山口さやか

利子所得の総合課税化

目次
Tはじめに
U包括的所得税論
V利子所得課税
第一節 利子の定義
第二節 沿革
第三節 利子所得課税制度
第四節 諸外国の利子所得課税制度
W2期間モデル
X住民税
Y利子所得税の総合課税化
Zおわりに

問題意識
 所得税は最も公平な税だと言えるが、日本の所得税制は総合課税が原則でありながら、利子所得は源泉分離課税であり、一律15%(住民税と合わせて20%)の税率で源泉徴収が行われており、総合課税はされていない。これでは、所得税の高い累進税率が適用されず所得税の公平性が保たれない。
だからといって、利子所得を現在の累進税率のまま総合課税にしてしまうと、労働意欲への阻害・家計の資本蓄積への阻害・富裕層の資本蓄積の海外移転等の経済への悪影響につながる可能性がある。
所得税の公平性・効率性を達成する必要がある。

目的
 所得税の最高税率を引き下げ、フラット化し、利子所得を総合課税化することで、実効税率への影響はあまりなく税収は安定し、公平性を確保できるのではと考えられるが、実際にそうであるのか、その他の影響を与えるものがあるのか検討したい。
具体的には、@家計の貯蓄への影響A労働意欲への影響B所得税の公平性・効率性の確保について検討したい。

先行研究
 松浦・滋野(1999)では、全国消費実態調査の個票を用いて、銀行預金と郵便貯金について、源泉分離税率・老人マル優を考慮した各家計の利子所得の実効税率と勤労所得税の限界税率の比較・乖離を検討している。
 林・橋本(1999)では、老人マル優の所得再分配効果を測定し、高齢者間の資産格差の不平等を是正するのに有効でないことを明らかにし、老人マル優を廃止し利子所得の総合課税化をした場合、高齢者以外の世帯・高齢者世帯(所得を得ている世帯は除く)への影響はあまりないことを明らかにしている。

分析手法
利子所得を総合課税化し、税率をフラット化した場合に、所得税の公平性を確保したまま、税収の安定が図れるのか、貯蓄行動・労働意欲等の経済的な影響はどういったものになるのか、基礎研究の実証的な分析を行う。
 ジニ係数・タイル尺度等の不平等尺度を用いて、利子所得課税の所得再分配効果を測定し、総合課税化を検討する。

参考文献
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