概要

 スタ−ロゴによる複雑系理論の具体的な解説とその思想的含意の検討、著者が創始者のひとりである社会的相互作用にかんするソシオンの理論の簡明な解説、グラフや絵記号、マンガなどの視覚記号の記号論的検討の三部構成で、環境・エージェント間相互作用として、人間の心と社会をとらえようとするこころみがのべられている。

 

目次

 序章 エピステーメの往還 

 I.分散的相互作用 

  1章.分散的相互作用の探求

 II.社会的相互作用の理論 

  1章.ソシオン理論への案内 

  2章.ソシオンの一般理論 

 III.視覚の記号論

  1章.視覚記号の原理について

  2章.修辞学と視覚表示

 人名索引

 事項索引

 

 

   

 

竹森川春風夜曲

 二千年期元年の万愚節と拙著の出版を祝し、愚生のふるさと竹森川のほとりで、春の一夜、俳句や短歌の類を十一ほど詠みました。本の表紙の写真は、竹森川の東側の山裾から撮ったものです。

 

白梅の垣根隠れに鄙の家

 

忌々したわわに実る杉花粉

 

唐草を空に描いて葡萄棚

 

流れ来るヴィオリンの音胸打ちぬ

        悔いのごとき思い出もあり

 

山陰はあちこち修行の座禅草

 

林間の光の底にひとりたつ

        静かに咲けり片栗の花

 

葡萄の葉西域の空はるかなり

 

岡にたち空を見上げつ梵(インドラ)の  

        遍(あまねき)き網のめぐりて止まず

 

春風に星の光の柔らぎぬ

 

白梅の枝を透かして星光る

 

山間の星降る村に梅香る

 

 竹森川春風夜曲は、白梅の句を枠にしたので、蕪村にあやかろうとしました。蕪村はおろか、曲というのもおこがましい、すかたんな内容ですが、とりあえずは、一日の時間がながれ、昼の白梅の村ではじまったのが、夜の白梅の村でおわるようになっています。座禅草は、竹森の山陰の湿地に自生しています。花のすがたが座禅をしているようにみえるので、この名前があります。座禅草の自生地の奥には、ブナなどの喬木の明るい林があり、春には片栗の花が咲きます。「梵の遍き網」は、概念的な歌です。「インドラの網」という小品が、宮澤賢治の西域童話のひとつにあります。場所的にも時間的にも遍在する、互いに照応しあう華厳教的な因果関係の網の目のことです。本で紹介したスタ−ロゴやソシオンは、遍在するネットワーク過程として、自然現象や心、社会をとらえるためのツール、中心化の心性をこえて、諸法実相をみるための概念の眼鏡のひとつです。ですから、これは本でつたえたかったもののみかたを歌にしたものともいえます。本の表紙にあるネットワークの図は、うまく描けてませんが、意図としてはインドラの網をイメージしたものです。葡萄は、甲州の特産で、やや季節はずれの感もありますが、枝が空に描く模様や葉の様子がいかにも西域の産らしいので、インドラの網の歌と村の情景描写の句の、つなぎとしていれました。