■シネマ◆
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=その3=
ゼミのみなさんへ
もうお盆ですね。
アイス喰って西瓜喰ってカルピス飲んで花火やって、失われた子供時代を懐かしみま
しょう。
前回と同様に本日も『シビル・アクション』『天使のくれた時間』『理由』の3本立
てです。
◆
『シビル・アクション』A CIVIL ACTION
1999年アメリカ
監督:スティーブン・ザイリアン
出演:ジョン・トラボルタ、ロバート・デュバル、キャサリン・クライン、ウィリア
ム・H・メイシー
【ジャンル:裁判もの】
生涯クエンティン・タランティーノに足を向けて寝られないジョン・トラボルタが主
演。
『サタデー・ナイト・フィーバー』でブレークしたあと、泣かず飛ばずの長い年月を
送っていたトラボルタを、タランティーノが『パルプ・フィクション』で「大抜擢」
したんですよね。
この映画はトラボルタがやり手ヤッピー弁護士役の法廷もので、実話に基づく公害問
題のお話です。
『エレン・ブロコビッチ』と同じく悪徳企業による土壌汚染という設定。
当初、ヤッピー弁護士トラボルタくんが、この事件は金のなる木だと手を出すのだけ
れども、だんだんと金銭ずくでなくなってくる。
なんでなの?
その動機づけが描かれていない。
トラボルタくん、なんでそんなに入れ込むようになったの?
しかし、「弁護士国家」アメリカの法律家が示す、あくどいリアリズムとあざとい金
銭欲は執拗に描かれますね。
『依頼人』のスーザン・サランドン扮する女性弁護士の話もそうだったし、新作の
ショーン・ペンの『アイ・アム・サム』もそうらしい。
相手方のマフィアの弁護士はロバート・デュバル。
『地獄の黙示録』では「ナパーム好きのワーグナリアン」していたが、そう言えば
『ゴッドファーザー』でも弁護士役だったね。
実に声がいい。
今や定型的なアメリカの弁護士の姿、正義や理想とは無縁の徹底リアリストで金銭主
義者の身振りをロバート・デュバルが演じるととってもリアル。
トラボルタくんの弁護士事務所で経理役のウィリアム・H・メイシーは、『マグノリ
ア』でも救いのない役をやっていた「ヘンナカオ」系な人。
『ジュラシック・パーク3』ではアホな富豪。『ファーゴ』では主役を張ってたか。
近年のアメリカの救いのない崩壊したアメリカ人像の内面暴露的な役にぴったりすぎ
て、きみが出てくると、あ、後味悪い映画だろうなと予測される。
なんと言っても最近のトラボルタくんは、アルマーニのスーツを着て高級スポーツ
カーに乗るばりばりやり手のヤッピー役をやらせたら、あまりにもはまり役なんで気
分が悪くなる。
きらきらしたお目々と可愛らしくもいんちきっぽい口元の笑顔が、世界の中心にある
者の自己満足をいやが上にも強調する。
『サタデー・ナイト・フィーバー』のスマートなディスコ・ダンサーを知っている世
代には余計に、あのデブ化に圧倒的な衝撃を受ける(なんと言っても「顔が巨大化」
している)。
しかし、おかげで彼は独特の(気分が悪くなるほどの)性格俳優として不死鳥のごと
く蘇った。
よかったねトラボルタくん、肥え太って。
この映画は、自己中心的で「金しか目にない」ヤッピーくんが、どんどん「正義」と
「倫理」に入れ込んでいって、すべてを失って初めて人間回復するってお話です。
この手の「クリスマス・キャロル話型」が最近のハリウッドには多い。
元来、アメリカという国は、大統領が"The chief business of the American people
is business."(「アメリカの本分はビジネスだ」)と宣うたお国柄である。
最近のエンロンやワールドコム問題で、現大統領はビジネスに新たな倫理基準をもう
けるべしと宣うておるが、そもそもビジネスと倫理は相容れないものなんよね。
弁護士家業という名の「裁判ビジネス」って、「ビジネス」と「倫理」がぎしぎしと
こすり合わされる現場となるから、ドラマ的な焦点になり得るんだろう。
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」ってのがトラボルタくんが達した境地である。
遅いんだよ。
ヤッピーくんたち、東洋のことわざを学ぼうね。
そういう「言葉」を知らないと、そういう行為も生じない。
「言葉」こそ世界分節のツールなんだぜ。
◆◆
『天使のくれた時間』THE FAMILY MAN
2000年アメリカ
監督:ブレット・ラトナー
出演:ニコラス・ケイジ、ティア・レオーニ
【ジャンル:「オルタナティヴ・ワールド」ファンタジーのWhat ifもの】
タッグラインに"What if . . . "ものとあるが、なるほどそういうサブジャンルだ。
IMDbのユーザー・コメントに、THIS Week's "Feel Good Film Of The Week"とある。
これまた言い得て妙。現代版・アメリカ版クリスマス・キャロル的な奇跡による夢と
"What if"もののクリスマス・ファンタジー。
二つの世界(ばりばりのヤッピーと凡庸な「家庭人」サラリーマン)の二つの人生を
生きてしまうニコラス・ケイジくんのお話。オルタナティヴ・ワールドということで
す。
それも若いときに、ある「二者択一」の選択(恋人を置いてキャリア・アップのため
にロンドン行きの飛行機に乗るか、それとも引き留める恋人の懇願を聞き入れて乗る
のをやめるか)をした結果、まったく違う未来が待っていたってお話ですね。
ひねりは黒人ギャングの風貌で、実は「天使」であり、スフィンクスのような「謎か
け」をする役割の人が登場するところだが、その意味が今一つ不明瞭。
ヤッピーか、それとも家庭人かっていうハムレット選択肢ならば、家庭人の方がずっ
といいに決まってると観客は思うだろう。
だってそう描いているじゃん。
ヤッピー生活よりも平凡なタイヤのリテイラー稼業の中産階級の人生の方が、ずっと
魅力的でハッピーになってくるため(特に子供と妻のケイトと飼い犬の魅力)、最終
的にそっちの人生を選ぶのが落とし所かと思った(例えば「実人生」の金持ち生活が
夢だったという「夢オチ」とか)。
しかし、そうはならない。
ヤッピーに戻ってから、もう一度「二者択一」の選択を選び直すってとこが、アメリ
カ的なリアリティなんだろうか。
一緒に観ていたわたくしの奥さんは、「こりゃぜったい脚本に失敗している、んな身
勝手な話あっか」とたいそうご立腹であった。
なるへそ、そうか。女の人が観るとそうなのか。
男の方は当初ロンドンに行ってキャリア・アップの道を選ぶ。
ところが今度ケイトの方がキャリア・アップのためにパリに行こうとしたとき、それ
をやめさせてやり直そうと言う(そしてそれが果たされる)。
うむ。確かに、男のための男の寓話か。
そして「男のための男の寓話を決して許さない」というのが、当今の女性の(当今の
女性であるための)パスポートなのである。
「男のための男の寓話」を観たい男性のみなさんは、ひとり静かにこの映画を観るよ
うに。
「男のための男の寓話」を嗤いたい女性のみなさんも、ワインでも飲みながらひとり
で観てね。
「男のための男の寓話」なんぞ観たら怒り心頭に発して怒髪天をついて血圧が上がる
むきは(ジェンダーを問わず)、心身の健康のために観ずに黙殺しましょう。
でも、映画の語法としては、やっぱ媒介者の黒人ギャングの役割が活かされていな
い。
それに、終わりの方で、飼い犬のリースを外して公園で遊ばすシーンがあるけど、あ
れは何?
シンボルの意味不明。
『シティ・オブ・エンジェル』と雰囲気が似たところもあるが、そっちの方がいい。
ケイト役のテオ・レオーニがいい。子役の女の子がうまい。
やっぱ、現代アメリカは、「ヤッピーよ、金と名声を捨てよ。青い鳥は家庭におる
ぞ。家族が一番だ」と好んで訴えておる。
そして、往々にそこからは「男の寓話」が生まれ、「男のための寓話」を生成する。
だって「ヤッピー」というのは「若くして成功した独身男」の謂いであり、家庭とい
うのは「美人の奥さんとかわいい子ども(と飼い犬)」が表象するわけだから。
◆◆◆
『理由』JUST CAUSE
1995年アメリカ
監督:アーネ・グリムシャー
出演:ショーン・コネリー、ローレンス・フィッシュバーン、ケイト・キャプ
ショー、エド・ハリス、鰐
【ジャンル:裁判もの】
ショーン・コネリーに(だいたい)ハズレがないことはご案内のとおりである。
彼ががハーヴァード大の教授で、クレイジーなシリアル・キラーをエド・ハリスが
やってる。
エド・ハリスは、『ライト・スタッフ』『アビス』『アポロ13』と理系のSF顔なん
かと思ってたら、『ザ・ロック』ではショーン・コネリーと共演して、『スターリン
グラード』では狙撃の名手のドイツ将校をやってた。
何でもできる器用な名優だね。
キレた三白眼目がブキミだし(この人何をやっても三白眼で演技する)、つるつる禿
頭に青筋立っているところが恐かった。
この映画の舞台はフロリダの田舎町。
元コーネル大の学生で善良そうな黒人被告の「冤罪」をショーン・コネリーが逆転に
導き、彼を拷問にかけたとされる黒人嫌いの黒人刑事(『マトリックス』ではリー
ダー役で、拷問かけられた側の「強くていい人」ローレンス・フィッシュバーン)が
実はまっとうで正しかったというお話。
鰐も出てきます。
人種偏見に満ちた南部で「よい子」の黒人青年にかけられた冤罪が、東部の「よい
子」の正義の味方老教授によってはらされる、つーのはただしくPC的である。
ところが、まっとうで賢そうな黒人青年が実は「ブチ切れシリアル・キラー」だった
というところが、PCを逆転させまする。
PCを前提に観ているから、いやそれ「のみ」が、後半の逆転の意外性を用意してい
る。
彼が黒人でなかったら、今更、実は彼が悪モンでしたというのはぜんぜん予想外では
ない。
PCに乗っかかるのも、PCを逆転させるのも、PCメンタリティ構造はおんなじだよ。PC
の覇権に囚われているんだよね。
アメリカのよい子も悪い子も、あんましPCをもてあそばないように。大人になんなさ
い。
2002-08-10
Copyright c.2002 by Mew's Pap Co.Ltd.
All rights reserved.
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秋元秀紀
Hideki Akimoto
akimoto@ipcku.kansai-u.ac.jp
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