第9次学習英文法研究会第4回例会 研究発表要旨

 

発表者:堀 智子 (東京工業高等専門学校助教授、関西学院大学大学院博士後期課程)

テーマ:「シャドーイングにおける英語学習者の発話の変化」

 

 シャドーイングとは、連続するモデル音声を聞きながらその音声に遅れずにリピートするという聴き取りと発話をほぼ同時にするタスクのことである。これまで主に通訳者の基礎訓練として用いられてきたが、近年一般の英語教育にも取り入れられてきている。聞こえてきた音声を即座に繰り返すというシャドーイングの即時性が、正しい英語音声知識の長期記憶内での形成を助けるという指摘や、シャドーイングが「復唱力」や「構音速度」を高めることでリスニング力も向上することを示唆する実験結果もある。また、シャドーイングは、学習者のプロソディ感覚を養う上で効果的だとする実践報告も少なくないが、その効果についてはまだ明らかにされていない。

 発表者は、英語発音指導の観点からシャドーイングをとらえ、学習者の発話がどのように変化するかを調べるためにパイロットスタディを行った。7名の大学生に週に1度、約30分間、5週間にわたって約70ワードの英文をシャドーイングしてもらった。その際、発音指導はせず、モデル音声をできるだけ忠実に真似て発音するように伝え、学生の音声を録音した。その結果、発話速度、リズム、イントネーション(ピッチの動きの形)に関しては、シャドーイングの回数を重ねることでモデル音声に近づく傾向が見られたが、各センテンスのピッチ幅はモデル音声と比べて顕著にせまく、広がる様子は観察されなかった。また、音調核がおかれる音節について、長さとピッチ幅がモデル音声と比較してどのように変化するかを調べてみたところ、音節長は、シャドーイングの回数を重ねることでモデル音声に近づく傾向がみられたが、音節内のピッチ幅についてはその傾向はみられなかった。ただし、今回の実験は参加人数が少ないなどの問題があるため、今後参加者の数を増やした上であらためて実験を行い、今回みられた傾向を確かめたいと考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発表者:鍋島 弘治朗 (関西大学文学部総合人文学科助教授)

テーマ:「認知言語学と英語教育―フレーム、カテゴリー、メタファー、構文」

 

 本発表では、認知言語学がどのように高等・中等教育の場に生かされるのかを実践を含めて検討する。認知言語学は、文法を中心とした言語理論として一世を風靡したChomskyの生成的理論に対するアンチテーゼとして70年代から徐々に形成されてきた理論言語学の枠組みである。認知言語学の主要な前提をまとめると以下の通りになる。@プロトタイプ的カテゴリー観の採用、A統語の自律性の否定、B百科事典的語彙観、C意味論と語用論の区分の否定、DConstrual(世界構築/解釈)的言語観、E学際的な研究の推進、などである。

認知言語学では、10かの二者択一的なカテゴリー観を廃し、Rosch (1978)などが提唱し、人間のカテゴリー認知に顕著といわれるプロトタイプ的カテゴリー観を採用している。これはあらゆる言語的カテゴリーに表出する(Taylor, 1989)が、そのひとつの表れが、統語(語の組み上げルール)と辞書の連続性の主張である。認知言語学では、統語を様々な生産性を有するイディオム構文として辞書と連続的に捉えようとする立場を取る。

 語彙も現実的に考えれば百科事典的語彙観(Haiman, 1980, Langacker, 1987)となる。例えば「犬」の意味を考える際、最小限の弁別可能素性を設定して犬の意味を述べたところで、我々の知る犬の形状、感触、性質、鳴き声を表したことにはならず、文脈に関しても同様で、具体的な使用の場面は言語から切り離すことができない。よって認知言語学では意味論と語用論の区分を否定し、会話、談話としての言語に焦点を置く。

 また、個人の感覚、知覚、認知が外的状況をどのように切り取るかに注目する認知言語学では、言語は客観世界を反映するのではなく、客観世界を切り取る主体の認知を反映すると考える。さらに、認知科学の一分野として、コンピュータ科学、哲学、心理学、神経科学などの分野との知見の交換と相互乗り入れを重要視する。

 本発表では、このような認知言語学の立場から、文法を中心に、英語学習、英語教育を

検討する。