第2章 個人所得税の改革

第1節 村山税制改革による個人所得税・住民税の負担構造の変化

(1) 所得階層別の影響

図2-1 所得税+住民税の税率構造(標準世帯):単位万円
図2-2 給与所得控除の改正:単位 万円
 

(2) ライフサイクルの税負担

図2-3 村山税制改革によるライフサイクルの所得税・住民税負担率の変化:1945年生まれ
図2-4 村山税制改革によるライフサイクルの所得税・住民税負担率の変化:1965年生まれ


(3) 所得税・住民税改革の問題点

 ・景気対策と高齢化社会に備えての増税(消費税率の5%への引き上げ)
 ・給与所得控除の引き上げと人的控除の引き上げ
                   ↓
 課税ベースの拡大と税率表のフラット化を

所得階級別申告納税者、税収分布 
所得階級



 
総合課税対象所得:万円
 
分離課税対象所得:万円
 
階級別人員/申告人員

 
階級別申告税収/申告税収

 
階級別申告税収/所得税収

 
総合課税対象所得/合計所得 分離課税対象所得/合計所得

 
70万円以下 57 1 2% 0.1% 0.0% 99% 1%
100万円以下 86 1 3% 0.2% 0.0% 99% 1%
150万円以下 126 1 8% 0.7% 0.1% 99% 1%
200万円以下 175 1 10% 1.2% 0.2% 99% 1%
250万円以下 223 1 11% 1.6% 0.3% 99% 1%
300万円以下 272 2 9% 1.9% 0.3% 99% 1%
400万円以下 343 4 14% 4.1% 0.7% 99% 1%
500万円以下 441 6 10% 3.8% 0.6% 99% 1%
600万円以下 537 10 7% 3.6% 0.6% 98% 2%
700万円以下 632 15 5% 3.5% 0.6% 98% 2%
800万円以下 726 22 4% 3.3% 0.5% 97% 3%
1000万円以下 855 37 5% 5.7% 0.9% 96% 4%
1200万円以下 1,031 62 3% 4.7% 0.8% 94% 6%
1500万円以下 1,237 99 3% 6.3% 1.0% 93% 7%
2000万円以下 1,537 183 2% 8.4% 1.4% 89% 11%
3000万円以下 1,983 432 2% 11.4% 1.9% 82% 18%
5000万円以下 2,737 1,025 1% 13.8% 2.3% 73% 27%
5000万円超 4,626 4,766 1% 25.7% 4.2% 49% 51%
合計     100% 100.0% 16.5%    
出所:国税庁企画課編『平成9年分税務統計からみた申告所得税の実態』より作成
 

年間所得5,000万円超の納税者
  申告所得者に占める比率 0.6% 申告納税額に占める比率 25.7%
  所得税収全体に占める比率 4.23%
  総合課税対象所得 49%
            ↓
  高所得層は総合課税対象所得が小さいので、最高税率引き上げ=金持ち優遇ではない。

第2節 経済のグローバル化と所得税

(1) 各国の所得税制

個人所得課税の国際比較
  

国名

区分

日   本 アメリカ イギリス ドイツ フランス
国税収入に占める
所得税収入の割合
〔10
33.2%
〔10
72.7%
〔9
34.5%
〔9
35.1%
〔9
18.4%
個人所得に占める
所得税負担割合
〔10
3.6%
(5.5%) 
〔10
11.3%
(13.8%)
〔8
10.2%
〔9
6.8%
〔9
3.7%
課税最低限

改正前

12年度改正

245.0万円 113.4万円 384.9万円 294.3万円
382.1万円 368.4万円

最低税率
 [住民税の最低税率]
 10%
[ 5%] 
 10%
[ 5%] 
 15%
[ 4%]
 10%  22.9%  10.5%
最高税率 
[住民税の最高税率]
 37%
[13%] 
 37%
[13%] 
 39.6%
[6.85%]
 40%  51%  54%
税率の刻み数
[住民税の税率の刻み数]
4
[3]

[3]
5
 [5]
---

(備考)1.

 課税最低限は、夫婦子2人(日本は特定扶養親族に該当する子と16歳未満の子がいるものとし、アメリカは子のうち1人を16歳以下としている。)の給与所得者の場合である。

2.

 ( )書は、住民税を含めた場合である。アメリカの住民税の税率は、ニューヨーク州個人所得税による。

3.

 邦貨換算は次のレートによった。
(1ドル= 112円、1ポンド= 180円、1マルク=60円、1フラン=18円)
  

出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/kozin/kozi08.htm

(2) 所得税負担の日米比較

 所得税法上の所得
  給与所得 利子所得 配当所得 不動産所得 山林所得 事業所得 退職所得 譲渡所得 一時所得 雑所得

ステップ1 給与所得=給与収入−給与所得控除
ステップ2 課税所得=給与所得−所得控除
ステップ3 課税所得に累進税率表を適用
 

図2-6 アメリカの個人所得税の仕組み
  総所得(Gross Income)
   ↓
  調整総所得(Adjusted Gross Income)
    =総所得−必要経費(deductions)
   ↓           
   課税所得
    =調整総所得
    −項目別控除(Itemized Deductions) or 概算控除(Standard Deduction)
    −人的控除(Personal exemption)
    ↓                      
   税率表の適用
    ↓
   税額控除(Tax Credit)
 
表2-5 アメリカの所得控除(1994年)
概算控除(Standard Deduction)
 夫婦共同申告          $6,550
 夫婦分割申告          3,275
 世帯主申告           5,750
 独身申告            3,900
主な項目別控除
 医療費(Medical and Dental Expences)
 地方税(Nonbusiness Tax Paid)
 支払い利子(Nonbusiness Interest paid)
 投資費用(Investor's Expences )
 慈善的寄付金(Charitable Deduction)
 盗難、災害損失(Nonbusiness Casualty or Theft Losses)
 転勤費用(Moving Expences)
人的控除(Personal exemption)
   基礎控除    $2,500(1995年)
 
表2-6 アメリカの所得税の税率表
 





 
  1994年       1995年
 課税所得     限界税率
$   0- $22,750   15%
 22,750- 55,100   28
 55,100- 115,000   31
115,000- 250,000   36
250,000-       39.6
 課税所得     限界税率
$   0- $23,350   15%
  22,350- 56,550   28
  56,550- 117,950   31
 117,950- 256,500   36
 256,500-       39.6





 課税所得     限界税率 
$   0- $38,000   15%
 38,000- 91,850   28
 91,850- 140,000   31
140,000- 250,000   36
250,000-       39.6
  課税所得     限界税率
$   0- $39,000   15%
  39,000- 94,250   28
  94,250- 143,600   31
 143,600- 256,500   36
 256,000-       39.6





 課税所得     限界税率 
$   0- $19,000   15%
 19,000- 45,925   28
 45,925- 70,000   31
 70,000- 125,000   36
125,000-       39.6
  課税所得     限界税率
$   0- $19,500   15%
  19,500- 47,125   28
  47,125- 71,800   31
  71,800- 128,250   36
 128,250-       39.6





 
 課税所得     限界税率 
$   0- $30,500   15%
 30,500- 78,700   28
 78,700- 127,500   31
127,500- 250,000   36
250,000-       39.6
  課税所得     限界税率
$   0- $31,250   15%
  31,250- 80,750   28
  80,750- 130,800   31
 130,800- 256,500   36
 256,500-       39.6
 
 夫婦子供2人の4人家族、世帯主のみに収入、子供についてはわが国の16歳以上23歳未満の扶養割増控除の対象とはしない
 1ドル=100円
 
図2-7 日本とアメリカの所得税の税率構造の全体像(夫婦子供2人の標準世帯):単位 万円
図2-8 日本とアメリカの所得税の実効税率(夫婦子供2人の標準世帯):単位 万円
 
国際比較からの教訓
 ・所得税制への依存度は諸外国に比べると低い。法人税(直接税)の減税が必要
 ・高所得者への税率が高い。
 ・課税最低限が高い
 
[Reading List]
石弘光(1990)『税制のリストラクチャリング』東洋経済新報社.
大田弘子(1994)「女性の変化と税制−課税単位をめぐって−」野口悠紀雄編『税制改革の新設計』第6章所収,日本経済新聞社.
貝塚啓明(1986)「税制の基本的改革の方向[2]所得税」『日税研論集』Vol3.
野口悠紀雄(1994)『税制改革のビジョン』日本経済新聞社
橋本恭之(1987)「アメリカの税制改革」橋本徹・山本栄一編『日本型税制改革』第13章所収,有斐閣.
橋本恭之(1988)「アメリカ」『世界の税制改革』第1章所収,日本租税研究協会.
橋本恭之(1998)『税制改革の応用一般均衡分析』関西大学出版部
橋本恭之,「個人所得課税の改革と具体的シミュレーション」『税経通信』Vol.49, No.15,1994年.
橋本恭之(1998)『税制改革の応用一般均衡分析』関西大学出版部.
橋本恭之「直接税中心主義のゆくえ」『税研』Vol.15,No.2,1999年
橋本徹・山本栄一編『日本型税制改革』有斐閣,1987年.
藤田晴(1992)『所得税の基礎理論』中央経済社.
本間正明・跡田直澄編(1989)『税制改革の実証分析』東洋経済新報社.
宮島洋(1986)『租税論の展開と日本の税制』日本評論社,1986年.
CCH Tax Law Editors,1995 U.S. Master Tax Guide,CCH.
Hall,R.E. and A. Rabushka(1985),The Flat Tax, Hoover Press.
Mirrlees, J.A.(1971)," An Exp1oration in the Theory of Optimal lncomeTaxation",Review of Economic Studies,31,175-208.
Tuomala,M.(1984),"On the Optimal Income Taxation: Some further numerical results", Journal of Public Economics, 23, 351-366.

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