修士論文研究計画書

 

053058 川端 康裕 

 

研究テーマ「消費税の複数税率化効果とその影響」

 

目次

1章         はじめに

2章         消費税法のこれまでの経緯と現状

1節         所得課税と消費課税の選択

2節         支出税

3節         税調の議論

3章         シミュレーション分析

1節         先行研究のサーベイ

2節         部分均衡分析

3節         最適課税論の立場からの消費税のあるべき姿

4章 結論

 

問題意識

     日本の財政は公債発行残高が700兆円を超え、財政破綻寸前の状態にあるといえる。

     理論上ではGDPの伸び率>公債発行残高の伸び率場合、持続可能である。しかし、大きなGDPの成長は望めない。→プライマリーバランスの改善が必要である。

     政府支出を減らすのは利害関係があるので難しい

  →増税が必要になる。

 

     効率性や国際的な流れにより消費の課税強化に向かう。

     消費税が高税率になれば所得に対する逆進性が顕著化する

→公平性への配慮から食料品の軽減税率を適用する。

同時にインボイス方式の導入が不可欠である。

 

税制調査会の意見

平成146月の「あるべき税制の構築に向けた基本方針」では、「消費税の税率構造は、制度の簡素化、経済活動に対する中立性確保の観点から極力単一税率が望ましい。仮に、将来、消費税率の水準がヨーロッパ諸国並みである二桁税率になった場合には、所得に対する逆進性の観点から、食料品等に対する軽減税率の採用が検討課題になる」と軽減税率への可能性を示唆している。また、「平成17年度の税制改正に関する答申」でも同様の意見が盛り込まれている。

 

先行研究のサーベイ

最適間接税論の枠組みは、最初Ramsey1927)によって「1種類の非課税財を前提とし、所与の税収額を揚げるという制約条件下で代表的個人の効用関数を最大にするような商品課税を求める1)」発表された。それによって、補整的弾力性命題を中核とする商品課税の最適課税論が提唱された。その後、Diamond and Mirrlees1971)やDiamond1975)、Dixit1979)により分配を考慮に入れた多人数経済や全財の市場需給がバランスするなど理論の拡大が行われた2)

 山下和久(1978)は、θ人の消費者からなる経済で民間財が2種類ある。その第2財の消費は外部不経済効果が生じ、その効果を打ち消すために政府が公共サービスを供給すると仮定している。そして、その仮定では「間接税率は需要の価格弾力性が小さいほど高く、分配特性が大きいほど低いことが必要である。また、第2財については外部不経済効果に対する限界評価の絶対値に依存して決まる大きさだけ税率を高める必要があるとしている3)」としている。

 日本においては最適間接税論の研究は、展望論文として本間正明(1982)がある。また、本間正明、跡田真澄、井堀利宏、中正之(1987)では実際のデータを用いて、最適所得税の分析、所得の捕捉格差がある場合の分析さらに最適直間比率の分析を行っている。

Yon Bun Fou1992)は、Diamond and Mirrlees1971)の多数消費者経済モデルから得られた最適課税の一階条件と線形支出システム、制限つき非線形選好システム用いて実証分析を行っている。そして、結果として「公平性/所得再分配と効率性との両面が考慮に入れられたときには、得られる最適商品課税率が差別税率に向かう傾向がある。しかし、税の目的が主として効率性に限定される場合には、得られる最適税率は均一化に向かう傾向がある4)」としている。

小西砂千夫(1994)では、税の負担感をもりこんだ消費者選好による最適課税分析を行っている。その結果、「所得税は、非課税財を想定しなくても、効用フロンティアを内側に歪め、定額税の場合よりもずっと少ない程度の所得再分配で最適となる。最適直間比率は通常存在し、負担感が最も小さくなるような税収割合を決定すべきである5)」という結論を出ている。

中村正昭(1996)では、線形需要システムと非線形需要システムの2つを用い、実証的なシミュレーション分析を行い均一税と差別税率ではどちらが望ましいかを検討している。その結果、「消費税に効率性と公平性という両視点が考慮に入れられるならば、最適税率は均一化ではなく差別化されるべきであ6)」ると主張している。

橋本恭之、上村敏之(1997)では、応用一般均衡分析により村山税制改革の税負担率と厚生の変化を分析と最適課税論による複数税率を適用した場合の最適税率を求めている7)

宮川敏治(2003)では、「各消費者の選考や賃金獲得能力は私的情報であり、計画者もしくは政府はその分布しか知ることしかできないという情報上の制約が存在する状況では、線形物品税と非線形所得税が競争均衡を通じて実現できる資源配分の集合と誘因両立的メカニズムの計画者が実現できる資源配分が等しいことを証明8)」している。

 

分析手法

分析手法としては、基本的には橋本恭之、上村敏之(1997)では一般均衡分析を用いて行っている分析を、より税制に特化した分析を行うために部分均衡分析を用いて食料品等への軽減税率を行った場合の社会の厚生と税負担率の変化をシミュレーション分析する。具体的には、橋本恭之、上村敏之(1997)では1993年の『家計調査年報』を用いていたのを最新の2004年『家計調査年報』を用いて消費税の複数税率化の影響として厚生と税負担率の変化を分析する。そして、結論として複数税率の必要性や効果を論じたい。

 

 

参考文献

Diamond,P.A. and Mirrlees,J.A.,(1971)Optinal Taxation and Production I:Production Efficiency,II:Tax Rules,American Economic Review 60,295-301.

Diamond,P.,(1975)A Many-person Ramsey Tax Rule,Journal of Public Economics,335-342.

Dixit,A.,(1979)Price Changes and Optimum Taxation in a Many-consumer Economy、”Journal of Public Economics 11,143-158.

橋本恭之、上村敏之(1997)「村山税制改革と消費税複数税率化の評価―一般均衡モデルによるシミュレーション分析」『日本税制研究』34号、p3560 橋本恭之(1998)「税制改革の応用一般応用分析」第4章所収

本間正明(1982)「最適間接税の理論:展望」『季刊理論経済学』33号、p240262(東洋経済新報社)。

本間正明、跡田真澄、井堀利宏、中正之(1987)「最適税制」『経済分析』109巻、p143経済企画庁経済研究所)。

本間正明(1982)『租税の経済理論』創文社。

入谷純(1981)「ラムゼイ型最適課税問題」『経済経営論叢』154号、p101120(京都産業大学経済経営学会)。

入谷純(1986)『課税の最適理論』東洋経済新報社。

入谷純、久我清(1996)「商品税率と非課税財」『国民経済雑誌』1746号、p79107(神戸大学経済経営学会)。

小西砂千夫(1994)「税の負担感を考慮した最適課税分析と最適直間比率」『産研論集』21号、p2144(関西学院大学産業研究所)。

小西砂千夫(1995)「最適課税論の論理構造とその展開」『産研論集』22号、p4984(関西学院大学産業研究所)。

小西砂千夫(1997)『日本の税制改革』有斐閣。

宮川敏治(2003)「線形物品税、非線形所得税体系の最適性」『国民経済雑誌』1885

 6378(神戸大学経済経営学会)。

中村正昭(1996)「最適課税:我が国の消費税に関する実証分析」『山口経済学雑誌』45巻、1号、p95108(山口大学経済学会)。

Ramsey,F.,(1927)A Contribution to the Theory of Taxation,Economic Journal 37,47-61.

山田雅俊(1991)『現代の租税理論』創文社。

山下和久(1978)「消費の外部性と最適課税」『大阪府立大学経済研究』231号、p5666(大阪府立大学)。

Yon Bun Fou1992)「最適課税:公平性対効率性」『山口経済学雑誌』4034号、p123136(山口大学経済学会)。

 

 



1) 入谷純、久我清(1996)p80、l1920引用。

2) 入谷純、久我清(1996)p80参照。

3) 山下和久(1978)p63、l4〜7引用。

4) Yon Bun Fou1992)p135 l2324引用。

5) 小西砂千夫(1994)p42、l69引用。

6) 中村正昭1996)p108 l1618引用

7) 橋本恭之、上村敏之(1997)p92参照

8) 宮川敏治(2003)p63 l58引用