補助金等の問題点と一般財源化         橋本恭之
           

1.はじめに
 新たに発足した細川内閣では、知事経験者が首相、官房長官を務めることになり、地方分権への期待は、これまで以上に高まってきている。このような地方分権への追い風の中で、平成4年6月19日に提出された臨時行政改革推進審議会による「国際化対応・国民生活重視の行政改革に関する第3次答申」において提言された地方分権特例制度(パイロット自治体)が、実施の運びとなった。パイロット自治体の指定を受けた自治体は、許認可手続きの簡素化や財源面での特例が認められることになる。この制度により地方公共団体は、特定補助金に象徴される中央官庁のコントロールを離れて、独自の政策とある程度の財源面での自由度が与えられることになる。地方が独自のアイデアをもっていたとしても、これまでは財源面の制約から実現は困難であった。真の地方分権を実現するためには、地方公共団体の自主財源の確保、強化が不可欠である。

 そこで、本稿では以上の様な地方分権への流れの中で、補助金の問題点と一般財源化への方途について議論することにしよう。

2.補助金等の現状

 「補助金」というと非効率的な支出というイメージで捉えられることが多い。しかし、一口に補助金といってもその内容は、様々である。一般には「補助金」は国から地方公共団体へ特定の目的で支出されるものとして認識されている場合が多い。このような補助金は、わが国の法制上、国庫補助負担金、あるいは国庫支出金と呼ばれているものである。これらは、具体的な予算項目としては、補助金、負担金などの名称で計上されている。これに対して使途の制限されていない一般補助金としての地方交付税も存在する。地方公共団体からみると、補助金、負担金のなどの使途の制限されている特定補助金より、使途の制限されていない地方交付税の方が好ましいとされることが多い。

 しかし、特定補助金を全廃し、地方交付税に振り替えるべきだとは一概には言えない。というのは、特定補助金のなかには、本来国がなすべき仕事を地方公共団体に任せていることによる補助金が存在しているからである。

 そこで、平成5年度予算における補助金の現状をみてみよう。補助金は一般会計と特別会計の双方を通じて支出されている。平成5年度の一般会計の補助金総額は、17兆3,209億円であり、当初予算額の72兆3,548億円に占める比率は、23.9%である。しかし、この補助金総額には、義務教育費国庫負担金(2兆6,891億円)、生活保護費(1兆434億円)、老人医療給付費等を中心とする社会福祉費(2兆9,878億円)なども含まれている。わが国の補助金には、法制上「法律補助」にもとづき「負担する」とされている義務的な支出と支出「できる」とされている奨励的な補助金の「予算補助」が混在しているのである。義務教育や生活扶助は、国が当然支出すべき義務的な支出である。このような支出を地方交付税などに振り替えることは、国の負担すべきものを地方に押し付けることにつながる。国と地方のありかたを論じるうえで問題とすべきものは、農林水産省所管や通産省所管の補助金などに見られる特定の産業のみを対象とした奨励的な補助金であろう。

 補助金は、特別会計を通じても支出されている。平成5年度の特別会計の補助金総額は、25兆8,657億円となっている。しかし、この中には、地方公共団体からみて一般財源とみなされている地方交付税交付金15兆4,351億円および地方譲与税譲与金1兆9,509億円が含まれている。地方交付税、地方譲与税を除く特別会計におけるその他の補助金においても、一般会計と同様に、義務的な性格の支出と奨励的な補助金が混在している。

 これらの一般会計と特別会計を通じて国から地方公共団体に交付される補助金には、「定額補助金」と「定率補助金」がある。前者は、国が特定の目的の支出に対して一定額の費用を負担するものであり、後者は、地方公共団体が特定目的の支出をおこなった場合に国が費用の一部を負担するものである。

 地方分権を進めるにあたって問題とされるべきは、このうち定額補助金である。定額補助金には、特定産業への奨励的補助金が多い。国が奨励すべきと考えている事業と地方公共団体が奨励すべきと考えている事業が一致する保証は何もない。しかし、国が決めた補助事業以外の用途に流用することは認められていない。今回のパイロット自治体の第1次申請においては、京都府宇治市が近年増加している市立小中学校の空き室を在宅福祉サービス施設として利用することを求めていると伝えられている。これまでの制度のもとでは、このような工夫は認めれてこなかったのである。

 

表1 補助率の変遷

 

59

60

61

62〜63

平元〜2

3〜4

 5

生活保護費負担金

児童保護費等負担金

街路事業費補助

一般国道改修費補助

8/10

8/10

2/3

2/3

7/10

7/10

6/10

6/10

7/10

1/2

5.5/10

6/10

7/10

1/2

5.25/10

5.5/10

7.5/10

1/2(恒久化)

5.25/10

5.5/10

7.5/10

1/2

5.5/10

6/10

7.5/10

1/2

1/2(恒久化)

2/3(恒久化)

 

 一方、定率補助金には、国の仕事を地方公共団体にまかせていることによるものが多い。補助金のうち国の負担割合を示す補助率は、その補助事業において国が果たすべき役割が大きいほど高くなる。表1は、いくつかの補助金の補助率の変遷を例示したものである。この表では、昭和59年度で比較すると、生活保護費負担金と児童保護費等補助金の補助率は、街路事業費補助と一般国道改修費補助に比べると国の負担割合が高くなっている。このように、社会保障や義務教育などの事業は、国が果たすべき役割が大きいと考えられるので、補助率が高く、「高率補助金」と呼ばれている。

 しかし、昭和60年から国の財政財政再建策の一環として補助率のカットがおこなわれたのである。このカットは、街路事業費補助や一般国道改修費補助といった公共事業のみならず、生活保護費負担金、児童保護費等負担金などの社会保障、義務教育などの高率補助金についても適用されることとなった。昭和61年には児童保護費等負担金の補助率は1/2まで引き下げられている。この補助率の引き下げは、国の財政再建期間中の暫定的措置としてはじまったが、平成元年以降、児童保護費等負担金については1/2の補助率で恒久化され、生活保護費負担金については7.5/10に一部復元されたものの、補助率カットが平成5年度まで継続されることとなった。補助率のカットの一方で、地方交付税の増額がおこなわれたために、補助金の一般財源化がおこなわれたという見方もできる。[1] しかし、生活保護費などの社会保障費は、一般補助金化されても削減することはできない性格の支出である。したがって、これまで国が負担してきた支出をそのまま地方が肩代わりする必要がある。また、地方交付税は基準財政収入が基準財政需要を上回る富裕団体には交付されないために、不交付団体の地域住民は他の地域の住民よりより多くの社会保障費の負担を課されることになるのである。やはり、所得再分配政策は一国全体でおこなうべきものであり、社会保障費などの負担金は、むしろ全額国費でまかなうべきであろう。

3.補助金の理論
 以上の様に、国がおこなうべき仕事を地方に任せていることに対して地方団体に支出されているケースには、かならずしも一般財源化することは好ましくない。それでは、奨励目的で国が特定の目的で補助金を支出しているケースにおいて、一般財源化がどのような意味を持つのかを考えよう。この問題に関しては、従来から財政学の立場から説明されてきた。[2] ここでは、その分析の結論のみを紹介しよう。

 まず、地方交付税交付金のような一般補助金と特定定率補助金の経済効果については、以下のような結論が得られている。国の補助事業の対象となる地方公共財と、国の補助事業の対象とはならないが地方公共団体が必要と考えている地方公共財が存在するとしよう。特定定率補助金が交付されると、地方公共団体は、その流用が認められないにもかかわらず、補助事業の対象となる地方公共財に振り向けていた財源を節約できるので、補助対象事業のみならず、単独事業の支出を増やすことができる。ただし、定率補助金の交付額は、補助対象事業への支出割合が高いほど多くなるので、単独事業より補助対象事業をより促進することにつながる。一方、一般補助金が交付された場合には、地方公共団体は、地域住民のニーズにしたがって自由に補助対象事業、単独事業への支出を増やすことができる。仮に、定率補助金と同額の一般補助金が交付された場合には、一般補助金の方がより地域住民の満足を高めることが知られている。

 次に、一般補助金と特定定額補助金の経済効果については以下のようにまとめることができる。特定定率補助金と同様に、定額補助金が交付されると、地方公共団体は、これまで独自に補助対象事業に支出していた財源を単独事業にまわすこともできる。たとえば、補助金交付前に1,000万円の自主財源を持つ地方公共団体を考えてみよう。補助金交付前には、補助対象事業と単独事業に500万円づつ支出していたとしよう。100万円の定額補助金が国から交付されたとすると、地方公共団体は補助対象事業に支出していた自主財源を節約して単独事業を増やすこともできる。この場合、補助金交付前に国が決めた補助事業の水準を満たしているので、地方公共団体は財源の節約分を自由に使うことができる。したがって、この場合、同額の一般補助金が交付されたのと全く同じ経済効果を持つことになる。

 しかし、国の定額補助金の金額が多くなると一般補助金と定額補助金の経済効果は異なることが知られている。たとえば、定額補助金が2000万円まで増額されたとしよう。この場合、地方公共団体は、少なくとも2000万円は補助対象事業に使わなければならないので、新たに単独事業にまわせるお金は補助対象事業に支出するはずであった500万円に限定される。一方、増額が一般補助金で行われた場合には、このような制約は課されないので、一般補助金の方が地域住民の満足度をより高めることができるのである。

 以上のように、一般補助金は、定率補助金、定額補助金よりも地域住民の満足を高めることができるという点では優れた支出形態であると言える。しかし、その結論は、あくまでも地方公共団体が地域住民のニーズを正確に捉えて行動することを前提としたものである。しかし、現実には地方公共団体の行動に懐疑的な見方も多い。茨城県知事のゼネコン疑惑にみられるように、地方の首長に汚職が見られるのも事実である。尼崎市議会の不正出張問題なども記憶に新しいところである。汚職とまではいかなくとも、一般補助金が公務員の給与の引き上げやデラックスな庁舎の建設に使われる可能性もある。

 また、仮に地方公共団体が地域住民のニーズを反映した行動をとる場合でも、一般補助金よりも特定補助金の方が好ましいケースもある。近年、日本列島各地では、台風などの自然災害があいついでいる。開発により森林の保水能力が低下したことが、台風の被害を大きくしたともいわれている。保水能力の低下は、河川の氾濫につながり遠く下流にまで被害をもたらすことになる。森林保護のための投資は、その地域の住民よりむしろ下流の地域の住民により多くの利益をもたらすことになる。このような外部性が生じている場合には、一般補助金よりも特定目的の補助金の方が望ましい。上流の地域住民の利益のみを考えて地方公共団体が行動した場合には、一般補助金での交付が森林保護への過小な投資を招くことにつながるからである。

4.一般財源化への方策

 補助金を理論的な観点から評価すると、地方公共団体が地域住民のニーズを正確に把握して行動する限り、外部性を生じるようなケースを除けば、補助金の一般財源化が望ましいことになる。さらに、特定補助金での支出は、以下のような行政上の問題点が指摘されている。

 第1に、地方公共団体にとって自主財源と違い、コスト意識が希薄になるために、浪費される恐れがある。第2に、補助金獲得のために、陳情行政がおこなわれ、政治による干渉の余地が生じ、不正を招く恐れもある。第3に、補助金が国の決めた目的に沿って支出されているかを審査するために、複雑な事務手続きやヒヤリングが必要となり、間接的な事務経費がかさむことになる。第4に、既得権化することにより、当初の奨励目的が達成された後もカットされない恐れもある。

 このような理論、行政上の問題点から考えて、基本的には現在の補助金特に奨励目的での特定補助金を一般財源化する方向で検討すべきであろう。ただし、一般財源化といってもその実施にはいくつかの選択がある。地方公共団体にとっての一般財源には、自主財源としての地方税、地方交付税交付金、譲与税譲与金(消費譲与税譲与金、地方道路譲与税譲与金、石油ガス譲与税譲与金)が存在する。

 これらのうち、地方公共団体にとって最も自由度が高くなる選択は、地方税の強化である。しかし、わが国の地方公共団体にはかなりの地域間の経済格差が存在し、その結果として税収にかなりの格差が存在している。図1は、平成3年度における都道府県別の一人当たりの税収額を示したものである。図では、道府県税、市町村税ともに地域間でかなりの格差がみられる。特に、東京、大阪、愛知といった大都市に税収が集中していることがわかる。道府県税でみると、最も税収の多い東京都は一人当たり26万2,012円であるのに対して、最も少ない沖縄県では6万6,893円にすぎない。市町村税でみると、最も税収の多い東京都は一人当たり29万4,606円であるのに対して、最も少ない沖縄県では6万6,893円にすぎない。約5倍近い格差が存在するのである。

 このような地方税の地域間の税収の偏在は、わが国の地方税が所得課税に大きく依存していることに起因するものである。図2は、平成3年度における地方税収を所得、消費、資産の税源別に分類し、一人当たりの税収額を都道府県別に示したものである。ここで所得課税には道府県民税(個人・法人・利子割り)、事業税(個人・法人)、市町村税(個人・法人)を、消費課税には道府県たばこ税、ゴルフ場利用税、特別地方消費税、軽油引取税、市町村たばこ税、入場税を、資産課税には自動車税、鉱区税、道府県固定資産税、固定資産税(土地・家屋・償却資産)、鉱産税、特別土地保有税、事業所税、都市計画税をそれぞれ集計した。税源としての所得課税には、東京、大阪、愛知といった大都市圏への税収の集中が見られ、地域間のかなりの格差が存在している。資産課税には、所得課税ほどではないものの、都市部の地価水準の高さを反映して、大都市圏ほど税収が高くなっている。消費課税については、都道府県間の格差はほとんどみられないことがわかる。一方、地方税に占める割合は、各都道府県において、所得課税、資産課税、消費課税の順となっている。それゆえ、地方税の地域間の偏在がもたらされていると指摘できよう。このような地域間の税収の偏在を解消するには、国税と地方税の体系を再検討する必要が生じてくる。

 そこで、国税についても地域間の税収の構造をあきらかにしておこう。図3は、平成3年度における所得税、法人税、消費税の一人当たり税収を都道府県別に描いたものである。この図では、税収に占める割合としては各都道府県ともに所得税が最も多く、地域間の格差も大きくなっている。法人税については、所得税以上に地域間の格差が大きくなっている。消費税については、東京都の税収額が他の都道府県から突出していることが示されている。図2で示したように、地方税における消費課税においては、地域間の格差はほとんどみられなかった。この違いは、地方税における消費課税が道府県・市町村たばこ税、特別地方消費税、ゴルフ場利用税などいずれも小売段階での課税となっているのに対して、現行の消費税が付加価値税として課税されていることから生じている。最終消費支出にくらべると付加価値額の方が地域間の格差が大きいからである。

 抜本的税制改正の際には、消費税の導入にあたって地方税とすることも検討された。しかし、消費税の税収をそのまま地方税とすることは東京都へのさらなる税収の一極集中をもたらすことにつながる。そのため、現行制度のもとでは、消費税は譲与税および交付税として地方公共団体に配分されている。すなわち、消費税の税収の5分の1(20%)が消費譲与税の財源となり、残り5分の4のうち24%(消費税収全体の約19%)が交付税の財源となっている。消費譲与税は、11分の6が都道府県に11分の5が市町村に譲与される。地域間の税収格差を是正するために、都道府県においては4分の1が人口で残り4分の3が従業員数で、市町村においては2分の1が人口で残り2分の1が従業員数で按分されることになっている。補助金の一般財源化にあたっては、地方税の強化が望ましいとしても、現実的には地方交付税なり消費譲与税といった形での一般財源化をとらざるをえないのである。

5.おわりに
 最後に、補助金を一般財源化する際の留意点をまとめておこう。第1に、現行の補助金をすべて一般財源化することは望ましくない。生活保護や義務教育などは、国の責任でおこなうべきものである。また、奨励的な補助金についても、環境問題など国土全体で対処すべきものについては存在意義が残されている。第2に、補助金の一般財源化に際しては、地方公共団体の節度ある行動が要求される。国民の間には、国よりもむしろ地方公共団体に対する不信感が大きい。真の地方分権を実行するには、地方公共団体の行政能力を高めるため人材の育成も必要となろう。第3に、わが国の地域間の経済力の格差を考えると地方税の強化だけでは、補助金の一般財源化は難しく、消費譲与税の地方への配分を高めるといった措置が次善の策として選ばれることになろう。
 [参考文献]
齊藤愼(1989)『政府行動の経済分析』創文社.
中井英雄(1988)『現代財政負担の数量分析』有斐閣.
橋本恭之・跡田直澄(1991)「硬直化する補助金行政」本間正明編『地方の時代の財政シリーズ現代財政(3)』有斐閣.


出所)『地方財政統計年報(平成5年版)』地方財務協会より作成


出所)『地方財政統計年報(平成5年版)』地方財務協会より作成


出所)『地方財政統計年報(平成5年版)』地方財務協会より作成



[1]中井(1988)は、国庫負担金が削減されたかわりに地方交付税が増額されたために地方団体への影響は財源的には軽微であったと指摘している。

[2]詳しくは橋本・跡田(1991)を参照されたい。