情報化社会の現代、私たちの身近にはさまざまなデータがあります。これらのデータを使いこなすことができれば、きっとみなさんのお役に立てるでしょう。というわけで、「統計データの見方」についてガイダンスしたいと思います。
 まず、統計データの探し方からお教えしましょう。一番手っとり早くデータを探す方法は、何と言ってもあなたの欲しいデータを普段使っている人、たとえばゼミの先生、大学院生、ゼミの先輩等、に聞くことです。しかし、不幸にしてまわりにそういった人のいないあなたは、自分でデータを探さなくてはいけません。統計データを自分で探すには、政府刊行物サービス・センター(大阪の場合には地下鉄天満橋下車すぐの大阪府庁の中にあります)に行って自腹を切って高い統計書−1万円を超すようなとんでもないものもあります−を買い込む、図書館か資料室で借りる、コンピューターのデータ・ベースで検索する、といった選択があります。遊ぶ金はあっても勉強に使う金などない、機械は嫌いだ、うちの大学にはデータ・ベースなんてないというあなたのために、図書館ないし資料室でデータを探すことにしましょう。
 初めて資料室にはいるあなたは、統計書の多さに圧倒されてどこに何があるのかさっぱりわからないことになるでしょう。しかし、欲しいデータが掲載されている統計書の名前がわかっている場合には、資料室に備え付けられている蔵書目録で探すなり、資料室の人に教えて頂くことができます。そもそも、欲しいデータが何に載っているのかがわからない時は、どうしたらよいのでしょうか。そんな時に非常に便利なものとして『経済要覧』(経済企画庁編)という統計書が毎年刊行されています。これには、主要な経済指標が包括的に掲載されています。しかも、過去数年間の時系列データが掲載されているため、これ1冊でかなりのデータが得られます。この『経済要覧』に掲載されているデータには、出所が明記されているので、さかのぼればさらに詳細なデータを入手することができます。同種の便利な統計書としては、『日本の統計』(総務庁統計局)や『経済統計年報』(日本銀行調査統計局)があります。前者は、基本的には『経済要覧』と同じ性格のものです。後者は、日銀がまとめているだけに主要な経済指標に加えて、金融に関係するデータが数多く掲載されています。
 これらの各種のデータを包括的にまとめた統計書は、あくまでも辞書的に使われることを意図したものであり、本格的な分析には向きません。そこで、経済分析に使用される主要な統計書をいくつか紹介しておきましょう。経済学を学ぶ学生なら必ず見て欲しいものとしては、『国民経済計算年報』(経済企画庁編)という電話帳ほどの厚さのある統計書が挙げられます。これは、国際連合から公表された新しい国民経済計算体系(A System of National Account:新SNA)にもとづき、昭和53年以降毎年発表されているもので、国民経済における生産、分配、支出の流れをしめした「国民所得統計」、ある産業がどの産業から投入(input)してどこの産業に算出(output)しているかという商品の流れを示した「産業連関表」、資金の流れを示した「マネー・フロー表」、国民の資産と負債を示した「国民貸借対照表」、海外との取引を示す「国際収支表」から構成されています。この『国民経済計算年報』を使うときには、年度と暦年の両方で表示されていることに注意して下さい。たとえば1985年度というときは、1985年4月1日から1986年3月31日までを意味し、1985暦年は1985年1月1日から1985年12月31日を意味します。その他、『国民経済計算年報』について詳しく知りたい人には、経済企画庁国民所得部編『新SNA入門』東洋経済新報社という解説書をおすすすめします。
 『国民経済計算年報』は、国民経済全体について集計したマクロ・データを取り扱ったものです。これに対して、家計、企業、政府の個別の経済主体を対照としたミクロ的なデータがあります。代表的なものをいくつか取り上げてみましょう。まず、家計を調査対象としたものとしては『家計調査年報』(総務庁統計局)、『貯蓄動向調査』(総務庁統計局)、『賃金センサス』(労働省政策調査部編)等があげられます。『家計調査年報』と『貯蓄動向調査』は、農林魚家及び単身者世帯を除く世帯を調査対象とし、前者では家計収支が、後者では貯蓄と負債の現在高等が得られます。この2つの統計書を使えば、所得階層別や年齢別に消費支出、所得、貯蓄といったデータを作成することができます。この『家計調査年報』と『貯蓄動向調査』には、「収入十分位」とか「標準世帯」といった耳慣れない独特の用語が出てきます。これらの特殊な用語の意味は、巻末に用語の説明としてまとめられています。ちなみに「収入十分位」とは収入の低いものから高いものに順番にならべて10等分することを意味し、「標準世帯」とは夫婦子供2人の4人世帯のうち有業者が1人の世帯を意味しています。『賃金センサス』は、労働者の種類、性別、学歴、勤続年数等の属性別に賃金と労働時間を調べたものです。これは全4巻3,3000円(昭和60年版、最近買うのをやめたので値上げしているかもしれません)とやたらと値段が高くなっています。日本の統計はセンサスという名前がついていると値段が高いので注意して下さい。
次に企業に関しては、『工業統計表』(通産省)、『商業統計表』(通産省)、『産業連関表』(総務庁)等があります。『工業統計表』では、製造業のほとんどすべての事業所を対象としており、従業員数、製造品出荷額等が得られます。『商業統計表』は、3年おきに商業活動をおこなっている全事業所について自由業員数や売上高を調べたものです。この『工業統計表』、『商業統計表』は、ともに『産業連関表』を作成する際の基礎データとして利用されています。『産業連関表』は5年ごとに作成されるもので、前述の毎年作成される『国民経済計算年報』に含まれる「産業連関表」(5年おきに作成される『産業連関表』と区別するためにSNA産業連関表と呼ばれる)との違いは、部門数が多いこと(昭和60年表では529行×408列)と、国内運賃表・商業マージン表・固定資本形成マトリックス・輸入表等の付帯表(詳細は『産業連関表』の解説編を見て下さい)が得られることにより、より細かい分析をおこなえるところにあります。ただし、その作成に極めて時間がかかり、公表されるのはほぼ4年後であるために利用できるデータが古くなるという欠点があります。
最後に、政府に関するデータとしては、政府の予算を調べたいときには『財政統計』(大蔵省主計局調査課)、税収額を調べたいときには『財政金融統計月報(租税特集)』(大蔵省)、『国税庁統計年報書』があります。『財政統計』では、政府の支出の規模や内容が社会保障関係費・文教及び科学振興費といった主要経費別分類、国家機関費(司法、警察および徴税等の諸経費と各行政官庁の本省経費)・国土保全および開発費といった目的別分類、人件費・施設費等の使途別分類などによってあきらかにされています。一方、『財政金融統計月報(租税特集)』、『国税庁統計年報書』は、税制研究者にとって必携の統計書です。特に『財政金融統計月報(租税特集)』には、わが国の税制の仕組みと歴史的推移が掲載されており、極めて有用です。『国税庁統計年報書』では、『財政金融統計月報(租税特集)』に掲載されていない細かい税目ごとの税収額(たとえば物品税の課税品目毎の税収額)が入手できます。
 さて、以上のようにして入手したデータは、それだけでは単なる数字の集まりで、付加価値を高めるためにはさまざまな統計処理を施す必要があります。そこで、計量分析に関する参考文献をいくつか挙げておきましょう。計量分析の本は、どれもやたらと数式が出て来るので難しいと感じる人が多いことでしょう。数式が比較的少なく、かつかなり高度な分析までフォローしている参考書として、刈谷武昭監修『計量経済分析の基礎と応用』東洋経済新報社、伴金美・中村二郎・跡田直澄著『エコノメトリックス』有斐閣をおすすめします。さらに、実際にデータをコンピュータで処理する際には、市販の統計処理のパッケージ・ソフトを入手し、その解説書を読んで下さい。パソコンでは、ロータス社のLotus1-2-3やマイクロ・ソフト社のマルチプラン等が便利です。(いまだとマイクロソフトエクセルがおすすめ。でもマルチプランは軽くていいソフトでした・・・)大学にパソコンがない時は、この際、思いきって購入することをお進めします。最近は値段もかなりさがっていますし、中古を買う手もあります。ただし、パソコンは互換性がないので、ソフトの多いNEC9800シリーズが無難でしょう。
という時代もあったのですが、いまはwindowsであればどのメーカーのパソコンでも大丈夫です。でも初心者にはNECか富士通がおすすめです。ちなみにこのホームページはFMV-BIBLOで作成してます・・・


橋本恭之「経済学学習ミニ情報:統計データの調べ方」『経済セミナー増刊ガイダンス経済学』1989年より加筆修正