるいは事が起こったときのマスコミ対応とか、行政対応とか、消費者に対するサポートといった、危機管理コミュニケーションの能力です。

(秦郷次郎)現実的には、おそらくうちの会社などだと、各部門の長が当然、リスクマネジメントというのはビジネスのマネジメントの一部としてやっているわけです。だれかに任せるのではなくて、広い意味でのリスクマネジメントは各部門の長が全員が持っていなければいけない。

(ディレクター)ただやはり、全部にかかるリスクと、各部門特有のリスクがありますよね。

(亀井) 今まさにお答えいただいたのが、コーディネーション能力です。各部門で日々リスクはマネジメントしているのですが、それをもう少し上から見る立場。つまり、各部門でリスクを処理しているのですが、それをまとめ上げる立場の方、あるいはリスクについていろいろな事柄があって、各部門間での意識の共有に役立つような調整役となる分野がいるだろうという発想で、私はこの問題を考えるうえで大事なのはコミュニケーションとコーディネーションではないかと思います。

 まず、コミュニケーションという場合には、3つぐらい考えられます。

 1つ目が、リスクに関する情報開示・説明責任。2つ目に、先程も言いましたようにトップから組織全体でリスクに関して共通認識を持つという発想です。もう1つは、最近よく言いますし、本もたくさん出ていますが、いざ渦中に立ったときにどのようにマスコミに対応するのか、どのように正しくお客さんに情報を伝えるのかという危機管理コミュニケーションです。リスクコミュニケーションとかリスクマネジメントとコミュニケーションといったときには、この3つぐらいが考えられるかと思います。あとでお話ししますが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「タイレノール事件」というのが1つのケースとして使えるかと思います。

 その前に、コーディネーションです。コーディネーションというのは、各部門でリスクはマネジメントするのですが、それについてもう1つ総括的な立場から助言・忠告するような役割・発想。もう1つは、トップマネジメントレベルでのリスクの認識・リスクの扱い。それから部門管理レベル、マネジャーレベルでのリスクの認識・扱い。それから現場レベルでのリスクの認識・扱い。その間をうまく調整して、組織全体としてうまくリスクに立ち向かえるようなことを調整するという発想です。

 

1.2.タイレノール事件 −危機管理とコミュニケーション−

(亀井)それでは、タイレノール事件の話をします。

 1982年9月30日にジョンソン・エンド・ジョンソン社のあるマネジャーのところに部下がやってきて、シカゴジャーナルの記者から、「『タイレノール』というお宅の花形商品の鎮痛剤があるが、あれはどうですか。いい商品ですか」と聞いてきた、変な電話があったと言った。そしてもう1つは、「あれはマクニール・コンシューマー・プロダクツという流通会社が流通しているようだが、あの会社はお宅の子会社ですね」というような質問だったそうです。

 そのときにその部下はピンときた。何か変だなということで、すぐ上司に報告して、その上司はすぐにそのシカゴジャーナルの記者に電話をかけたのです。すると、そのシカゴジャーナルの記者は、「実はシカゴのある医院で患者が死亡したのだけれども、その患者の死亡について、どうもお宅の会社のタイレノールが原因だといううわさが流れているよ」と言ったわけです。

 すると、そのマネジャーはすぐに自分の組織上の真上にいた副社長に連絡をとり、副社長はさらに社長に連絡をとって、社長はすぐにマネジャーの会議を招集しました。

 それからどうしたかといいますと、うわさの段階だったのですが、すぐに順番に報告をしてきた副社長、その下にいるマネジャーとともにヘリコプターでマクニール・コンシューマー・プロダクツという会社に飛び、いろいろ事情を聴きました。その結果、花形製品タイレノールに、何か毒物が混入されたのではないかということがだんだんわかってきたのです。

 そこで、まずシカゴレベルで製品の回収、医院に対するいろいろな呼びかけ、注意、それからテレビ広告やあるゆるコマーシャルを停止しました。さらにそういう騒動があった最中に、新たにタイレノールに毒物が混入されたことが確認されるに至って、社長がテレビに出演して、「我が社の製品は危険です。タイレノールは危険です。使うのはやめてください。そして薬局の人はすべて商品を捨ててください。廃棄してください。回収します」というようなことを、ゴールデンタイムに出て堂々と発表したのです。

 もちろん危機管理対策本部もつくられて、タイレノールの回収についての消費者からの電話、それから消費者からの「この間飲んだのですが、大丈夫だろうか」というような不安を訴える電話への対応といったことをしっかりした。その危機管理対策本部のトップには副社長を据えたのですが、実はその副社長はマクニール・コンシューマー・プロダクツの出身者だったのです。このように危機管理に務めたということです。

(ディレクター) 混入したというのは、会社の製造プロセスで、そういう毒物が・・・。

(亀井) それは最初の段階ではわからなかったのです。だから製造段階もきれいに洗ったら、流通段階で何者かが入れたということがわかった。結局、容器の弱点がはっきりわかったから、三重に安全措置を施した容器を開発して、逆に古い容器は必死になって回収して、それに対する広報、呼びかけをして、逆に新しい容器についての情報も出して、それとの交換もやっていたのです。

(ディレクター) では、ジョンソン・エンド・ジョンソンの花形商品を妨害するために、だれかがやったということですか。

(亀井) そうですね。あるいは単にグリコ森永事件のときのように、一般社会的に認知された有名な商品に毒を入れて企業を脅迫しようとしたという事例です。

 結局、これはそのような全社を挙げての、あるいはトップが堂々と「我が社の花形商品タイレノールは危険です。使うのはやめてください。捨ててください」という姿勢が評価されて、結果的にジョンソン・エンド・ジョンソンはその後非常に評価されて信頼を得ているという事例です。

 これで一つ言えるのは、情報を流すときに、政治家的発言はまずやめるということです。つまり、今はこうですが、今後こうしますというようなことは言わない。まず現場で何が起こっているか、現場は今こうなっていますと言う。しかもマスコミに対応する人を一人に絞る。複数にすると、口調も違いますし、話すときの脳の回転も違うため、やはり微妙にばらつきが出る。そうすると消費者を混乱させるということで、一人に絞って、現段階で現場でわかっている情報だけを的確に伝える。もちろん政治家的発言をした方が消費者は収まる場合もあるのですが、あえてそういうことはせずに、現段階でわかっている情報だけをきっちり伝えたということも逸話として残っています。これがジョンソン・エンド・ジョンソンのタイレノール事件です。

 

1.3.ブランド・ビジネスとリスク

(秦) うちのビジネスであれば、一番のリスクは世の中の流れがどう変わるかだと思うのです。世の中の流れが、みんなが持つブランドはもう持たないというような考え方に、ビヘイビア(価値観)が変わるというようなことも一つあるし、だからやはり常に世の中の流れを見極める、リスクを予測するしかないだろうと思います。だから僕はちょっと先生の講座を利用して、ここでうちのマネジメントに言いたいのは、今後、ヴィトンが伸びなくなるのは、どういう状況がどんなふうに起きたときなのか。そういうリスクを各部で考えなくてはいけない。

 だから、僕はこの間説明していたのですが、今度始めたセリュックスである程度それを実験しようと。要するに、人の持っていないものをこだわって持つような人がどういうビヘイビアをするか。そういう人口がどの程度増えてくるだろうかということを検証して、そういう人たちがどんな行動をするかということを、ある程度ブランドビジネスの将来を見るための一つの兆候としてとらえることができるだろうと。広い意味でのうちのリスクマネジメントは、保険でやるところからもうそういうビジネス自身の将来に向かっているわけです。例えば、ヴィトンのようにうまくいっている会社は、それをリスクと呼んでもいいと思うのです。成長戦略ではなくて、どちらかというとリスクマネジメント。どんなリスクがあるか。どんなところから会社がほころびてくるか。それは各分野にあると思うのです。品質の問題ももちろんそうですが、PRの問題もあるかもしれないし、従業員のモラルの問題、そういうあらゆる分野で対策を考える必要があると思います。

 だから常にそれを認識していることが大切ではないかと思います。認識する場合に、では将来をどうして見通すか。今わからないものをどう見通すかといったら、大きな世の中の流れとか価値観が違っているということとか、僕が今年言っているように、だんだん世の中が、個が中心になってきて、政治が変わってきているではないですか。だから、経済もこれからもどんどん変わってきたり、個人の嗜好も変わってくるのではないでしょうか。

(ディレクター) くだらない質問だけれど、リスクを予防できるのがベターなのだが、予防できないからリスクだと思っていて、私は先生から聞く前に、自分なりに、起きたことをどう対処するのかという感じだったのですね。リスク予測、予測できれば対応できるのではないかというのは僕の根本的な考え方なのですが。結局は何が予測できるのかなというのはなかなか・・・。リスクの変化に対応するというのは、ダーウィンの進化論みたいなものですね。

(亀井) ですから、リスクは繰り返し、変化し、隠れているというような状況の中で、いかに発見していくかということですから。例としては、今あるリスクという話になってしまいましたが、基本としてはおっしゃるとおりで、未確認のものとか、今まで想像もしなかったものというのに対する対処が最も大事な問題で難しくてというところです。

 私の方もすごく興味があるのですが、例えば秦社長などは、今週号の『週刊ダイヤモンド』の見出しなどはどのようにご覧になったのでしょうか。

(ディレクター) 「ヴィトンは大丈夫か」と。

(秦) 大丈夫ですと書いておきなさいと(笑)。今、ダイヤモンドに対しては抗議文を。

(亀井) やはりそれはもうきっちりと対応なさっているわけですね。渦中対策ということで。

(秦) もう1つは、やはりメディアとの関係を、ちゃんとチャンネルを開いておいてやらなくてはいけない。だからこんな記事を書く前に、うちにもちゃんと取材に来るように、ということもありますよね。うちは結構セレクティブにしていて、管理者がなかなかうるさいものですから、インタビューはなかなか受けない。受けなくなると逆に恨まれて変なことを書かれることもある。今までも結構見出しと中身が違うものはたくさんあるのだけれど、きっちりそれは抗議を。

(女性) 「Newsweek」などでも一度、ルイ・ヴィトン対グッチという言われ方をよくしたのですが、一度出てしまったものは非常に訂正するのが難しいというのが実感なのです。

 

1.5.社員を増やすリスクと増やさないリスク

(亀井) そうですね。私の方からはやはり、先程話もあったのですが、人というのは組織の中で一番大事なのですが、リスクの温床にもなるので、今は勢いがあってどんどん人を増やされているのですが、そのあたりでいろいろと先程申し上げたようなあらゆることを想定し、想定できたものについては対処が可能ということですから、何らかのことを・・・。

(秦) 人のことですね。人のことは、下手なことを言うと、自社の社員を増やすリスクと、自社の社員を増やさなくて、放っておくリスクと、両方我々は考えて・・・。

(亀井) それで増やされる方をとられたわけですね。

(秦) ええ。放っておくリスクの方が大きいと。サービスが低下することによるブランドイメージを考えると、自社の人間を実際に採って、自社で全部工面することでそういうリスクをなくす。そのかわり、たくさんの従業員を抱えるというリスクは当然出てきます。難しいですね。皆さんによく聞かれますよ。300人とか、たくさん採っていますからね。

(ディレクター) でも、我々としては、たぶん入れた人間に対しては、世代が違いますから価値観ももちろん違ってきます。数も多いですから。我々の時代とはずれて当然だと思いますが、そのずれをなるべく小さくする。今入ってきている人たちの価値観を、我々はきちっと先取りというか読んで、そこにたぶんリスクは隠れていると思います。これだけ大きくなると、人に関してはそういったことを覚悟してやっていかなくてはいけない。ラインも少し弱いところがありますから、ラインの強化と、入ってくる入り口からの情報を把握するということを、今やっているというのが正直なところです。

 

1.6.リスクマネジメントの組織

(亀井) 各部門でリスクはマネジメントするのですが、何かリスクマネジャーとか、リスクマネジメント部門とか、あるいはリスクマネジメントの担当役員を置いて統合的にリスクをマネジメントするのだという発想については、実際に現場におられてどのように感じられますか。

(ディレクター女性) 1か月に一度はマネジメントミーティングがあります。。さっきお話を聞いていて、結構たぶんリスクマネジメント的な組織というのは、そこのマネジメントミーティングに出てくるメンバーかなとは思うのです。わりと、まだこぢんまりとやっているところはあるので。

(ディレクター女性) 個々のセクションでは皆さんやっているのです。営業とか、危機管理とか。ただ横のつながりというのがなくて、会社として、全体として、起こったときにどういう活動、動きをするかという部分まではまだいっていないかなと。まとめるということでは。

(ディレクター) どちらに振れても怖いのかなと。ある責任者がいると、そこへ頼ってしまいますから。ないと、横のコミュニケーションといいますか、コーディネーションができない。そこは同じ組織でも時期によって違うだろうし、状況によって違うのかなと。これは個人的な意見ですが。

(ディレクター) 逆にホットラインがあれば、中で上司とのコミュニケーションがなくなってしまって、すぐ駆け込んでしまうとかね。

(亀井) それはある企業のホットライン担当者がおっしゃっていました。

(ディレクター) そういうのがあると思うのです。結局個人個人が強くなければならなくて、あと価値観。その辺が悩みの種なのです。だからリスクマネジメントチームを営業に置くのか、それともう少し上に置くのか。

 あとは、リスクへの対処というのは、スピードがものすごく要求されるところです。今先生がおっしゃったように、うちのラインで持っていても、わからないことをジャッジを仰いでいましたら、時間がかかってしまうわけです。いつも常駐して席にいるわけではありませんから。私はサービスもやっていますので、そういったところをなんとか・・・。トレーナーを店頭に置いてお客様のサポートをしようとすると、結局こっちは状況がわからないから、両方で聞いてしまうわけです。お客様1人に対して2人が窓口になってしまう。これは逆に僕はリスクなのかなと。

(亀井) 結局,私が話をうかがいました松下電器産業の場合も、法務部の下に企業倫理に絡めて、そして,コンプライアンスに絡めて、リスクマネジメント室を作って、結局人事関連などのリスクについては束ねているけれども、もちろん品質管理は品質管理の部門があるし、保険については財務部でやっているしというかたちですね。だから完全に束ねている例というのはまだまだ少ないようです。

 とはいえ、リスクというものを常に意識して動いていきましょうという発想を全社で共有するとか、そういうことについては、全社的に束ねたリスクマネジメントの組織作りは,役に立つのかなという風に見ています。

(男性3) 自分らもあまりよくそういうことがどういうことかわかっていないものですから、今日話し合ったのですが、たまさかお客様の商品の配送途中で、運送業者がなくしたら、お客さんに対するリスクはものすごく大きいわけです。でもこのリスクは規約が決まっているわけですね。請求するなら、配送業者がなくした場合は配送業者。でもおもしろいのは、お客様は、配送業者がなくしたら、ヴィトンはそういう責任も全部負うぐらいの会社だというイメージを持っていらっしゃるような感じもするのです。ヴィトンて、すばらしいとか。そういうイメージを壊してしまうこともあるよねとかと言って。聞いているときは大したことはないなと思ったのですが、でも、今話を聞いたら、いろいろな視点でものを見た方がいいのだなというのが参考になりました。

(女性ディレクター) そのリスクを束ねる機能を持ったところがどういうかたちであるべきかというか、またあるかということから言うと、上下関係にあるのか、並列のかたちであるのかという質問なのですが、今のお話に出てくるように、仮に各部門に特有なリスクは当然部門の中に配置しておくのですね。

(亀井) はい、そうです。

(女性ディレクター) それ以外の全社的にしなければいけないところ、もしくは、そこの部門の中ではできない、極端な話、そこの中でもみ消される可能性があるということもありますね。だからそういうのが、あえてほかの部門から違ったところにという窓口でもあるのですね。両方の機能を持っていたとした場合には、そういうのはどこにあるのが一番会社で・・・。

(亀井) ですから、トップマネジメントのスタッフとしてあるというかたち、ラインから外れてスタッフとしてあるというかたちが理想ではないか。あるいは、日本ではちょっと形骸化しているのですが、監査役にそういう機能を持たせるとか。今は監査役は廃止するという方向なのですが、本来監査役というのは、うまく機能させれば本当にいいシステムなのですから、そういったところにいわゆるリスクマネジャー的な要素を持たせるのも、おもしろい発想だなとは思います。

 いずれにしろ、部門のマネジャーとトップマネジメントの間にスタッフとして入れて、一応日常的なリスクについては各部門で管理するのですが、そうできないような部分の調整をそういうスタッフでやったり、あるいはトップマネジメントに関する、全般管理に関する非常に重要なリスク事項については、そこが今度はトップマネジメントの方にアドバイスするという感じでいくのが一つの考え方かなと思います。

 

1.7.ブランド・ビジネスとリスクマネジメント

(男性4) 今、ご紹介いただいたいろいろな本の中で、経営戦略とリスクマネジメントということは、経営資源のボトムラインはリスクマネジメントですよね。人、物、金、情報、我々の場合はイメージ。特にブランドというイメージのリスクマネジメントが、経営資源のうちで、我々のようなブランドはすごく大切だと思うのです。

(秦) ブランドのリスクマネジメントは、例えば雪印というのはすごいブランドだったわけですよね。だからあの例から言うと、やはり企業カルチャーですよね。いいかげんなことをしてもいいような企業カルチャーだったら、リスクマネジメントとしては会社の企業カルチャーから変えなくてはいけないことになるのではないかな。それはものすごく大切だと思うのです。

 今ジョンソン・エンド・ジョンソンを聞いたのですが、ブランドはやはり絶対誠実でないといけないと思います。お客さんに対して誠実でないといけない。そのカルチャーがなくなったら、ああいうふうに何か起こったとき、対応がむちゃくちゃになってしまう。ごまかそうとするカルチャーがあって、何とか隠そう、隠してごまかそうという企業カルチャーが。ジョンソン・エンド・ジョンソンのようにドーンと出しちゃうというカルチャーがあるのか。みんながなんとか乗り切るために隠しちゃうというカルチャーがあるのかで。

(女性ディレクター) ブランド系は、こういうラグジェリーブランドは、ある程度我々の心の中で夢を与えるビジネスだから、あまり現実的なことは出さない。べつに隠そうと思っているわけではないですが、出さないことが逆にラグジェリーブランドとして、ブランド価値を高めているのではないかなというところでいくと、誠実であるところの、何と言うのでしょう、それの調整が難しいと思うのです。誠実であることイコール全部リスクの付くところなのか、もちろん時と場合にもよりますが、だから雪印はそこが難しいのかなという気がするのですが。逆に秦さんにそれを伺いたいのですが(笑)。

(秦) 誠実ということとディスクローズとは全然イコールにはならない。ただ、起こったときに、例えば何かまちがったことをしたときは、いくらイメージを与えるといっても隠したりごまかしたりするのはいけない。それで解決するというのはいけない。企業のカルチャーとして。それは長期的にいったらまちがいだと思うのです。だから三菱自動車がそうではないですか。あんな優秀な会社の信用が白紙になってしまうわけですから。ああいうものが最後になってドーンと出てきてしまうのは、企業の根底のところで、そういう問題を抱えているからです。だからイメージが大切であればあるほど、一番初めに起こった小さいときにちゃんと誠実にディスクローズするものはディスクローズする、対応するものは対応するという癖が付かないと。うそを言うと、それをごまかすためにまた次のうそを言わなくてはいけない。また次のうそを言わなければならない。それでうそをずっと言い続けたら、昔言ったうそを忘れてしまっているのです。だからボロが出てくるのですよ。

 私自身の考え方は、いったんうそをつくと面倒だから、最初からうそはつかない方がいいと思います。相当頭のいい記憶力のいい人でないと、うそをつきとおせない。企業も一緒だと思う。パッチワークしすぎると、どんどん忘れてしまいます。ちゃんとだれかが覚えていて、昔言ったことと違うじゃないのというようなことを・・・、やめた方がいいと思う(笑)。そうしないと、社員も多くなってきたり、会社の取引先も多くなってくると、一貫性がなくなるから。だから何しろまちがったことをしたらすぐに改める。そういうことではないかな。それを公にすることを勇気を持ってやるということでしょうね。勇気がいりますけどね。

(亀井) やはり雇用環境の変化で、企業に対する忠誠心とか、そういうレベルの問題もあるでしょうし。

(女性ディレクター2) 世代間で価値観が違っているということについて、同じ常識だと思っても、20代の人がそれを企業倫理に反していると思うかどうか。だから内部告発があったとして、我々が例えばすごい地道な話をしたときに、各部署でリスクマネジメントをしたとしても、その常識がもしかしたらずれているかもしれないということもあるのかなと。もっと若い人たちを入れているほかの会社では、そういったところのずれを直そうとしているのでしょうか。そういうところまでする必要もないのかなと思うのですが。

(ディレクター) 各会社の常識が作られつつあるのではないですか。それぞれの常識があるのかもしれない。情報をとるために、すり合わせに、社員も我々も外へ行くしかない。自分の立場がどうなのかというのをすり合わせに。プライベートでもいいし仕事でもいいし。

(ディレクター) 先程のジョンソン・エンド・ジョンソンの例は、上司に上がって、開示して、回収したのですね。

(亀井) そうです。

(ディレクター) それが上司に上がらずに外部に出てしまったら、内部告発ですね、ある意味では、やらなかったら。

(亀井) そうなりますね。

(ディレクター) 新聞を見れば、よくよく考えれば、横の人しか知らなくて、なぜ部下が言ってくれなかったのということもあるかもしれないですね。

(亀井) ですから、例えば雪印の場合も、和歌山の方から「おなかが痛いという人がいます」という電話が何本かあったのですが、子どもにはよくあることだというので、受け付けた人は最初は取り次がなかった。それから、あれほどタイミングの悪いことはあるのですね。ちょうど株主総会の日で、経営陣は北海道に行っていたということで、きちんと連絡がとれなかったということですね。

(ディレクター) それは今おっしゃったように、年代のギャップだとすると、いささか問題があると思うのですが。

(亀井) あれは年代のギャップというよりは、企業カルチャーの違いではないですか。やはり少しの兆候を見逃さなかったジョンソン・エンド・ジョンソンと、少しの兆候を握りつぶしてしまった雪印の差という感じではないでしょうか。

 あと、雪印の直前に参天製薬事件というのがあって、参天製薬の目薬に何か異物を混入して脅迫する事件がありました。参天製薬は即座に全部回収しました。もちろん全国すべての目薬に異物が混入されているわけはないのですが、全部回収するということを徹底してちゃんとやったわけです。そういうことがありました。

(ディレクター) 例えば人事では,若い人の変化もリスクになるのでは。

(ディレクター・人事担当) おかげさまで、毎年毎日、若い人たちに会わせていただいていますので(笑)。他社よりはましかなと思います。

(ディレクター) やはり営業だったら営業で、新入社員みたいな人としょっちゅう実際会って話をすることが必要ですね。

(女性ディレクター) それで本当に本音が言えるような環境に。


 

(上)講演「リスクマネジメントの考え方と動向」

(下)ディレクターによるディスカッション「ブランド・ビジネスとリスクマネジメント」
2.秦郷次郎社長インタビュー 

 

2.1.意思決定(リスクテーキング)のあり方

(亀井)リスクを伴う難しい判断をするときに、トップとして決断を下されるのですが、そのときの決め手になるものといいますか、どういう感じなのでしょうか。リスクをとるときに、最終的にどういうふうな感じで決断を下されているのかという、そのありよう、どんな話し方でも結構ですので。

(秦) やっぱりカリキュレイテッド・リスクでしょうね。カリキュレイテッド・リスクで、ベルナール・アルノーさんが「慎重でありながらリスクをとる」(コラムC参照) というときは、慎重という意味は、僕はやはり計算がちゃんとできたうえでのということです。だから、ただ単に直感ではなくて、ある程度計算されている。計算されるという意味は、関連する情報をしっかり頭の中に置いたあとでリスクをとるのでしょうね。

(亀井) いまや有名な伝説になっています1978年にヴィトンを日本で始められたとき、新しい、今までには考えられなかった流通のビジネスモデルのようなものを提示されたというのも、それはかなりそういう感じで、計算されたリスクということだったのでしょうか。

(秦) リスクはないのです。ないところから始めるのだからそれは楽です。リスクというもの、というのは小さな会社だったし、これから始めるというのだから、nothing to loseですよ。だから徐々に伸びていけばいいということで同意してもらえば、結局そんなにリスクをとらないで行けるという意味では、創業はそうでしたね。だから思い切って新しいことができたのは、もともと何もなかったからやりやすかったと思います。

 大きなリスクをうちがとったのは、やはりエピを出したときです。最初はモノグラム以外の皮のエピを出すというリスクというのは大議論になったのです。

(亀井) 最終的にそれを判断されたきっかけというか決め手というのは。

(秦) それはパリの方ではっきりしたのです。日本は大反対したのです。というのは、やはりマーケットのマチュリティが違っていたと思うのです。日本のマーケットの保守性もあって、日本ではまだまだモノグラムがすごい余力もあったし、力もあったし、成長できると。ヨーロッパやアメリカでは、モノグラムは頭打ちになったという認識がありました。だからその認識の差で意見が完全に分かれた。パリの方が「いや、ヨーロッパ、アメリカ市場ではどうしても必要だから」ということで、そういうのが主な理由で決心したと思うのですが。

 結果的にはやはりいい影響が日本でも出て、モノグラムも何も落ちないし、エピも非常に順調に売れ始めたということでした。だからあのときは、うちの会社の歴史の中で、非常に大きなリスク・テーキング(risk taking)ではなかったですかね。あれを卒業して、一回はしかにかかったようなもので、あとは結構新しい商品を出していくことにはあまり抵抗がなくなった。

(亀井) では最近ここ数年間の目を見張るような新しい展開についても、あちらこちらにお店を出されたり、直営化とか、そういう動きについても。

(秦) 直営化はあまりリスクをとっているとは思いませんが、例えば新しい商品などが出てくることに対しては、非常にビジネスの基盤が強くなってきたから、少しぐらい遊んでもいいと。要するに、やはりお客さんが変化を求めている時代では、ビジネスの基本になっているような大事なものを揺るがすようなものはできませんが、例えば村上隆さんとか、僕なんか昔だったら、とんでもないと言ってやらなかったと思うのです。

 だけど今ぐらいビジネスの規模が大きくなって・・・。うちのもう1つのリスクはレディ・トゥ・ウエアとシューズもリスクだったと思うのです。エピの経験からきて、だんだん自信を持ってきて、例えばそれらをやって、それがビジネス的にそんなに成功しなくても、イメージ的に、例えばヴィトンは昔からどうしても自分たちのクリエーティビティがあるということを出したくてしょうがなかったのですね。「ヴィトンはモノグラムだけではないか。あんなもの、クリエイティビティが何もない」と言われるのが嫌だったから、何とかしてヴィトンだってやろうと思ったらクリエイティビティはあるのだ。やろうと思ったらできるということを示すことによって、規範のモノグラムを守るという。

 だから、ヴィトンの商品はクリエイティビティがなくて、あんなものを持つのは時代遅れだと言われることがないためには、いや、クリエイティビティがあって、新しいものはいくらでもできますよと。だけど新しいものができたときに、あなた方はどちらが欲しいのですかと選択肢を与えることで、かえって逆にもとのビジネスも強くなる。見直される。という意味では、少しぐらいちゃらちゃらしたものが出てきてもいいのですよ(笑)。という感じで僕は思っています。

 

2.2.独創的な仮説とマーケティング・リサーチ

(亀井) このベルナール・アルノーさんの本を読みました。さらに日本語版が出ましたので、同じ質問を。この本はあるジャーナリストがベルナール・アルノー氏に質問してという形ですが、ちょっといくつか同じ質問をさせて・・・。

(秦) アルノーさんと同じ答えは出せませんから(笑)、同じ質問だと困るのです。

(亀井) では、アルノーさんとのご関係というか。どう思われているのでしょうか。例えば、一応ビジネス的には秦様の方がご先輩にあたる(笑)。

 

(秦) 年代は・・・。

(亀井) 年代もそうですが、ブランドビジネスとしてもはるかにご先輩ですよね。

(秦) 彼はオーナーですから、何かLVMH全体のことを言うときには、やはり一人のスポークスマンしかいないわけです。だから、LVMHのことを言うようなときには、一人に集約して・・・。だから、私が何か言うとすると、ルイ・ヴィトン ジャパンについて言うことはできると思いますけどね。

(亀井) なるほど、わかりました。では、一般的な質問なのですが、例えばこういう質問があるのです。120ページですが、「あなたのビジネスにはマーケティングは欠かせません。あなたはマーケティングの結果と自分の直感のどちらを信じますか。」これは先程の質問の繰り返しになりますが、カリキュレイテッド・リスクということでしょうか。

(秦) そうですね、ビジネスは単純ではないから。マーケティングとは直感かと言われても、そんなにゼロか100かというのはないじゃないですか。いつもどこかで。例えば僕自身は個人的にはマーケティングリサーチというのは大嫌いです(笑)。マーケティングリサーチをやる人は、おそらくよくわかっていないから、何かのときに言い訳するのにリサーチが欲しいという発想でリサーチをやっているのではないかと思う。

(亀井) ただ、先程言いましたように、19751976年ごろですか、ルイ・ヴィトンから秦様は日本市場のリサーチをお願いされたということなのでしょうか。

(秦) マーケットリサーチというよりは、これから日本でどういう店舗の展開とか、事業を展開していったらいいかということです。だから、いわゆるマーケティングリサーチ的なことというか、むしろ市場、並行輸入業者がいっぱいいて、やっているわけです。それのリサーチはしましたよ。それは現状把握ということです。

(亀井) 将来予測ではないと。

(秦) それでいつも、イトーヨーカ堂の鈴木社長が言っているように、リサーチとかそういうものは、自分がつくった独創的な仮説をただ裏付けるためにやるのであって、リサーチからはそこが出てこないのです。リサーチからは独創的な仮説は出てこない。だからリサーチすることが好きな人は独創的な人はいないですよ。数字を集めるのが好きな人で、独創的な人はいない。クリエーティブな発想する人間は、やっぱりすごくクリエーティブな、クレージーな発想、仮説は立てて、その仮説を実証するために、数字を集めて人を説得しなくてはいけないから。人を説得するのに自分に自信をつけるためにリサーチは必要だと思いますけど。

 ただ、どちらが必要だということではなく、やはりスタートは僕は独創的な仮説で、それを裏付けるためにマーケットリサーチが必要だと。

 

2.3.環境問題

(亀井) はい、わかりました。簡単な質問ですが、環境問題についてどう思われますかという質問がアルノー氏の本の中にあったのですが、秦様はいかがでしょうか。

(秦) 僕はだから過剰包装には一生懸命反対しているのです。パリは、ラグジェリーグッズは過剰包装をやらなければいけないと言われているわけです。僕は過剰包装は前から反対しているのですが、がんとして聞かれていないですね。だから、ヴィトンの商品なども極端なことをいえばもう包装しない。それでプラスチックなどはもう使わない。例えば簡単な包装紙で。家に持っていったって、ごみばかり出るだけではないですかと言っているのですが、聞きません。だからみんな大げさにネクタイなどをきれいな箱の中に。そんなものをもらってもしょうがないと思うのですけどね(笑)。だから僕は靴の箱はいいと言っているのです。だから物によるのです。靴箱はいいと言っているのです。なぜかというと、靴箱はスタックアップできて非常にいいのです。それを家に持って帰ると、タンスの中に靴はうまく整理できるのです。あれは包装も兼ねていて、非常にいいアイデアです。だけどネクタイの箱なんかしょうがないでしょう。持って帰って、すぐごみになってしまいますね。自分が使うのだったら。

(女性ディレクター) ただ、紙袋って、そういうお客様は紙袋までに価値を持っている。まだそういうお客様もいると思いますけど。

(秦) だからそれは変えなくてはいけない。うちのような会社がリーダーシップをとって、そんなものには価値はないよと。だけど、それをやるには相当勇気がいります。パリはまだ勇気がないです。

(亀井) では秦様としては、環境問題は大いにそういう点で取り組みなどを実現して興味があると。

(秦) うちみたないところがやると、ものすごく効果があると思うのです。うちが包装紙などは非常に単純な包装で、新聞紙か何かに包んで出すと(笑)。

(ディレクター) 新聞紙?!(笑)。

(秦) まったくの仮定で、個人的な意見だけど,古新聞で包んでくれるとかすると、ものすごく革命的なことになると思うのですよ。それで、これはなぜやるかということをよく説明してね。だから、僕はそう思うけど、お客様でどうしてもごてごての包装をしてほしい人は全部ごてごてにしてあげる。だけど、新聞紙でいい人には新聞紙で包むという。それでお客さんに、「あなたどっちにするの。環境問題に認識があれば、新聞紙でいいですか」「いやいや、自分はまだまだ格好つけたくて」という人はそれで、チョイスを与える。これは個人的な意見ですからね。

(亀井) はい、わかりました。LVMHの見解ではないと。

(秦) それはやはりヴィトンぐらいの強いブランドでないとできないのです。ほかのブランドは怖くてできないと思う。うちなどがやると初めてできるのです、強いから。だから、僕はヴィトンはやれると思っているのです。ディオールではとてもそんなことはやらないと思う、きっと。ロエベでもできないと思う。セリーヌでもできないと思う。だけどヴィトンだったらできるような気がする。

 パッケージングについてはいつも言っているのです。だけど難しいね。

(亀井) わかりました。またこれもアルノー氏の本からの質問ですが、「提供されている商品は物質主義の象徴とされていました。高価ですが、生活必需品というわけではございません。ご自身のビジネスと、いわゆる一般的な精神主義の回復とをどのように」。

結局高価で生活必需品というわけではない物質主義の象徴のようなご商品と、精神主義の回復というようなことをどう両立されますかという質問です。

(秦) 人間の本質は物質ですよ。だからうちの会社は人間の本質に則っていると思うのです。人間の本質を否定するようなビジネスをやったら絶対成功しないです。

 物だけで幸福にはなれない。それはあたりまえですよ。物だけで幸福にはなれません。だからもっとほかにも幸福になることもたくさんあります。だけど、物によって幸福になるという要素は、人類がいるかぎりはなくならないと思います。物質と精神主義というのは,二者択一ではないと思います。

 

2.4.店舗のマネジメント

(亀井) 続きまして、LVMHグループには多くの企業がありますが、どうやって時間を割り振るのですか。一つのブランドや製品のために一日を費やすことはありますかと。

(秦) うちはヴィトンが80%、20%があとのブランドです。

(亀井) はい、わかりました。販売店へのチェックは厳しいのですか。

(秦) いえ、僕は直接は・・・。それはもう、やらなくてはいけないですね。

(ディレクター) フランスのブランドですし、チェックは厳しいです。

あと時間があれば、プライベートの時間でも行けとボスが言いますので。仕事ではなくても、やはり気になりますから、店舗へ行きます。

(秦) そんなこと、言っていないよ(笑)。

(亀井) ただ、採用のときにすべての方の面接は最終的にはされているから、行けば来られたという感じで、プライベートで行かれても。

(ディレクター) 最近は会っていないので、「いらっしゃいませ」を言っていただけるようになりましたから(笑)、隠れて見に行けるようになりました。そこからの情報もとります。そういったマネジメントもやっているか気になりますので。そういったのは共通認識はあるのではないでしょうか。逆にお店としてはうれしい反面プレッシャーだと思います。いつ来られるかわからない。

(ディレクター) だから店だけじゃないですね。やはり時計だとか髪型だとか髪の色とか、そういうものを全部含めて。

 

2.5.尊敬する実業家

(亀井) これもアルノー氏への質問と同じ質問ですが、情報源を教えてください。女性誌はチェックしていますか。

(秦) それはもう情報源というのは、女性誌は全部見ています。全女性誌を。

(亀井) 何冊ぐらいあるのでしょうか。

(秦) 何冊ぐらいあるの? 女性誌は。2030冊はあるね。

(亀井) ではかなりの時間を費やされているという・・・。

(秦) そうですね。

(亀井) わかりました。

(女性) うちは掲載紙は必ず回しています。

(秦) うちのブランドはしょっちゅう出ますから、ほとんど毎週出るから、ほとんど毎週見ることになる。

(亀井) あと、これもアルノー氏の質問と同じですが、実業界で尊敬する方はいますか。

(秦) 私の尊敬する人は本田宗一郎さん。(*補章「リスクテーキングの言葉」参照)

(亀井) はい、わかりました。それからこれもアルノー氏への質問と同じですが、信条は何ですか。

(秦) ないですね(笑)。「ブランドビジネスの根本は誠実である」。いっぱいあるのですが、これ一つというのはないですね。よく壁に掛けたりするようなのではなくて、いっぱい大事なことはあるのですね。信条というのも。だから、これは毎年キーワードにして会社の社員に出していますが。だから信条もあって、信念が大切だとか、いろいろなことを言っていますが、これという、ずっと変わらない信条のようなものは、あまり今までそういうかたちで人にしゃべったことはないですね。

 

2.6.ビジネスの興味と問題点

(亀井) これは私からの質問です。現在のお仕事のどのようなところに魅力を感じられますか。あるいは、ご自身でお仕事のどんなところがおもしろいと日々感じておられますか。

(秦) 明日何が起こるかわからない(笑)。

(亀井) わかりました。では逆に、現在直面している問題のようなものはございますでしょうか。感じておられますでしょうか。

(秦) 問題点と言われると、いっぱいあるかもしれないけれども・・・。

(亀井) 先程おっしゃったような、これからどうなっていくかという・・・。

(秦) そうですね。ヴィトンがこれからだめになるとしたら、何からだめになるかということを予測して、対応策をとることでしょうね。問題と言えば。今はうまくいっているわけですから、うまくいってきたわけですから、特に問題点とすれば、将来のことですよね。

(亀井) アルノー氏の本からの質問で、もう1つだけ。これもおもしろかったのですが。「職業上の不安を感じることもおありでしょうね。どのようにプレッシャーに対処していますか。」ストレスの解消法はという質問があったのですが。

(秦) 職業上は全然プレッシャーなしですね。

(亀井) はい、わかりました。アルノー氏は、そういう場合はすぐ寝ると書かれていました。

(秦) 僕はそういうプレッシャーはないですね。なんとかなると思っていますから。

(亀井) そういうふうにプレッシャーを感じずに突き進んでいける秘訣というのは。

(秦) ビジネスではプレッシャーはないですね。やはり人間関係にはプレッシャーはありますね。いろいろ。いかにしてみんなと会社がうまくいくように人間関係をつくるか、そういうプレッシャーはあります。私自身は、ビジネスがうまくいかなかったらどうしようかというプレッシャーはないです。

 

2.7.望まれる人材像

(亀井)若い学生さんたちへのメッセージをお願いします。

(秦) ヴィトンはいい会社ですよ。

(亀井) わかりました。ずばりルイ・ヴィトン ジャパンとか秦社長が望む人材といいますか人物像というのは。

(秦) 独創的な仮説が立てられる人。

(ディレクター・人事担当) 先生、しばらく今のコメントは封印しておいてくださいね。面接でそればっかり言ってきますから(笑)。秦が言ったと言いますと、そればっかり言うのです。トップがこういう人がほしいと言うと、そればっかり、私はそうですそうですと言ってアピールしてきます。学生さん、情報,早いですから。

(亀井) なるほど。

(ディレクター) 特に関西の方はしっかり情報を共有して来ますので。

(男性) 就職戦線が終わる4月の半ばぐらいまで封印しておいてください(笑)。

(秦) もう1つ言ってください。ヴィトンに入ると男はいい男になれるし、女性はきれいになる。

(亀井) わかりました。

(秦) これは本当ですから。

(亀井) どうもありがとうございました(拍手)。

 


参考文献

秦 郷次郎『私的ブランド論 −ルイ・ヴィトンと出会って』日本経済新聞社,2003年。

Bernard ARNAUT, Passion créative, Plon, 2000.

(杉美春訳『ベルナール・アルノー語る』日経BP社,2003年)

長沢 伸也『ブランド帝国の素顔 LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン』日本経済新聞社,2002年。

「ルイ・ヴィトンの法則 知られざる日本発の最強ブランド経営」『週間東洋経済』2001825日号。

「編集長インタビュー ベルナール・アルノー氏 ブランドの家風絶やすな」『日経ビジネス』200256日号。

 

 


 

(上)ルイ・ヴィトン 表参道店にて

(下)第19回渋沢クローデル賞表彰式(日仏会館)にて

   「ルイ・ヴィトン ジャパン 特別賞」


コラムC ベルナール・アルノーの著書に見るリスクテーキングの言葉

 

LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン・グループ会長であるベルナール・アルノー氏の著書(Passion créative, Plon, 2000 :杉美春訳『ベルナール・アルノー語る』日経BP社,2003年)から,主にリスクテーキング(意思決定)リスクテーキングに関する記述を拾ってまとめてみた。(    )内は日本語訳の頁数を示す。下線は本書筆者による。なお本書の補章においても,何人かの経営者の著作から筆者が選んだリスクテーキングに関する言葉を収録している。

 

「事の成り行きを推しはかるあまり,何ひとつ事を起こすことのできない憶病な心根の人間が,私は大嫌いだ」モリエール  (本の冒頭における引用)

 

Q ガリアーノを迎えるリスクは誰が負ったのですか?

A 非常に重要な決定でしたので,私が責任を持ちました。しかしディオールの経営陣とも相談し,特にクリスチャン・ディオール社長のシドニー・トレダノとは責任を分担しました。熟慮の上での決定です。新しい決定はリスクを伴うものですが,それも計算ずくです。(98)

 

ブランド・ビジネスにおける創造性はマーケティングに優先します。(99頁)

 

Q あなたのビジネスには,マーケティングは欠かせません。あなた個人は,マーケティングの結果と自分の直観のどちらを信じますか?

A 一定のリサーチは実施しています。ただし,仕事上の誤りを避ける効用はありますが,成功のヒントを与えてくれたことはありません。成功は予測できませんし,直観に頼るしかありません。リサーチによって,商品が売れない原因を突き止めることはできます。(120-121 頁)

 

広告はスタート商品の関係性の上に成り立っています。マリリン・モンローとシャネルの5番はまさにぴったりですが,極めてまれな成功例です。強烈な個性の持ち主ほど商品とはしっくりいかず,リスクは大きいと心得るべきでしょう。(131)

 

本来の非合理性は,論理の枠にとらわれない直観をもつことであり,デカルト的な論理とは違う思考によって決定を下すことです。

芸術分野では,非合理性はなくてはならないものです。絵画でも音楽でもモードでも,創造と破壊は同時に進行します。企業の成功は,非合理性と合理性の両方をうまく働かせ,この非合理性を経済的効果に変える能力にかかっています。(156)

 

「もしあなたが地球規模の事業に一年中お金を賭けつづけるなら,二つの制約への対処を学ぶことになる。ひとつはもちろんリスクだが,二番目は慎重さである。

グループの規模が大きくなるほど慎重さが要求される。あなたと一緒に働き,会社に貢献する全社員に対する責任から、自ずと経営者は用心深くなるだろう。事業を始めたばかりの頃はリスクを冒す覚悟もあったのに、今では社員を危険にさらす権利はないと感じている。しかし企業家にとってリスクを冒すことは呼吸のようなものだ。生命を維持し,生き延びるためには欠かせないものなのだ。そのうえ,チームを率いて世界中に進出するようになれば,賭金とリスクが大きくなるだけ一層感動も大きくなる。(234)

 

慎重さとリスクの対立が絶えず繰り返されるにしても、この2つの矛盾をはらんだ経営こそが進歩を生み出すのである。(235頁)

 

(*日本語訳では「慎重さとリスク」となっているが,フランス語の原文では,英語のリスクテーキング(risk taking)に相当するprise de risque となっているので,「慎重さとリスクをとること」というように考えられる。)

 

経営者の生活は判定と意思決定の連続だが,そのプロセスが役に立つことも多い。(235頁)

 

ベルナール・アルノー 略歴 

 1971年,フランスにおける超エリート学校であるエコル・ポリテクニック(国立理工科大学校)卒業。父親が経営する建築会社フェレ・サヴィネル社に入社。1974年社長就任。1982年渡米。1984年に帰国し,クリスチャン・ディオールを傘下に持つフィナンシエール・アガシュ社を再建。1985年ディオール社の社長就任。1989年,ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシーが合併してできたLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンを買収し社長に就任。傘下に数多くのブランドを有する世界最大のブランド・グループを統率する。