トピック:ロボットは心を持つか


・ロボット【robot】〔チェコスロバキアの作家チャペックの戯曲中の造語〕(1)人造人間。 (2)人間に似た動きや形態をもち,複雑な動作をコンピューター操作で自動的に行う装置。「産業用―」

・サイボーグ【cyborg】〔cybernetic organism から〕生物に,生物本来の器官同様,特に意識しないでも機能が調節・制御される機械装置を移植した結合体。宇宙空間など,生物体にとっての悪環境下での活動のために考えられたが,現在は電子義肢・人工臓器など,医療面での研究が進められている。

・ロボ・サピエンス【robosapiens】〔英語 robot(自動機械・装置)およびラテン語Homo Sapiensより〕1.純粋な生物であるヒトをはるかに超えた知能を有する、人間とロボットのハイブリットで21世紀に出現。2.地球に生存する太陽系の最優性種。(メンゼル・ダルシオ 2001、p.16)

・ヒューマノイド【humanoid】 SF などで,人間の外形をした生命体やロボットのこと。人間型。

・ソシオイド【socioid】人格的交流の対象とする生身の人間以外の擬似人格的存在の総称。ヒューマノイドとはちがって外形ではなく、心理的交流を基準としたカテゴリーである。動物、人形、ロボット、死者、想像の友達、妖怪、精霊、神など。


1. チューリングテスト、中国語の部屋、Eliza

人工知能(AI)は『知能』のある機械ことです.しかし,この知能とは何かという疑問が生じます.そこで,知能についての有名な議論のお話しましょう.


1.1.チューリングテスト

1950年に数学者チューリングはチューリングテストという,知能があることに関する実験を提唱しました.それには,2台のディスプレイの前にテストをする人がいます.1台のディスプレイには隠れている別の人が,もう1台は人間をまねるように作られたコンピュータが受け答えした結果がそれぞれ出てきます.テストをする人はどんな質問をしてもよいとします.例えば,詩を作らせたり,音楽の感想を聞きます.また,コンピュータも人間をまねる努力をします.例えば,わざと計算に時間をかけたり,間違えたりします.こうして,テストをする人がどちらが人間でどちらがコンピュータか分からなければ,このコンピュータには知能があるとするのがチューリングテストです.


     図1. チューリングテスト                図2. 中国語の部屋


1.2.中国語の部屋

では,チューリングテストをパスすれば知能のある機械,すなわち,人工知能といえるでしょうか?これには有名な哲学者サールの『中国語の部屋』という反論があります.これは,英語しかわからない人が部屋にいます.その部屋には,中国語がわからなくても,中国語の文字を書いてあるとおりに置き換えると,中国語の受け答えができてしまう完璧な説明書があります.つまり,この部屋の人は,英語しか分かりませんが,中国語の質問に中国語で答えることができます.ということは,中国語の受け答えができるだけでは,中国語が分かるとは限らないことになります.同様に,まるで知能があるような受け答えができるかを調べるというチューリングテストに合格しても本当に知能があるかは分からないという反論です.

 あなたは,知能とはどんなことだと思いますか?

アラン・チューリング:彼は,チューリングマシンと呼ぶコンピュータの理論的基盤を与えたことで有名です.彼の業績をたたえたACMのチューリング賞はコンピュータ科学で最も権威ある賞となっています.

ジョン・サール:本当に心のある「強いAI」と,知的に見える活動をするのみの「弱いAI」という概念を与え,強いAIは実現不可能であるとの有名な人工知能批判を行いました.

(http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai/whatsai/AItopics3.html)


1.3.ELIZA

 「コンピュータにカウンセリングを代行させる。このアイデアが生まれたきっかけは1960年代に遡る。それは、MITの人工知能研究者であったWeizenbaumが開発したELIZA(イライザ)と呼ばれるコンピュータ・プログラムに端を発する。ELIZAは自然言語による対話システムであり、ユーザがキーボードから入力した文字列に対し、文字列で応答する。このシステムの大きな特徴は、“クライエント中心療法”、または“非指示的カウンセリング”などと呼ばれるロジャーズ派のカウンセラーをシミュレートするようプログラムされている点であった。なぜそのような特殊なシチュエーションが選ばれたかといえば、カウンセラーがクライエントに具体的な指示や助言を与えず、もっぱら聞き役に回るカウンセリングにおける応答スタイルが、コンピュータにユーザとの会話を維持させるシナリオとして都合がよかったからである。ELIZAプログラムを利用すると、たとえば次のように会話が進んで行く。利用者:「最近、眠れないんです」→ELIZA:「眠れないんですね。そのことについてもう少し詳しく話してください」。このように、システム自身は具体的に答えず、ユーザに発言を続けさせるようなメッセージのみを返すため、会話が続けられるという仕組みである。しかしごく単純なプログラムであるため、すぐにあきられるだろうと考えた開発者自身の予想に反し、ELIZAと会話した人達は皆、あたかも人間と会話をしているような錯覚に陥り、そのシステムにはまったという。このような、応答するコンピュータ・プログラムに対し親しみが生じる現象は“ELIZA効果”と呼ばれている。」(http://www.u-gakugei.ac.jp/~hfujino/botmama/botmama.html より)

http://www.ycf.nanet.co.jp/~skato/muno/  人工無脳に関する優れた考察

http://www3.sohonet.ne.jp/  おしゃべりロボットbot-mama


2.人工知能からロボティックスへ

2.1.人間の能力の逆立ちの人工知能、さらに宙返りして原点回帰したロボット

  人工知能では、コンピュータの汎用記号処理能力によって問題解決を行わせようとした。論理的な問題は、プロダクションシステムなどによってコンピュータにも解けるようになってきた。1997年には、コンピュータプログラムがチェスの世界チャンピョンを破るまでになった。しかし、日常言語をつかい常識的な会話をすることは今日でもできない。コンピュータの能力は記号論理や二値数学を基盤にしたものである。これに対し、人間の能力は、環境との感覚・運動的な相互作用を基盤にしている。



          図3.コンピュータの逆進化

  論理的な記号処理を基盤にするのではなく、人間と同じく環境との感覚・運動的な相互作用を出発点として、機械に問題解決をさせようとするのがロボティックスである。二足歩行や、手の操作、パターン認知など、人間がたやすくおこなっている課題が、機械にはかなりむつかしいことがわかったが、近年になって研究はかなり進んできた。言語についても、直接知識として与えておくのではなく、環境との相互作用を基盤に、共同注意と模倣によって、ちょうど人間に子供と同じようにして、学習させようとする試みも始まっている。


2.2.前言語能力としての共同注意(Joint Attention)をそなえたロボット

「視線・指さし・ 表情など, 赤ちゃんがコトバを獲得する以前からもっているコミュニケーション手段は, ヒューマンコミュニケーションに大きな役割をはたしています. 自閉症などの コミュニケーション障害をもつ人は, これらコミュニケーション手段をうまく利用することができず, 結果として,コトバの適切な使用や社会的なやりとりがうまくできません.本研究の目的は, このような「前言語的コミュニケーション」能力を ロボットに実装することをとおして, ヒューマンコミュニケーションのメカニズムを解明することです. 現在,Infanoid というロボットを 製作しています.このロボットに,視線や指さしによって「人間と注意を共有する能力」を実装しようとしています.」(http://www2.crl.go.jp/jt/a134/xkozima/research/indexj.html  より)


3. エージェントについて

3.1 エージェントの定義

与えられた外界を把握し、外界に反応や変化を起こすことのできる行為の 主体、または代理人


図4:エージェントの概念図

上記の機能を電子的に実現したプログラムは、「ソフトウェアエージェント」、あるいは単に「エージェント」と呼ばれる。


3.2 エージェントの特性(Wooldridge 1995)

自律性(Autonomy) 自らの知識や情報を活用して自主的に問題を解決

社会性(Social Ability) 人とエージェント、エージェント相互のコミュニケーション能力

反応性(Reactivity) 環境への臨機応変な対応性

自発性(Pro-activeness) 自発的に行動を開始


3.3 エージェントの概念的分類

自律エージェント(Autonomous Agent) 各自の活性化の仕組みや、意思決定原理機構に基づき動作する。自律性 を協調する場合に用いられる。単純なアクションを行うものは、特に、 リアクティブエージェント(Reactive Agent)と呼ぶ場合もある。

知的エージェント(Intelligent Agent) 心的状態(メンタルステート)を持ち、問題解決や学習機能を有する。 知性を協調する場合に用いられる。


3.4 エージェントの社会的分類

単体エージェント(Single-agent) エージェント社会における行為や意思決定の最小単位を指す。または、知 的エージェントのように、単体で高度な知識処理をするために、他のエー ジェントと独立して機能できるシステムを指す場合もある。

マルチエージェントシステム(Multi-agent system) 複数のエージェントが存在し、コンフリクトや交渉という過程を経て協調的に動作する社会。

ポリエージェントシステム(Poly-agent system) 現実の市場のように、複雑な意思決定を行うエジェントが多数存在する社会。各エージェントは、社会全体の仕組みを各自でモデル化した「内部モデル」を持ち、その内部モデルに基づいて社会的活動を行う。エージェントの活動の過程で、社会の仕組みも内部モデルも動的に変化していく。


3.5 エージェントの機能的分類

インターフェースエージェント(Interface Agent) グラフィカルユーザインターフェースや、自然言語インターフェースを備えた ユーザフレンドリーなエージェント。

移動エージェント(Mobile Agent) コンピュータネットワークを移動し、情報収集や交渉などを行うエージェ ント群。インターネット上の検索エンジンのために情報収集をするものを、 特に、Web探索ロボット、スパイダー(Spiders)、ボット(Bots)と呼ぶ。 電子マーケット専用のネットワークを渡り歩くエージェントとしては、 テレスクリプトエージェント(Telescript Agent)などがある。

ビリーバブルエージェント(Believable Agent) 人間や動物のような自然な表情や動きを備えたエージェント。=擬人化エージェント(Humanoid Agent)


4.ロボットと感情、意識

4.1.ペットロボットについて

「ロボットセラピーはRobot Assisted Therapy (ロボット介在療法)とも呼ばれる。Animal Assisted Therapy (動物介在療法)の代りとして近年急速に研究が進められている。動物介在療法は古くから西欧などで乗馬療法など試みられており歴史は古い。最近では水中で行うイルカ療法などが有名。動物を介在させることで対人関係を気兼ねすることなくリハビリが行えることや、近年では精神的なヒーリング効果から、加療期間が短縮化するという効果も報告され注目されている。しかし感染症や動物アレルギーなどに対する予防が不可欠であるうえ、そもそも“動物嫌い” の人たちにとっては、単なる苦痛でしかないというマイナス面もある。したがって、医療の現場では感染症の可能性や衛生面で問題視され、積極的に導入する機運はまだまだといえる。

 そこで近年のロボット技術に注目して、動物のかわりにペット型ロボットを使おうというのがロボット介在療法の目的である。ロボットは無機質な機械のため、医療の現場にも抵抗なく導入できるのではないかと期待を集めている。プログラムによる予測不能な動きや進化する感情表現といった刺激は、生きた動物以上とも言われ、通常のペットに対するのと変わらない感情移入なども芽生えるといわれる。

【ペット型ロボットの現状】ペットロボットの種類:アイボ(イヌ)、パロ(アザラシ)、ロボピー(人間)、ワンダー(ぬいぐるみ)等 

・ メンタルコミットロボ アザラシ型「パロ」 *2002年版ギネスブックに「世界一癒し効果があるロボット」と認定された アニマルセラピーで実際に動物が人間の心を癒やしていることに着目し、動物型ロボットの開発を始めた(柴田氏)。心理実験を重ねた結果、人がロボットに癒やされるために一番大事な要素は触感である、という結論に到達。」

(http://www.okayama-u.ac.jp/user/le/psycho/member/hase/yh-seminar/2002b/Tada_21022.html  より)

http://www.aist.go.jp/aist_j/topics/to2002/to20020315/to20020315.html  世界一の癒しロボット パロ

ペットロボットの機能的特徴

・幼形進化的形態とふわふわした触覚  ・前言語的共同性と言語的応答

・感情的反応  動作・眼のかたち・音声  ・学習機能・個性的反応


4.2.ロボットは感情や意識を持ちうるのか

 感情的インタフェースをもちコミュニケーションを行う擬人化エージェントは様々に開発されている。しかし、これらの擬人化エージェントが感情を持っているわけではない。感情を持っているかのように振る舞うだけである。では機械は感情や意識は持ち得ないのか。かりにナノテクノロジーにより人間と同様な炭素原子の有機体による分子構築をした機械が作られたなら、これへの感情や意識の付与を否定することは原理的にはできないだろう。しかし現在のシリコンチップによる情報処理機械ではいくら進歩しても感情は持ち得ないとする議論がある(シートウィック1993、p.226)。人間の脳では、ニューロン間のインパルスのシナプス伝達だけでなく、ホルモン、ペプチドなど多種多様な分子による液性伝達(Volume Transmission)が 行われており、これをシリコンチップで模倣することはほぼ不可能だからである。大脳皮質は同じ処理単位の集まりからなり、人間の脳のなかでは比較的コンピュータ的なところで、大脳皮質における認知的情報処理のコンピュータによる模倣は比較的容易である。しかし、辺縁系を中枢とする感情的情報処理では液性伝達が重要な役割を果たしているなど、コンピュータによる模倣は困難である。シートウィック(1993)は、大脳皮質は補助的役割をはたすにすぎず、人間の脳の中枢は辺縁系であり、意識も感情的情報処理に関連していると主張している。


参考文献

「HAL伝説 : 2001年コンピュータの夢と現実」 D・G・ストーク編 1997 早川書房

「ロボサピエンス」 メンゼル・ダルシオ 2001 河出書房新社

「未来のアトム」 田近 2001 アスキー

「共感覚者の驚くべき日常-形を味わう人、色を聴く人-」 シートウィック 1993 草思社

「知の創成--身体性認知科学への招待--」 ファイファー・シャイアー 1999 共立出版