新版 はしがき

 

 本書の初版が1998年に刊行されて,はや3年の歳月が流れた。この間,本書の主題であるフランス企業の経営戦略とリスクマネジメントをめぐる環境は大きく変貌を遂げた。フランス経済が好調に推移する中,フランス企業は積極的な経営戦略を展開し始めた。それは,1999年に我が国の日産自動車とグローバルアライアンスを構築するなど,積極的なグローバル戦略を明確に打ち出したルノーに代表される。グローバル戦略展開の一例として,フランス企業の日本進出が近年顕著になっているのは周知のところである。また,フランスにおいては,1999年末のエリカ号座礁による環境汚染問題,同時期に二度発生した暴風雨などの自然大災害,2000年に社会不安を惹起した狂牛病をめぐる食品の安全問題,政界を巻き込んだ企業不祥事件などが発生し,企業と社会を取り巻くリスクとそのマネジメントに大きな関心が寄せられるに至っている。

  1998年以降のこうした大きな環境の変化をふまえて,初版に全面的な加筆修正を施し,新たに5章,合計200頁を加筆したのが,この『新版フランス企業の経営戦略とリスクマネジメント』である。

  本書はリスクマネジメントを経営学の一部分として構成し,経営戦略を展開する際のより良いリスクテーキングのあり方を探求する経営戦略型リスクマネジメントの理論構築を目指すものである。具体的な研究手法として,近年積極的な展開を見せているフランス企業の経営戦略と,経営戦略に伴う投機的リスク(成功するか失敗するかどうかわからないという不確実性)についても論及しているフランス型リスクマネジメント理論ならびにフランス企業におけるリスクマネジメントの実践を分析対象としている。

 新版を公刊するにあたり,新たに次の方々のお世話になった。

  エクス=マルセイユ第三大学・経営学研究所への留学時,DEA課程指導教授のAlain Strazzieri教授には,第14章に収めた知覚リスクに関わる論考をまとめる上でご教示を賜った。戦略論のMichel Montebello教授とサービス・マーケティング研究の第一人者であるPierre Eiglier教授には,フランス金融機関による多角化戦略の最新の動向を分析した第8章執筆の上で示唆を得た。

   1999年春に独協大学の黒川文子助教授のご紹介で入会した日仏経営学会では,早稲田大学の原輝史教授,鈴木宏昌教授をはじめとする諸先生方から大会の度に貴重なご教示を賜っている。最新のフランス自動車産業の戦略を分析した第5章は,早稲田大学で開催された第35回全国大会において行った研究報告に基づいている。

  20001月以来参加させていただいている大阪市立大学商学部「環境リスクマネジメント」研究会では代表の吉川吉衛教授をはじめとする諸先生方と貴重なディスカッションを積み重ね,種々のご教示を賜っている。その成果として,大阪市立大学で開催された日本リスクマネジメント学会第23回全国大会にて,「経営戦略型リスクマネジメントと環境経営」の研究報告を行った。これが,第14章に収めたに環境問題とリスクに関わる論考の基礎となっている。

  新版では新たな研究手法として現地調査の成果を盛り込んだ。Crédit Agricole du Midiの保険責任者Francis Djian氏をはじめ,各企業の諸氏には快く訪問調査や聞取り調査に応じて下さった。

  本書の初版について,大阪市立大学の吉川吉衛教授と,流通科学大学の白石善章教授より書評を賜るという光栄にぞくした。初版に続いて関西大学商学部専任講師の徳常泰之氏には校正の労をとっていただいた。

  以上,ここに心より感謝の意を表する次第である。

20017

亀井克之